ひとつぶ

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7/2/2023, 12:38:13 PM

雲一つない晴天に目を細めカーテンを閉める。僕が外に出られなくなって一年ほど経ったのを、やけに暑い室温で思い出した。暑いとぼやくと君はテーブルにあったリモコンに手を伸ばし、エアコンを付けた。

「...怒ってない?」

何故今聞いたかは分からない。ただ、一年間ずっと文句一つ言わず僕のお守りをする理由がずっと気になっていた。だから無性に聞きたくなった。
僕は心を悪くしたせいで、日差しを浴びると吐き気がするようになった。外にも出られずろくに生活も出来ない僕を、君が何故か甲斐甲斐しく世話するからここまで生き延びているけれど。

「何に怒るの?」
「病気が何時までも治んないこと。外に出られないこと」
「そんなん仕方ないじゃん」
「怒ってるか怒ってないか、どっちか」
「そりゃ怒ってるよ」

君は考える素振りも無く、そう答えた。僕は答えに傷付いている自分を無視して続きの文字を待った。

「一番近くで君を見てきたのに、あたしはいつまでたっても君を助けられない。だから焦ってるし怒ってるんだけどね、それ以上に君に逃げられるのが怖いの。頑張れる理由はね、君とまた外でお花見とかしたいから。だから嫌われたら本末転倒デショ」

ダサいね、なんて言って笑う。それがいつもより何処かぎこちなかった。この違和感は、僕が言葉を素直に受け取れないせいで何を言われても大目玉を食らった気分になるのを知っているからこういう話し方なのだろう。
それでも自虐なんて君らしくないからもやもやして仕方なくて、そんなことない、と言い返そうとした。顔を上げると君と目が合った。僕は怖くて君の目を直視出来たことなんてなかったのに、君の視線はいつも迷いなく僕へ差していた。これは僕の信頼を全て勝ち取った君だから許されること。
久しぶりに君の目を見た。
僕が唯一浴びれる日差しだ、と安心感が増すだけだった。





#日差し

6/12/2023, 10:19:16 PM

叶わぬ恋だった。この恋情に気付いた時には、君にはもう既に恋人がいた。でも、多分それで良かった。好きになってくれなくても良い、禁断の恋はするつもりない。でも、君の心に残り続けるような人でありたい。
僕はその日から徹底的に君に嫌われるよう行動した。可哀想になるくらい意地悪もちょっかいもかけまくった。君は見事に僕の手中に嵌った。
今では周りからこう言われる。

「あいつが怒る所なんて、お前以外に見た事ねぇよ」

あぁ、この瞬間が一番心地良い。
君の特別になれるなら、嫌いでも何でも良かった。




#好き嫌い

6/9/2023, 1:20:45 PM

凍てついた夜が大好きで仕方なかった。
生まれ持った能力があるならば、自分は氷属性だっただろう。一人で暗いベランダに座り込む。冷えた夜風が僕を落ち着かせる。起き上がれないほど痛む頭だって、何も無い自分に焦って早まった心拍数だって、夜風に当たれば少しマシになれるんだ。なくなりやしないけど。
休日であるなら尚更。大好きな時間を思う存分味わっても、明日に響くことなんてない、罪悪感なんて一つも生まれる必要ないんだから。

なんの用事もない平日の昼が嫌いだ。
僕を責めるかのように差し込まれる光がいちいち痛い。皆が社会を動かしていて、その中で自分だけが蚊帳の外で。不登校児が遮光カーテンを強請るのは烏滸がましいだろう。でもこのままでは、このままでは不味い。事態は悪化の一方だというのに僕だけが気が付いているのだ。これ以上僕が溶けてしまったら。

朝日の温もりを享受する。
彼らはまだ冷たさの残る空気をゆっくり照らしていく。それは隅で蹲る僕を照らそうと奮起している。
聞いてくれないか、僕はただ人生に絶望して蹲っている訳ではないんだ。その優しさの押し売りみたいな光を、恐れているんだ!悪意の無い、親切な心からの善意が毒のように僕を苦しめて、僕は気が付いた頃には立ち上がれなくなっていた。ただ来る苦しみを待つしか出来なくなっていた。
自分一人が地球の上で嘆いたって太陽の動きは変わらないが、あぁ、もう、溶けてしまうから、その過干渉はやめてくれよ。





#朝日の温もり

6/7/2023, 11:08:52 PM

あぁ暑い。
焼けるように暑い。
僕は死にたいと願っていたはず、だのに死がこれほどまで勿体ないなんて知らなかった。
タイムリミットに慌てふためく僕の隣で、君はゆっくり朝ごはんを食べる。どうせこれから死ぬってのに。

熱い。
あたまが回らなくなる。
こちらに近付く流星に願うように呟く。

『君が好きだったよ』

君を見なければ良かった。そんなに嬉しそうな顔をするなんて。やっぱまだ死ぬには勿体ない。それが僕の終わりだった。




#世界の終わりに君と

5/28/2023, 1:44:18 PM

突拍子も無いのが君の性格だった。
クーラーはまだ早いから窓を開けて暑さを凌ぐ午後、突然玄関の鍵が開いた。鍵を共有している人物は一人しか居ない。

「夏が来たぞ!」

半袖短パン、それと浮き輪。5月はまだ夏じゃないけど。てか何才だよ。苦い顔で表現したはずだったのに、都合の悪いことは無視される。昔からだからもう慣れた。

「海行こう!海!」



夕陽の沈むのが良く見える時間になって、二人で砂浜に座り込んだ。一時間はここに居ただろうか。

「今日半袖でも暑いね!お前長袖じゃん!暑くないの!?俺はタオルがびしょびしょ!あぁこれ海に落としたからか!」

君がはしゃいでたの見てただけだから逆に寒いくらいだけど。てか今一人でボケて一人で拾った?
誰もいない海辺に君の声がやけに響く。ただでさえうるさいのにエコーが掛かって騒音を際立たせている。君は気にすることも無くひとりでに話し続けていた。のに、ふと、言葉が途切れて、不安になって君を見上げた。君は予想外にも優しい目でこちらを見ていた。頬が赤いのは夕陽か、それとも。

「ねぇ、俺の事さ。…好き?」

突拍子も無いのが君の性格だった。
お返事は砂浜に書く。

『すき』
「本気?!嘘じゃないよな!!ねぇ俺まじ大事にするから!!付き合って欲しい!!」

嘘じゃないよ。好きでも無い奴の水遊び一時間も見れないだろ。さっきの恥じらいどこいったんだよ。
君は律儀にお返事を待つ。珍しいくらい黙り込んでいて、砂浜を見ておけばいいのに視線がずっとこちらを向けられていて、それがずっともどかしい。

『よろしく』

君の手が好き。声が出せないから公園で一人弁当を食べていた自分に、手を差し伸べてくれた時から。思い返せば、君はあの時から突拍子も無かったな。公園で弁当食べてる人に向かって「ババ抜きしようよ!二人で!」って言ったの忘れたとは言わせないからな。ていうかあの時真冬だったのに半袖じゃ無かったか?変わんないよな、君。

「俺は絶対一人にしないから!!」

何度も聞いたセリフ。
変わらない君の言葉だから信じられる。



#半袖

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