逆さま (12.7)
あれは明らかに…
気づかないフリをしながら微妙な面持ちで板書する。するりと落ちた髪の奥から、通常運転で横向きに腰掛けた少年の顔が見えた。
やめてよ、すっごく気になるんだけど。
ヒィッヒィッとベテラン芸人にそっくりな引き笑いが教室をさらに沸かせた。なんで誰も指摘してくれないの、と目の端でムードメーカーのその男子の顔を見る。
やっぱりマスク逆!
本来くちばし型のそれは、今はあごが出ているように見えて。こちらの耳が赤くなってきて、ガリガリとシャーペンを走らせる。あれはネタなの?彼ならあり得るけれど、だとしたらすっごくダサい。誰も突っ込まないとかボケとしてどうなんだ。
自分だけドッキリにハメられているような、何かがズレた気持ち悪さにパキッと芯が派手に折れた。
「ちょっと、マスク」
苛立ちと恥ずかしさで単語しか出てこない。しんと凪いだ空気の中で、数秒きょとんとした彼はカラッとした笑顔を浮かべた。
「うわはっず!なんで誰も言ってくれんのや!」
ヒィッと喉を鳴らした彼は、私にだけ見えるように親指をグッと立てていた。
12/7/2023, 9:58:55 AM