あぁ、どこまでも清く美しい君。
私の叫びなど知らず、遠くへ羽ばたいてゆくのね。
そこはきっと、貴方を苦しめるものなど何もない楽園。
暖かな光が、世界を白く染め上げているんだわ。
君に優しく、私には痛みだけを残すその世界。
いっそ羽を毟ってしまえば、君はここに留まれる?
だってほら。
周りが黒く歪むほど、君の白は美しい。
その気高い様を、真に理解しえるのは私だけ。
醜く淀んだ、私だけでいいのに。
【モンシロチョウ】
欲しい。愛が欲しい。
君に優しくなんてできないけど、君に優しくされたい。
純然たる愛、油よりもどろどろのやつ。
甘やかして、ただ甘やかしてよ。
そうして白い息も灰色の町も、全部全部染め上げて。
嫌、やっぱり。やっぱりさ。
全て放って連れ出して、引き返せない位に。
痕が残るほどの力でこの手を引いて。
できたらそのまま私の首を絞めて。
お願いだよ君。どうか私に、愛を注いで。
【愛を注いで】
惰性で続けていたゲームを遮る、一つの通知。
タイルを追うスピードのまま、現れた文字を確認した。
日曜、昼から、二人きり。
送り主は、空色のアイコン。
思わず指が止まって、画面だけが世話しなく切り替わる。
これは、これは。
休日、予定、何もない。
もちろん? いや、嬉しいな?
沢山の言葉が、頭の中をぐるぐる、ぐるぐる。
あぁ、この時をずっと待っていた。
待っていたから、こそ。
ねぇ、誰か教えてよ。
私、どうすればいいの?
【どうすればいいの?】
君さえ居ればいいと、そう決めた。
君が幸せでいられるのなら、他の全ては些末なこと。
君の何気ない明日のため、僕の全てを捧げると。
それが私の、一番の幸せだと。
そう決めた、筈なのに。
目まぐるしく動く視界の中、知らない筈の君の笑顔が浮かんで消えない。
ねぇ、その顔は誰に向けたものだったっけ。
本来なら、隣に、僕が。
そこには確かに、有限かつ微かな光があった筈で。
一粒の雫が、重力に逆らって離れてゆく。
本当に、本当にこれで良かった?
私は、僕は、幸せか?
あぁ、出来ることならもう一度、君と。
理想郷の完成まで、あと10cm。
【理想郷】
暗がりの中で君は一人、蹲っていた。
無機質な部屋の隅を埋めるように、頭から毛布を被って何かを呟いて。
私はそっと荷物を下ろし、その隣一メートルの距離を開けて座り込む。
暗い部屋に、私達二人の呼吸音だけが響いていた。
君は時折、私の知らない過去に取り憑かれる。
その度に、私は君との間の確かな距離を見るのだ。
伸ばせば届きそうな掌を、私は掴むことができない。
縮まることのない一メートルを前に、今日ももどかしさを募らせて。
私はただ、唇を噛む。
【暗がりの中で】