小学生の頃の夏休みのこと。夏祭りがあるっつて友達と一緒に行ったんだ。そしたら思ったより人が多くて見事にバラバラ。
ちょっと歩いたら鳥居っぽいとこがあったから、そこで座って待ってたんだ。んでちょっと鳥居の奥の方見てたら狐の面した女の子が現れてさ。俺と同い年くらいの子で、顔が見えないのに可愛いって思った。いわゆる一目惚れ。
声はかけられなかったんだけど、それから毎日あそこに行ったんだ。晴れでも雨でも、夏でも冬でも。
でも、あの子は夏祭りの日にしか現れない。
思い切って声を掛けた中2。あの子はニタっと笑った。
「やっと、話しかけてくれた。ねぇ、変わって?」
冷や汗が止まらなかった。今まで仮面をかぶっていると思った顔はあの子の素顔で、その奇妙な狐の顔が目を歪ませ、口を少し開けたまま弧を描く。
不気味な笑顔に変わった瞬間、俺はあいつに喰われた。
あぁ、今度は俺の番。俺の身代わりを探して今年も夏祭りに現れる。
ねぇ、変わって?そう思いながら。
これが俺の夏の恒例行事。
これは遺書です。
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別に特別辛かった訳じゃないけど、何だか疲れました。
ずっと愛してくれた家族や彼、友人。でも理解だけはしてくれなかったよね。全部理解しろ、とかそう言う訳じゃないけど、アナタの考えを押し付けるだけじゃなくて、寄り添って欲しかったな。
でもね、愛してくれたから満足だよ。結局死ぬのだって私のせいだし。
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こんな風に毎日毎日遺書を書いては依頼主に送る。
そう、私は遺書代行サービスの仕事をしている。
体が動かせない老人、上手く言葉にできない気持ちを抱えた若者。最期くらい素直になりたい老若男女たちの気持ちを代わりに文字にする。
そんな事してたらさ、こっちが滅入ってきちゃって。元々病みやすいんだからやめときゃ良かったなんて思いながら。
この仕事も、私の気持ちも、誰にも言わずに隠してきたんだ。
私が隠した真実に私は苦しめられている。
今も遺書を書いています。
でも仕事じゃないよ。
これは私の遺書です。さようなら。
社会人になった今、風鈴の音なんて聞く機会がない。だけど、時々近所に飾ってある風鈴のチリンという音が頭にこだまするとあんなに嫌だった田舎に帰りたくなる。
うちは魔除けや厄除けの意味で一年中風鈴が飾られていた。
それでも、あの音は夏が1番似合う。涼しげなチリンという音が部屋に鳴り響く。暑くて汗が滲んでいるのにエアコンが効かなくて扇風機の前で涼む。すると奥の台所から婆ちゃんがスイカを持ってくる。
昼ご飯には素麺か冷麦をたらふく食べさせてくれる。正直言うと飽き飽きしていた。
都会はエアコンも効くし、好きな物を好きな時に食えるし、俺のやりたかった事目一杯できる。それなのに、時々無性に田舎の暑さを、婆ちゃんの素麺や冷麦を、求めている自分がいる。
あぁ、また風鈴の音が聞こえる。
今年は絶対にちゃんと帰ろう。
あの子が居なくなってからもう3週間が経つ。
学年1位でいつでも優しい、優等生なあの子。そんな子供を持った事で、少し有頂天になっていた私がいる事も分かっていた。でも、高校の卒業式の次の日、朝起きたらあの子が居ないことに気づいた。
焦って家中、町中を探し回った。どこにも居ないことに気づいて、放心状態であの子の部屋の床に雫を落とした。
ふとあの子の勉強机を見ると、山積みの参考書の横に一封の封筒があった。気になって中を見て、私は諦めた。
"レッテルを貼られるのに疲れました。今までありがとう。俺の好きな奴と一緒に旅に出ます。絶対に探さないでください。"
あの子の気持ちに気づけなかった。あの子をずっと傷つけてきた。自分のことしか考えていなかった。
自分が嫌になった。でも、あの子の最後の願いくらい叶えようと思って、あの子を探す事をやめた。
そんな私は今、あの子の写真を持って病室から窓を眺める。
まるで心だけ、逃避行をするように。
学年1位のお前と学年2位の俺の逃避行。
「せっかくだし冒険しようぜ!」
少年のように無邪気な笑顔でお前は言った。俺が見たことないような顔だった。もしかしたら今までは「学年1位の優等生」というレッテルの手前、見せたくても見せられない部分だったのかもしれない。
でも、俺はお前のそんなとこを見れてるんだよな。なんだか優越感に浸れた。
そうだな、お前とならどこまでも行けるよ。
そこから俺たちはどこまでいったかな。
手を繋いで、走って、止まって、笑い合って、人目のない場所を歩いていたかな。そんな時お前が言った。
「お前はさ、男と恋愛っていう冒険はどうかな。」
不安そうな顔に胸が高鳴る感覚を覚えた。
そうか、俺の優越感は「好きな人を自分だけのものにできた」から来るものだったのか。
それを知ってしまえばお前の誘いに乗るしかない。
勿論だ。と
これからは
学年1位のお前と学年2位の俺の
落ちこぼれ恋愛冒険物語だ。