俺は天才。
自惚れの類ではなく、事実周りより頭一つ抜けている。これは努力では届かない。
俺には何もいらない。
ヒントやアドバイスがなくても、自分で全てやるから。やれるから。『もしも一つだけ願いが叶うなら』なんて下らない質問がトークテーマになる世の中を少し心配する。才能が無ければ神に祈るしかないなんて、俺には遠い世界だ。
あいつには何も求めてない。
二人一組だから組んでいるだけなので、俺の指示通りに動けるのならそれでいい。事実あれの前に組んでいた奴は俺が引っ張ったお陰でそこそこ上までいけた。俺の言うことさえ聞けるなら、俺の手をしっかり掴んだなら、俺らは世界だって統一できる。王は俺だけど、右腕くらいならやらせてもいいかな。
…今日は居ないのか、って?
今日はたまたま体調不良で欠席なだけ。別にそわそわしてないし元気だし口数もいつも通りだけど?自分の体調管理もろくにできないなんて、かける言葉もないわけさ。隣が空いてるのが寂しいとか全然、全ッ然思ってないから。まじで。
#何もいらない
逃げたい。責任も周囲の目も気にしない街へ、君と二人で。
そこでは大多数に合わせる必要はない。周りの偏見なんてない、だから僕らはそこでようやく分かり合える。
僕と君は必然的に二人で暮らして、共依存して行くんだ。僕は君なしじゃ居られなくなって。君は僕なしじゃ居られなくなって。二人で助け合う。そう二人で。あれほど夢に見た二人きり。
ねぇ、こんな世界どうだと思う?
君は多分こう言う。
「おぉ、誰も居ないとか何でもし放題じゃん。あたし電車運転してみたかったんだよね」
サバサバしてて、君は僕の手元に来ることはない。
それはきっと、ここでなくても変わらない。
そう。逃げたって意味は無いと分かってる。
君に良くみられるためだけに今日の準備を始める。君にかっこいいと思ってもらうために身だしなみを整える。君の隣にいるためにこの街で暮らす。
ここではない、どこかの空想をふくらませながら。
#ここではない、どこかで
「またケンカかよあいつら」
「今度はアイツが吹っかけたって」
「他の奴らには優しいのにな」
犬猿の仲、で知られている。
仕事上、二人タッグで行動せざるを得ないのに気味が悪い程意見が合わない。二人とも気を使うタイプの人間ではないので、常に意見のぶつけ合い。俺もお前も集団行動に向いていないのだ。
なんでタッグを組んでるんだ、って。これも色んな人から聞かれる。理由なんて探せば幾らでも用意できて、だけどそのどれも本心ではないことだけは分かっていた。大きく育ち過ぎた感情に今更目を向けられず、見ないふりだけを続けていた。
本当は君は、たった一人の、僕の半身だから。
正しくも優しくもない君の手を取る。
君が手を引く方向へ目を閉じて進む。
これが俺の最大の愛情表現だ。
もうお前は気が付いても受け取らないんだろうな。随分遠いところまで来てしまった。あの頃なら、この想いは届いたの?
#届かぬ想い
出口も何も無い部屋で座り込んでいた。
四方を壁に囲まれた、誰も居ない真っ白な部屋。
それが僕の普通だった。外の世界が気にならない訳ではないけれど、僕には無縁だからどうでも良かった。 どうせここから出られないのなら、希望も挑戦も全て無駄だと思っていた
部屋の外から僕に呼び掛ける君の声を聞くまでは。
僕は自分で君のどこに惹かれたのか分からない。君の嘘も本当もぐちゃぐちゃに混ぜた話が好きだったのかもしれないし、内側から出ようともしないこんな僕を見つけてくれたところが好きなのかもしれない。
君は、僕に意思を与えてくれたんだ。
僕はこの壁の向こう側の『青い空』が見たくなった。
僕は壁を叩き続ける。
叩いて叩いて、それでも傷一つ付かない壁を恨みながらまた叩く。限界も、満足も、僕が決めた。この天井も、この壁も、僕が作った。自分で自分を型にはめて決めつけていたんだ。閉じこもって、僕の知らない新しい外へ飛び出すのを恐れてたんだ。
僕は君の教えてくれた『青い空』が見たい。 壁を破って挑戦したい。無駄でもいい、失敗してもいい、ただただ心の動く方へ身体を動かしたい。
遠くの空へ思いを馳せる。
君の声が纏う、どこか暖かい空気が流れて来た気がした。
#遠くの空へ
「お前がいるからここまでやって来れた」
君はそうやって自分に笑いかけてくれた。ポジティブに捉えたいのになんだかその言葉が上手く自分事に受け取れなくて、抵抗のように目を逸らした。
ここで『自分もそうだ』と返せたらどれだけ可愛らしいことか。そんなことずっと前から分かっているんだ。どれだけ理解していても、喉元で上手く言葉にならなくなって、あきらめてしまう。
君は言いたいことを言い終えたから帰ろうとしていて。
変わらないと、貰いっぱなしは駄目だ、なんて一丁前に考えて咄嗟に袖を掴んだ。その癖にまた沈黙に逆戻り。君を困らせるはずじゃなかったのに。
「…別に今じゃなくても、纏まったらでいいよ?」
分かってるからさ、なんて言って自分の手を袖から優しく外した。君がそうやって優しくするから、なんて八つ当たりをしてみる。言葉にするのは苦手な癖に、妄想癖だけ酷くなる。
感謝も、謝罪も、君への想いも、いつか言葉にできる日が来るのだろうか。その時まで隣に居てて欲しいよ。
#言葉にできない