零時、昔のあなたとのことを思い出した。
何も気にせず楽しく無邪気に遊んでいたあの頃、
ただムカついて感情に身を任せて喧嘩して。
あなたと出逢って、十何年という月日が経ってしまった
いまはもうお互い独り立ちして、たまーに、連絡を取り合う程度の関係だけれど。
あなたはもう、知らない誰かと結婚して、子供も生まれて幸せに暮らしているだろうけど。
私が勇気を出していれば、違う運命を辿ったのか。と
砕け散ってしまっても、ありのままの友達でいられる結末はあったのか。と
そんなくだらない想いが、切なさが。頭のなかを駆け巡るんだ。
あぁ、窓の外から微かな光が差し込んできた。もうそんな時間なのか。
暖かな朝日が、私を嘲笑うように見えて仕方がない。
眠れないのに、わたしはまた目を瞑るんだ。眠ることさえできないのに、私はまた今日を生きてしまうんだ。
あぁ、どうして、眠れないほど好きになってしまったのだろう
もう、やめたかったんだ
あなたの隣に居たいと、願ってしまうことは。
『眠れないほど』
視線の先には、憧れのもの。
目と鼻の先の距離にあるのに。
掴むことも、指先で触れることも許されなくて。
どう頑張っても届かないんだって感情を重ねる度に、身体に傷が増えていった。
「…もう、くるしいよ……」
ねぇ、
もう、いいかな。
ねぇ、ねえ。
きみも、同じ苦しみを知ってよ。
あぁ。
ぜんぶやめちゃおうか。
視線の先には、ロープがあった。
『視線の先には』
さいきん、友達と上手くいっている感覚がない。皆無だ。
部活の時間も、私が分からない話をふたりで永遠としている…だけなのならまだいいのだが、
私が話しかけた時に適当な相槌ひとつふたつ打つだけなのはやめて欲しい。
同じクラスのくせに、朝の挨拶を交わした以外ほとんど会話を弾ませることはなかった。
ほんとう、次の日の学校が更に憂鬱になる。
きょう、部活をサボった。友達に「またね」も言わず。
3人でいるのに、独りぼっちなのはもうこりごりだったんだ。
あそこにいると、「人間」として。「わたし」として居られている気がしていなかった。
家までの、ひとりでの帰り道。いつもよりスッキリしていた気がする。
自転車を漕ぎながら、ふと顔を上げ、まだ明るい空を見つめた。
あぁ、
「はやく、家に帰りたいな、」
『空を見上げて心に浮かんだこと』
「ねぇ、」
わたしの声に、君はこちらへ振り返る。
君の輝いているような、澄んでいるような、死んでいるような。そんな瞳が私を見つめている。
「……なぁに、そんなひっどい、顔して。」
「目障り。」
いつもと変わらない鋭く脆い言葉に、わたしはつい笑ってしまう。自分を強く見せるためだけの言葉を、君がなによりも弱いことを知った私にやったって意味は無いのに。
人間はそう簡単に変われないらしい。
「……ここから落ちたら、死ねるとおもう?」
「こう、ぐしゃって。原形もないくらい。」
「知らない、頭から落ちれば死ねはするんじゃない?」
冷たく答える君に、わたしはもうひとつ質問を投げかけた。
「ここで、今死にたいって、…おもう?」
「………うん。でも、それは…」
「ねえ、」
「……いっしょに、終わりにしよう、?」
心臓の音で、自分の声が聞こえないけど。
『終わりにしよう』
自分が選んだ選択が間違っているのか、私たちには分からない。
違う道を歩んでしまった、もうひとつの物語の私は…どのように足掻いて、苦しんでいるだろうか。
そして、どのように喜び、笑っているのだろうか。
その物語の結末を見てみたいと言ったら、嘘になる。だけど、
私が選んできた選択、道が。
人生の正解であることを、心の底から願っている自分がいる。
過去など、変えられやしないから。
『もう一つの物語』