イルミネーション (12.15)
何してんだろ、俺。
目がチカチカするような光のトンネルの中でつったつ。クリスマスではないにしろ、それなりに『リア充』で渋滞している道で止まっているのは迷惑極まれりだけど。
静かに瞼を下ろすと、ためらうような息づかいが脳裏に蘇った。
「付き合って欲しい」
暗いし恥ずかしくても何とかなるだろ、とデート先に選んだのがイルミネーションだった。その実、何十年ぶりかの寒波と緊張でカチコチになった俺は、一世一代の告白だというのにまったく彼女の顔を見ることができなかった。
「ごめんね」
誘われた時に、そういう話だとは思ったんだけど、と弱々しい声が尻すぼみになっている。大丈夫、とだけ返した俺はただ、海から雪景色に変わったらしい光を無感動に眺めていた。
「来れて嬉しいよ、ここ最近すっごく人気だよね」
「あぁ。入場料それなりにしたんだぜ」
ありがとう、と彼女が微笑んで、ふわりとラベンダーの香りがした。鬱陶しいほど視界が眩しい。また歓声が上がる。シャッター音がけたたましく耳を貫く。
「もう、帰ろうか」
その日待ち合わせて、一度も顔を見ないままデートを終えた。
「見れなくてよかった」
かわいらしい笑顔も、辛そうな瞳も。辛くなるだけだと、光の天井を見上げて思う。
「すごいよ!!お花畑だ!」
跳ね上がった声が飛んできて、柔らかい光が視界を撫でる。つんとラベンダーが鼻を刺して紫の絨毯が伸びていく。
そこには、幸せそうな彼女が立っている気がして。あの時、そうやって彼女が微笑んだ気がして。
「……っ」
青空のように、海のように、想像はいつまでも広がってひどく目に染みる。
見ればよかった。そうすればきっと、この恋を終わらせられるから。
12/15/2023, 9:48:26 AM