緒方

Open App
10/28/2023, 9:42:23 AM


この家の前は、いつも紅茶の香りがする。

平凡な通勤途中の、ちょっとした楽しみ。

ソファーから無理矢理体を起こして向かう早番の日も、終電へ急ぐ帰り道も。

品種なぞ分からずとも、それは確かな幸せの欠片。

穏やかな誰かのティータイムと、今を忙しなく生きる私。

二つを繋ぐのは、香り高い一杯の紅茶。


【紅茶の香り】

10/21/2023, 2:43:48 AM


始まりはいつも、君から。

少し低い体温を頬に感じて、その手にすり寄る。

声もなく笑う君が、より一層近くなって。

そのまま溶かされるように、ふわふわ、ふわふわと。


指先から痺れるような愛を唯、傍受しているの。



【始まりはいつも】

10/13/2023, 1:31:06 PM


遠くを見つめる、真っ黒な目。

光を一つたりとも受け入れない深淵。

人の行き交う駅前で、君一人が異質だった。

夜の羽虫が電灯に引かれるように、私は君の魅力に逆らえない。

掠れた声で名前を呼べば、首だけがこちらを向いてくれる。

美しい口もとが、緩く弧を描いて。

君はそのまま、くしゃりと顔を歪ませて笑った。

子供のように無邪気に、悪魔のように美しく。


気高き美が年相応に揺れるとき。


それは、禁断の果実を喰らう、背徳の味。



【子供のように】

10/6/2023, 11:27:19 AM


ちょっぴり肌寒い秋風が、均一に並んだプリーツをなぞってゆく。

18℃の夜に惜しげもなく晒される、白い生足。

首もとを飾る大きな襟が、彼女達の若さを表していた。


もう戻らない確かな青春に、ほんの少しだけ。

未だ尚、その痛みは濃く、色付いたまま。


【過ぎた日を思う】

10/3/2023, 3:56:39 PM


運命の人と巡り会えたら、どうなるのだろう。

触れるだけで指先が痺れるように熱くて。

重ねた唇には、かすかな甘さが残るのかもしれない。


一枚の板を挟んだ世界は、あまりにも幸せそうで。

うつむいた先には、剥げかけたネイルが見えた。


私は、そちらで生きていないから。

白馬の王子様なんていないことは、とうの昔に知っているのに。


【巡り会えたら】

Next