『好き嫌い』
「好き…嫌い…好き…嫌い…」
花びらを一つ摘んでは千切り。
隣を一つ千切り。
また一つ。
「花占い? 珍しいことするね」
「嫌い…好き…」
「綺麗な花だね。マーガレット、だっけ?」
「ちょっと離れててよ」
「いいじゃんか。見てるだけなんだから」
「気が散るんだよ……。って、やばっ」
「どうかした?」
「次がなんだったか忘れた……。
最後どっちだったっけ?」
「ちなみに、聞かれてもこっちも覚えてないからね」
「邪魔されただけかーい!!
っく…、思い出せそうで思い出せない……!」
「ごめんって。
……ところで、何を真剣に占ってたの?」
「それは…、
……………秘密」
まだ半分花弁を残した、白いガーベラが宙をふわりと舞った。
『最悪』
君にだけは知られなくなかったのに。
ずっと隠してた秘密がバレた。
悔しそうに顔を歪めた君は、
泣きそうな顔で笑顔を作った。
「君が1人になってしまう前で、よかった」
触れてきた君の手は温かくて、
変わらない温度で抱きしめられた。
「君がいなくなってしまったら、耐えられない」
やめて、やめてくれ。
君にこの秘密がバレたとしても、抱きしめてくれるってわかってた。
それでもずっと秘密にしてきたのは。
君にこの秘密がバレたとしたら、君の人生も滅茶苦茶になってしまうってわかってたから。
だから隠していたのに。
「一緒に連れてって」
君がならそう言うってわかってたけど、
どうしても選んでほしくなかった。
君は知らないままを最悪だと思うのだろうけど、
こっちはわがままを最期まで貫くつもりだったのに。
「最悪だな。計画変更しなくちゃならないじゃんか」
『楽園』
楽園なんて、見たこともないのに。
わかりやすく立て看板のある場所でもないだろうに。
空想上の楽園を目指して、
友人は旅に出てしまった。
曰く、楽園とは花々の咲き乱れる美しい場所だとか。
曰く、楽園とは死後の世界だとか。
友人の主観によると、
楽園はこの世に実在するものであり、
きっと素晴らしく素敵なところなのだろうと語っていた。
だから友人は旅に出た。
きっと見つける、その時は君も招待するよと言ってくれていた強くて優しい私の友人。
しばらくは手紙のやりとりがあったのに、
今ではすっかり途絶えている。
私の送った手紙がうまく届かなかったのだろうか。
それとも、見つけた楽園が楽しすぎて私のことなど忘れてしまったのだろうか。
『刹那』
カメラでたまたま撮れたお気に入りの画角。
1コマずつ目に焼き付けていく最高の瞬間。
短時間だったはずなのにはっきり蘇る後悔。
一瞬の煌めきとも言われるように、
短い時間に心を奪われることがある。
何気なく生きている時には気に留めることもない
1秒1秒が、惜しく思える瞬間がある。
2度と訪れることのない刹那の時。
今この時だって、その瞬間は更新されてゆく。
「刹那」って言葉、そうそう使わないですよね。
意味合いとしては「一瞬」とか「ほんの短い時間」だとかそういうもののようで。
上の文章がそうであるように、幾らでも言い換えがきく言葉だと思うんです。
それでも、わざわざ「刹那」という言葉を選択する。
そういう意図って、何なのでしょうね。
何故だか私には、この言葉は寂しく儚いように感じでならないのです。
たった漢字二文字に想いを馳せるひとときも悪くないと思うのです。
『生きる意味』
私の生きる意味って何なのだろうか。
そもそも、どうして生きているのだろうか。
きっと、いろんな奇跡が重なって何事もなく無事に
生き残ってきた結果が今なんだろうけど。
他人に優しく鈍感に、のんびりと生きてきたけれど。
能天気に、考えなしに生きてちゃダメらしい。
物心ついた頃には、「良い子」にしなくちゃいけないと思っていた。
喚いて怒鳴って癇癪を起こしては周囲を困らせる妹のようにはなってはならないと思った。
長女なんだからこれをしなさい、も守らなくちゃいけないのだと思った。
気づいたら受け身の自分が完成していて、
ずっと反抗期みたいな態度の妹の方が自立していて、
「いつまでたってもガキみたいに」って言われて。
なんだろうね。
世話のかからない子どもであろうとしていたら、
手間のかかる大人になってしまった。
いや、大人名乗れるほど完成してもいないけれど。
生きる意味って、何ですか?
どれだけ考えても、動けないまま時だけ進んで答えが出ないんですよね。
まあ、でも。
答えがないこともわかってるんです。
でも、「生きる意味」って要するに
「自分がどう生きたいか」ってことだと思うんです。
もっと簡潔に言えば「将来の夢」ってとこでしょう。
私にはそれがない。
気づいたら受け身の状態から抜け出せなくて、
自分の感情も意見も自分で否定してしまうことばかり上手くなった。
ちなみにこれは自分じゃ制御ほとんどできなくて、良いなと思った次の瞬間には自分の中でアンチみたいなのが湧いてきてあっという間に否定意見が上回る状態。
自分の本音がどこにあるのか、見つけることすら下手くそになってしまった。
相手の様子を見て出方を伺うことしかできなくて、
好きなものを聞かれた時でも、相手にとっての正解の
答えを自分の中に探している。
そんなことしてる奴が自分が追い求める夢なんてものが見つかるわけがないのだ。
何を選んだところでそこには誰かしらの影響が潜んでいるし、
そもそも助言なしには動きが鈍ってしまうし、
見つけたとしても周りの反応が怖くて立ち所に自分で自分を滅してしまう。
気づいた時点で既に詰んでいるのだ。
もうどうしようもない役立たず。
これだけの自己否定と思考の悪循環に嵌ると、無気力になって動けなくなるのを回避するために「何も考えない」をするしかなくなるのだ。
つまりは繰り返しである。
とはいえ今は、
仮ではあるが生きる意味とやらを設定できている。
あの人だけは、私の中にアンチが湧いて来ようが、
何がいいのかさっぱりわからないと他人に言われようが、揺るぎなく好きでいられた。
これからもこんな自分で生きていくしかないのだからどうせなら彩は多く、楽しい方がいい。
どうせ足手纏いなんだから何を生き甲斐にしたってかわらねぇんだから。
私が唯一最高と断言できる、
くっだらない配信のために。
無駄に過ごすあの時間のために生きてやる。