閉ざされた日記
母が亡くなった。
病院から連絡が来たので一人娘である|菜奈《なな》は仕方なく向かうことに。
父は3年程前亡くなっているので、必然的に手続きをするのは娘の菜奈になったという訳だが、悲しいというより、少々面倒に思っていた。
病院に到着後、直ぐに母と対面することになったが、随分痩せ細り変わり果てた母と久しぶりに対面したので、母だと言われなければ誰だかよく分からないくらい変貌していたけど、唯一左頬にあるホクロで母なんだと認識する。
菜奈は両親とは絶縁状態のようなものだったので、だこらこそ、3年前実の父の葬儀にも参加することは無かった。
幼少期から両親は喧嘩ばかりの環境で、菜奈を構ってくれることも無く、家で会話という物は存在すらし無い、そんな家庭で育つ。
努力していい点をとっても褒められず、家の手伝いを
しても「ありがとう!」の一言すら貰えず、何時も否定ばかり言われて育ったせいか、菜奈は自己固定感の低い人間に成長した。
家庭で備わるはずのコミュニケーション能力なんて備わってないから、人と会話も上手く出来なくて、友達すら出来ない菜奈は次第に閉塞感を感じるようになり、いつしか家に帰らなくなっていったのである。
お陰で自由になれたはずだったけれど、きちんと学校を出ていても、教養が無いせいで知り合う男性にはことごとく騙され、菜奈の生活に影響を及ぼした。
それでも、どんな時も笑っていたいと、挫けずに一人で必死に生きてきたのだ⋯⋯何もなかったけど。
だから久しぶりに母に会っても何の感情も抱かなかった。
だって愛情の一欠片も貰っていない赤の他人のような存在だから。
ところがそんな母の病室から、母が書いたのであろう日記が出て来た。
手に取り開いてみると、そこには菜奈に対する謝罪の言葉がつらつらと記してある。
(もう⋯⋯今更遅いっての!!)
そう思ったものの、何か心に響くものがあったのだろう⋯⋯菜奈は泪してしまう。
目を通した日記を閉じてからも、暫の間その涙は止まず、菜奈自身⋯⋯その感情を抑えることは出来なかった。
(ごめんね⋯お母さん、産んでくれてありがとう)
産んだことすら恨んでいたけど、今日ばかりは閉ざされていた日記を読むことで、母の気持ちを知ることが出来たのである。
(もっと早く知りたかったな⋯⋯)
色々な想いを胸に、これから先、この想いは一人で抱え生きていこうと誓った。
――三日月――
1/18/2023, 10:22:19 PM