Sunrise
私はコナンオタクなので…
この単語を見ると阿笠博士が「半ライス〜3回よそえばサンライズ〜」と歌い出します
空に溶ける
どうして生きてるんだと思う?
大きな石に両腕をのせてぼんやりしていた私の前で、ぽつりと友達がつぶやいた。
めいっぱいに咲く白い花の上でせわしく飛び回るハチに夢中になっていた私は、ぅうん?とあいまいな音を返した。
人生なんて辛いことばっかりだよ。
生きてたって、あたしなんかひとりぼっちなんだ。
声が震えている。私はそっと手を伸ばしかけて、さまよって、眉を下げた。
本当に?
はっと顔を上げる。目の前には泣きたくなるほど哀しそうに、あたしの友達が微笑んでいた。
辛いことばっかでも。死ぬときに思い出したのは、一緒に笑ったことだったよ。
ちょっぴりおどけた笑顔になって、半透明の友達はあたしの頭をなでた。
すかんと晴れた秋空に、あたしの友達は溶けていった。
クリスマスの過ごし方 12.25
今日の勉強時間:7時間44|
点滅するカーソルに大きくため息を吐く。10時間は勉強したかったのに。揺られる電車に身体を任せて萎れる。雨の前のように鈍い頭痛がぎゅうぎゅうと脳を絞って集中できなかった。
「アイツは裏切ってないよね」
言葉に出して、噛み締める。高校入学前、同じ志望大学を目指すと宣言して別れた彼。
きっと、なんでもない顔をして滑るように数式を書いているに違いない。アイツにとって25日という日は「共通テストから数えて19日前」という認識でしかないはず。真面目な顔で「せをはやみだな」と言って手を振るような人。だからきっと、大丈夫。
「やめてよォ」
視界の隅でイソギンチャクのように腕を絡ませているカップルが漂っている。さらりと青年の髪が揺れて、こちらと目が合う。頭の奥で何かがパチンと弾けて、へらりと笑ったアイツの顔が網膜に焼き付く。
はっと気がつくとドアが閉まりかけるところだった。慌ててリュックを引っかけ滑り出る。
息を吐き、きゅうと胸を抑えた少女は少し、あくびを堪えるような顔をするとほんのり涙目で階段を駆け上がって行った。
イルミネーション (12.15)
何してんだろ、俺。
目がチカチカするような光のトンネルの中でつったつ。クリスマスではないにしろ、それなりに『リア充』で渋滞している道で止まっているのは迷惑極まれりだけど。
静かに瞼を下ろすと、ためらうような息づかいが脳裏に蘇った。
「付き合って欲しい」
暗いし恥ずかしくても何とかなるだろ、とデート先に選んだのがイルミネーションだった。その実、何十年ぶりかの寒波と緊張でカチコチになった俺は、一世一代の告白だというのにまったく彼女の顔を見ることができなかった。
「ごめんね」
誘われた時に、そういう話だとは思ったんだけど、と弱々しい声が尻すぼみになっている。大丈夫、とだけ返した俺はただ、海から雪景色に変わったらしい光を無感動に眺めていた。
「来れて嬉しいよ、ここ最近すっごく人気だよね」
「あぁ。入場料それなりにしたんだぜ」
ありがとう、と彼女が微笑んで、ふわりとラベンダーの香りがした。鬱陶しいほど視界が眩しい。また歓声が上がる。シャッター音がけたたましく耳を貫く。
「もう、帰ろうか」
その日待ち合わせて、一度も顔を見ないままデートを終えた。
「見れなくてよかった」
かわいらしい笑顔も、辛そうな瞳も。辛くなるだけだと、光の天井を見上げて思う。
「すごいよ!!お花畑だ!」
跳ね上がった声が飛んできて、柔らかい光が視界を撫でる。つんとラベンダーが鼻を刺して紫の絨毯が伸びていく。
そこには、幸せそうな彼女が立っている気がして。あの時、そうやって彼女が微笑んだ気がして。
「……っ」
青空のように、海のように、想像はいつまでも広がってひどく目に染みる。
見ればよかった。そうすればきっと、この恋を終わらせられるから。
逆さま (12.7)
あれは明らかに…
気づかないフリをしながら微妙な面持ちで板書する。するりと落ちた髪の奥から、通常運転で横向きに腰掛けた少年の顔が見えた。
やめてよ、すっごく気になるんだけど。
ヒィッヒィッとベテラン芸人にそっくりな引き笑いが教室をさらに沸かせた。なんで誰も指摘してくれないの、と目の端でムードメーカーのその男子の顔を見る。
やっぱりマスク逆!
本来くちばし型のそれは、今はあごが出ているように見えて。こちらの耳が赤くなってきて、ガリガリとシャーペンを走らせる。あれはネタなの?彼ならあり得るけれど、だとしたらすっごくダサい。誰も突っ込まないとかボケとしてどうなんだ。
自分だけドッキリにハメられているような、何かがズレた気持ち悪さにパキッと芯が派手に折れた。
「ちょっと、マスク」
苛立ちと恥ずかしさで単語しか出てこない。しんと凪いだ空気の中で、数秒きょとんとした彼はカラッとした笑顔を浮かべた。
「うわはっず!なんで誰も言ってくれんのや!」
ヒィッと喉を鳴らした彼は、私にだけ見えるように親指をグッと立てていた。