三日月

Open App
1/18/2023, 10:22:19 PM

閉ざされた日記

 母が亡くなった。

 病院から連絡が来たので一人娘である|菜奈《なな》は仕方なく向かうことに。

 父は3年程前亡くなっているので、必然的に手続きをするのは娘の菜奈になったという訳だが、悲しいというより、少々面倒に思っていた。

 病院に到着後、直ぐに母と対面することになったが、随分痩せ細り変わり果てた母と久しぶりに対面したので、母だと言われなければ誰だかよく分からないくらい変貌していたけど、唯一左頬にあるホクロで母なんだと認識する。

 菜奈は両親とは絶縁状態のようなものだったので、だこらこそ、3年前実の父の葬儀にも参加することは無かった。

 幼少期から両親は喧嘩ばかりの環境で、菜奈を構ってくれることも無く、家で会話という物は存在すらし無い、そんな家庭で育つ。

 努力していい点をとっても褒められず、家の手伝いを
しても「ありがとう!」の一言すら貰えず、何時も否定ばかり言われて育ったせいか、菜奈は自己固定感の低い人間に成長した。

 家庭で備わるはずのコミュニケーション能力なんて備わってないから、人と会話も上手く出来なくて、友達すら出来ない菜奈は次第に閉塞感を感じるようになり、いつしか家に帰らなくなっていったのである。

 お陰で自由になれたはずだったけれど、きちんと学校を出ていても、教養が無いせいで知り合う男性にはことごとく騙され、菜奈の生活に影響を及ぼした。

 それでも、どんな時も笑っていたいと、挫けずに一人で必死に生きてきたのだ⋯⋯何もなかったけど。

 だから久しぶりに母に会っても何の感情も抱かなかった。

 だって愛情の一欠片も貰っていない赤の他人のような存在だから。

 ところがそんな母の病室から、母が書いたのであろう日記が出て来た。

 手に取り開いてみると、そこには菜奈に対する謝罪の言葉がつらつらと記してある。

(もう⋯⋯今更遅いっての!!)

 そう思ったものの、何か心に響くものがあったのだろう⋯⋯菜奈は泪してしまう。

 目を通した日記を閉じてからも、暫の間その涙は止まず、菜奈自身⋯⋯その感情を抑えることは出来なかった。

(ごめんね⋯お母さん、産んでくれてありがとう)

 産んだことすら恨んでいたけど、今日ばかりは閉ざされていた日記を読むことで、母の気持ちを知ることが出来たのである。

(もっと早く知りたかったな⋯⋯)


 色々な想いを胸に、これから先、この想いは一人で抱え生きていこうと誓った。

――三日月――
 


 
 

1/16/2023, 12:43:17 PM

美しい

 美しい友達が沢山周りにいて、羨んでいたのは何時のことだっただろうか。

 高校一年間の夏前、入部した写真部に好きな先輩が出来た|鈴美《すずみ》は、何時も部活で先輩を見ているだけで幸せになれたのだった。

 ところが、部活の同学年や先輩女子から、先輩を見るのは辞めるようにと注意されることに⋯⋯それも、鈴美見たいなぶすに先輩を見る資格が無いという、理不尽な理由で⋯⋯。

 確かに先輩は、イケメンだから、こんな不細工な女に見つめられてたらたまったもんじゃないのかもしれないけど、でも、先輩も目が合うと何時もニコッと微笑んでくれたし、直接先輩からは何も言われることは無かったというのに⋯⋯。

(一体何なよ⋯⋯)

 部活の同級生や先輩にイラッとしながらも、あまり気にせずに先輩を見つめる日々を続けていると、また理不尽なことを言ってきた。

「あんた見たいなブスは相手にして無いから!  告白したって無駄よ⋯⋯無駄」
「こ、告白だなんて⋯⋯そ、そんな恐れ多いこと⋯⋯」
「自分の立場分かってんならイイのよ」
「⋯⋯」

 なんだか皆に美しい自慢をされた様で悔しい気持ちになった。
 そもそも、最初から自分が先輩と釣り合うなんて思ってもないけど、その理由がブスだからだなんて一切思ってもみなかったので、悔しくて仕方なかった。

(ダイエットして、可愛くなってやるんだから⋯⋯)

 こうして、夏休み中、数日程写真部も活動の日があったけど、それを休んで全力でダイエットに励むことに。

 可愛くさえなれば文句言ってこないに違いない!  
 夏休み中に可愛くなって見返してやるんだ! 

