ひとつぶ

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突拍子も無いのが君の性格だった。
クーラーはまだ早いから窓を開けて暑さを凌ぐ午後、突然玄関の鍵が開いた。鍵を共有している人物は一人しか居ない。

「夏が来たぞ!」

半袖短パン、それと浮き輪。5月はまだ夏じゃないけど。てか何才だよ。苦い顔で表現したはずだったのに、都合の悪いことは無視される。昔からだからもう慣れた。

「海行こう!海!」



夕陽の沈むのが良く見える時間になって、二人で砂浜に座り込んだ。一時間はここに居ただろうか。

「今日半袖でも暑いね!お前長袖じゃん!暑くないの!?俺はタオルがびしょびしょ!あぁこれ海に落としたからか!」

君がはしゃいでたの見てただけだから逆に寒いくらいだけど。てか今一人でボケて一人で拾った?
誰もいない海辺に君の声がやけに響く。ただでさえうるさいのにエコーが掛かって騒音を際立たせている。君は気にすることも無くひとりでに話し続けていた。のに、ふと、言葉が途切れて、不安になって君を見上げた。君は予想外にも優しい目でこちらを見ていた。頬が赤いのは夕陽か、それとも。

「ねぇ、俺の事さ。…好き?」

突拍子も無いのが君の性格だった。
お返事は砂浜に書く。

『すき』
「本気?!嘘じゃないよな!!ねぇ俺まじ大事にするから!!付き合って欲しい!!」

嘘じゃないよ。好きでも無い奴の水遊び一時間も見れないだろ。さっきの恥じらいどこいったんだよ。
君は律儀にお返事を待つ。珍しいくらい黙り込んでいて、砂浜を見ておけばいいのに視線がずっとこちらを向けられていて、それがずっともどかしい。

『よろしく』

君の手が好き。声が出せないから公園で一人弁当を食べていた自分に、手を差し伸べてくれた時から。思い返せば、君はあの時から突拍子も無かったな。公園で弁当食べてる人に向かって「ババ抜きしようよ!二人で!」って言ったの忘れたとは言わせないからな。ていうかあの時真冬だったのに半袖じゃ無かったか?変わんないよな、君。

「俺は絶対一人にしないから!!」

何度も聞いたセリフ。
変わらない君の言葉だから信じられる。



#半袖

5/28/2023, 1:44:18 PM