ひとつぶ

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凍てついた夜が大好きで仕方なかった。
生まれ持った能力があるならば、自分は氷属性だっただろう。一人で暗いベランダに座り込む。冷えた夜風が僕を落ち着かせる。起き上がれないほど痛む頭だって、何も無い自分に焦って早まった心拍数だって、夜風に当たれば少しマシになれるんだ。なくなりやしないけど。
休日であるなら尚更。大好きな時間を思う存分味わっても、明日に響くことなんてない、罪悪感なんて一つも生まれる必要ないんだから。

なんの用事もない平日の昼が嫌いだ。
僕を責めるかのように差し込まれる光がいちいち痛い。皆が社会を動かしていて、その中で自分だけが蚊帳の外で。不登校児が遮光カーテンを強請るのは烏滸がましいだろう。でもこのままでは、このままでは不味い。事態は悪化の一方だというのに僕だけが気が付いているのだ。これ以上僕が溶けてしまったら。

朝日の温もりを享受する。
彼らはまだ冷たさの残る空気をゆっくり照らしていく。それは隅で蹲る僕を照らそうと奮起している。
聞いてくれないか、僕はただ人生に絶望して蹲っている訳ではないんだ。その優しさの押し売りみたいな光を、恐れているんだ!悪意の無い、親切な心からの善意が毒のように僕を苦しめて、僕は気が付いた頃には立ち上がれなくなっていた。ただ来る苦しみを待つしか出来なくなっていた。
自分一人が地球の上で嘆いたって太陽の動きは変わらないが、あぁ、もう、溶けてしまうから、その過干渉はやめてくれよ。





#朝日の温もり

6/9/2023, 1:20:45 PM