 というのが、鈴美の考え出せた結論だったのだ。

 そのため、夏休み中は早朝と夜の二回マラソンをすることに⋯⋯食事も一日三食から二色の生活に変更して、野菜中心にしていったし、一日に腹筋背筋も続けることに⋯⋯。

 夏休み明け、久しぶりに学校に行くと、周りの皆が誰!?  と分からない程にまで痩せて美しく変貌を遂げていた。

「誰あれ?」
「あんな美しい子うちのクラスにいたっけ?」
「転校生?」

 あまりの変貌ぶりに誰も直ぐには鈴美だと気づかなかった。

 久しぶりに部活に行っても、先輩も誰一人鈴美だとは分からず⋯⋯ところが、そんな中分かってくれたのは鈴美の憧れのイケメンな先輩ただ一人。

「鈴美さん久しぶり、随分痩せたんだね、前のままでも全然可愛かったのに⋯⋯雰囲気まで変わって美しくなったね。  凄いじゃん!!」
「えへへ⋯⋯ありがとうございます」
 
 先輩に褒められて凄く照れてしまった。

 だからと言って、今のところ特に憧れの先輩とは何ともないけど、それ以来、鈴美に対して同級生も先輩も何も言ってこなくなったのは事実⋯⋯。

 毎日イケメン先輩を見ていても、文句も言われなくなったのは凄い嬉しいことだった。

 今では周りから美しくならためにどうしたらいいのか聞かれるので、皆に食生活や痩せるためにした運動などのアドバイスをしている。

            ――三日月――


1/16/2023, 8:13:34 AM

この世界は

 この世界は男と女が存在していて、この世界で|七海《ななみ》が好きな人は同じクラスの親友でもある|亜美《あみ》である。

 でも亜美には好きな人がいて⋯⋯その人は隣のクラスのイケメン男子|永遠《とわ》。

 恋してる亜美は日に日に可愛くなって行くのが目に見えて分かる程、本当に可愛くなっていた。

「あ、あのさ、亜美最近可愛さ増してない!!」
「ちょっ、いきなり何言うのよ⋯⋯そ、そうかな」
「うん、そうだよ!  本当に可愛くなってると思う」
「あ、ありがとう」

 突然すぎて亜美は驚いていたけど、お昼時間だったのでマスクをしていなかったこともあり、頬が紅く紅潮し顔を見るだけで照れているのが分かる。

「そういえば亜美の好きな人だけど、永遠だっけ⋯⋯その、やっぱり好きなの?」
「うん、好きだよ⋯⋯あ、そうだ、菜々美ちゃん私の恋応援してくれない、ってか応援してくれるよね?」
「えっ⋯⋯と⋯⋯う、うん、勿論イイよ! 応援する」
「わーぃ、七海ありがとう」

 つい、応援するなんて言っちゃったけど、実際問題、亜美と永遠がくっついて欲しくないという思の方が強くあって、応援出来るかどうか不安でしか無かった。

 そんな気持ちのまま、数ヶ月経ったある日の放課後、誰も居ない教室で、亜美は嬉しそうに告白が成功して今度デートすることになったのだと嬉しそうに話してきたのである。

 その言葉を聞いて「おめでとう!」と、そう口では言ったはずなのに、気付けば七海は自分のマスクを外し、そして亜美のマスクを外すと亜美の口に接吻していたのだった。

「や、やめてよ!」
「キャッ!!」
 
 七海は亜美に強く押されて尻もちを着くことに。

「ご、ごめん七海大丈夫?  いきなりだったからちょっと⋯⋯」
「ううん、ごめん、悪いのはこっちだから、亜美ごめん、実はずっーと亜美のことが好きだったの。  だからつい⋯⋯その、デートするって聞いたらヤキモチ焼いちゃって⋯⋯本当にごめん」
「知らなかったよ、まさか七海が私のこと好きだったなんて、気付かなくてごめんね」
「優しいんだね亜美は⋯⋯普通怒って嫌われると思ったから⋯⋯」

 ところが、亜美は優しく七海を抱きしめるとしばらくの間頭を撫でてくれたのだった。

 どのくらい経過したのだろうか、無言の時間が過ぎ去ったあと亜美が先に口を開く⋯⋯。

「あ、あのさ、実は私も七海のこと好きなんだよね⋯⋯だから、考えたんだけど永遠とのデートは断ることにするよ!」
「えっ、それでイイの?  後悔するんじゃ⋯⋯」
「イイよ⋯⋯だって七海の方が好きだもん、そりゃ、女と付き合ったことなんて一度も無いけどさ、でも、さっき七海にキスされた時にちょっと感じちゃったんだよね⋯⋯」
「まっ、マジ?」
「うん⋯⋯マジ!!  あのさ、キスしたってことは、今日から七海の彼女にしてくれるってことなんだよね!?」
「う、うん⋯⋯亜美が良ければ⋯⋯えへへ」
「イイに決ってるよ!  これからよろしくね」
「うん 」

 この世界は男と女が存在するけど、性別なんて気にせずもっと早く告白すれば良かったのかもしれない。

 七海はこれから先ずっと亜美と一緒にいられるかなんてまだ分からないけど、彼女となった亜美のことを大切にしようと胸に手を当て誓ったのだった。


――三日月――


 





 

1/15/2023, 12:12:32 AM

どうして

 ずっと長い髪の毛に憧れていのに、父さんは容赦なく床屋に連れていった……どうして?
 
 スカートに憧れてきたのに、母さんはズボンしか買ってくれなかった……どうして?

  可愛いものが欲しくても、我慢ばかりさせられるのは、見た目が男の子だからだよね……。

 見た目が男だと我慢しないといけないなんて辛い!

 周りの大人は何も分かってくれなかったし、友達だって分かってなんかくれなかった。

 でも、好きな物を我慢するなんて生き地獄じゃないか、これから先の人生は未だ長いのに……。

 どうしてもっと自由に生きちゃいけないの?

 そう思いながらずっと大人や神様まて恨んで生きてきたけど、ある日同じような人とSNS知り合うことに。

 それからは、家を出る迄の間平和でいたかったから両親の前、学校では男を演じることにした。

 大学を機に、一人暮らしを始めるとそれからは少しずつなりたかった本来あるべき自分の姿に変貌を遂げていく。

 SNSで知り合った友達も一緒の大学に通っていて、二人して可愛いを追い求める日々は、毎日がとても楽しくて、とても充実していて……周りは皆男だとは思わないから、可愛い物を持っていても許された。

「これ、新作の香水なんだけど、入れ物可愛いくない」
「うん、とっても可愛い……ても高いんじゃないの?」
「これはお試し用、安かったからほらこれ……同じの買っといたよ! はい、プレゼント」
「かっ、カワイイ〜!!  ありがとう」

 SNSで知り合った友達からプレゼントして貰った。

 答えは自分達の笑顔の中にある…笑顔になるためには、我慢なんて要らないんだと……。

 それでもまだ両親には伝えられていない、いつかその時が来とき、たとえ理解されなくてもありのままでイイんだと思う。

 これから先も楽しく生きるんだ。


――三日月――



 

 

 

 

1/13/2023, 4:29:55 PM

夢を見ていたい

――どうして泣いているんだろう。

 何故か感情が抑えられず泪が溢れ出てしまう。



 バイト先の先輩でもある|拓海《たくみ》とは知り合ってから約一年程一緒にレストランで仕事をしている。

 |望美《のぞみは》ウエイトレスで、拓海は厨房だけど、一年も一緒にバイトをしていればそれなりに話もするようになるし、仲良くなるのは当然のこと。

 ある日、拓海に一緒に観てない映画があるから借りてきて一緒に観ようと誘われ、異性だというのに警戒心もないままひょいひょいとついて行ったら、その日のうちに拓海と肉体関係を持つことに……。

 好きなのかどうか自問自答しても良く分からないけど、拒否せずにそれを受け入れたのは望美自身である。

 いけない事と分かりつつ、でもその行為の後に罪悪感なんて無かったし、そもそも望美には居場所が無かったから、拓海と身体の関係を持ったその瞬間に幸せを噛み締めてしまい、それ以来離れられない大事な存在となっていた。

 そして何時しか、拓海からピルを飲むよう進められた望美はそのことを拒むこともせず毎日飲むように。

 すると、今度は部屋の鍵を渡され、当たり前のように毎日拓海の家に通うようになり……どんどん拓海という男に染まっていくようになる。

 でも、何故急に鍵を渡した行為に対して、一体それが何を意味しているのかという深層心理が分からず、どうしてなのか知りたくて仕方なかったのだけど、そこまでは怖くて、この関係が終わりを迎えそうな気がして聞けなかった。

 長い夜は続かない、望美は拓海にとって彼女という認識なのか、都合のいいセフレなのか、はたまた……。

 赤い糸何てあるのかどうか何て分からないけど、こんなにも望美のことを求めてくる拓海とはもしかすると運命の赤い糸で結ばれてるんじゃないかって、好きかどうか良く分からないながらも、幸せを感じてしまったせいで勝手にそう思いたくて仕方なかった。

 いつか、拓海のお嫁さんになれたら……。

……なんて、叶うかわからないそんな夢を見ていたくて、その夢から覚めたくなくて、今の関係が駄目な関係無んじゃないかって分かり始めたのに結局離れることは出来なくて、由香はそんな自分がもどかしく思えていた。

「ねぇ、拓海は望美のこと愛してるの?」

 身体が重なり、望美は吐息が途切れながら、拓海の耳元に問いかけた。

「うん、愛してるよ」

 拓海は行為中に由香とは一切目を合わせないままそう答える。

 だから、それだけで望美は今のが嘘だと悟る……。

「あ、ありがとう、望美も拓海のこと愛してるよ」

 でも、望美は最高潮に達しながら、それでもイイかなと悟った。

 望美は自分を強く求めてくれる拓海のことを失うのが怖かったからかもしれない。

 だから、この関係が駄目だと分かりつつ、関係を終わらせることをしなかった。

 長かった行為が終わり、漸く拓海が望美の中で力尽きた後は何時も通り腕枕をしてくれて、頭をポンポンして撫でてから優しく抱きしめてくれる。

 期待出来る保証なんてものは何処にもないけど、やっぱりお嫁さんになる夢を見ていたい……そう思った。

――帰り道――

 何故か虚無感に襲われる。

 さっきまで傍にいてくれたはずなのに。

 さっきまで愛し合っていたはずなのに。

 さっきまで必要とされていたはずなのに。

 いつかは旅立つ日が来る、それを感じて心が不安定になっているのかもしれない。

 永遠が続かないことを何処か片隅で分かっているからなのかもしれない。

 暗い夜道、望美は頬を伝う涙を感じながら家路に帰った。


――三日月――
 

 

 




 

 

 

Next