妄想の吐き捨て場所

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5/5/2024, 4:59:38 PM

あなたはみんなの英雄で、私が出会った中で誰よりも不器用な人だった。
ひねくれてる私のような人間にも救いの手を伸ばして見返りを求めることもない。
私はそんなあなたが最初は消えて欲しいと妄想をするほど嫌いだった。誰よりも恵まれてる人間だと思っていたから。
きっとあなたには心から信頼出来る仲間や、周りとは比べられないほどの魔力を保有し魔法の才能に溢れ卓越した魔法技術を持った人間だと思っていた。
だから私は気にかけてくれるあなたをいつも突き放してきた。
「"英雄様"が、私一人に構う時間が持った無いわよ。」なんて、こんな嫌味ったらしく。
彼は自分が英雄だと持ち上げられるのを嫌がっているようだった。(ならなんで、いちいちトラブルに首を突っ込むのかって話だけど。)
彼は「自分が人を助けることは当然の使命だ」というように振舞っていた。だから救いに見返りも求めないし、トラブルが起きれば真っ先に駆けつける。
そんなふうにしているから、周りも彼を当たり前のように頼るし、彼もそれに応えていつも傷を作っていた。
私はそんな彼も周りも奴らも気に入らなかった。

私は元から負け組側の人間だった。
片親で命の危険に晒されながら生きてきて、魔力量も平凡、周りに頼れる人間は一人もいなかった。
ただ一つ救いがあるとすれば、母親は女神のように暖かい人間で私はその恩恵を受けて育つことが出来たことだ。
母は周りから好かれる人間だった。近所で催しが開かれる時には必ず誘いを受けるし、何かごく小さな事でも困ったことがあれば周りの人間が自ら力を貸してくれていた。
私はそんな母には一片たりとも似なかった。例え私がどれだけ周りの人間に愛想良く振舞ったとしても、催しの誘いは一向に来ないし、急病で道端に倒れていたとしても皆が素通りしていく。そういう人間だ。
これは私の行いがどうのという話では無い、そういう星の元に生まれてしまったということなのだ。

曾祖母は占いや予言ができる人間だった。
私が曾祖母に初めて会ったのは4歳の時だ、曾祖母は父方の人間で母が父が死んでから見つけた親族だった。最初、曾祖母とほかの親族たちは父の忘れ形見の私を大層歓迎してくれた。今まで虐げられていた自分も環境が変われば周りと打ち解けて優しくされるんだと希望を抱いた。
ただその希望は叶うことの無い願望だとすぐに突きつけられた。
曾祖母と顔を合わせた瞬間、顔を強ばらせたかと思うと目の前で膝をついて泣き崩れたのだ。そうしてこういった。
「その子は将来人類が太刀打ち出来ない大厄災を呼ぶ、最悪の魔女だ。」
と。この言葉は私が16歳になった今でも心に深く刻み込まれ、私を苦しめてくる。
そして親族達はそんな曾祖母の予言をすぐに信じ、そうなる前に殺さなければと私を捕まえようとしてきた。今私が生きているのは、その時母が私を抱えてすぐ逃げてくれたからだ。殺されそうになる経験はこれだけだったが、他にも問答無用で嫌われたり、早く母を置いて家を出ていけなんてことを近所の人間から言われたりした。酷いことばかり経験した私は次第に周りに対して心を閉ざしていった。
そんな私からは陰気な空気が溢れ出ているのか私と目が合った人間は強ばり、避けるようになった。そしてそんな噂はすぐに広がり私はどこに行っても結局最後は孤立した。

そして、そんな気味が悪い孤立した人間に手を差し伸べて来たのが"英雄様"だった。
彼は助けた相手に失礼な態度をとられるのが初めてだったのか、その後から何かと理由をつけて私と行動を共にするようになった。
「やぁ、調子はどうだい?」
「やぁ、奇遇だね。図書館に行くのかい?実は僕もそっちに用があって…。」
なんて、こんなふうに何日も付きまとってくる。
いい加減うんざりしていた。
「ねぇあんた、この間から何なの?助けてもらったお礼でも待ってるわけ?言っておくけど、あんたの助けなんかなくても私ひとりであれぐらい何とかなったから!」
と、本日3回目の「やぁ」を聞いた時我慢の限界に達し半ば叫ぶように言い散らした。
「そんな、お礼が欲しいだなんて思ってないよ。」
"英雄様"は綺麗に整った眉毛を八の字にして否定をする。
「じゃあ何、さっきから私の後付け回して。」
「付け回してるつもりはないよ。ただ行く方にキミがいるから声をかけてるだけで…。」
「それならあんたと仲良くなりたがって着いてきてる周りのヤツら一人一人にも声をかけていけば?」
そう言うと彼は少し押し黙って体も固まった。私はそんな彼をいい気味なんて思いながら背にして図書館に急いだ。あの"英雄様"は今頃取り巻きに囲まれて身動きが取れなくなっているだろう。

---また後で続き書く---

4/30/2024, 1:59:57 PM

ある時、ドブネズミは旅に出た。
しばらく歩くとハムスターと出会った。
「やぁこんにちは。」
「こんにちは、君も脱走してきたの?」
挨拶をするとハムスターはそんなことを聞いてくる。
「いいや、俺はノラのドブネズミなんだよ。」
「それは羨ましいなぁ」
「どうしてだい?」
その問いかけにハムスターは深くため息をついた。
「僕の生活はそれはもう窮屈なんだよ。一日中狭いカゴの中に入れられて、自由がないんだ。」
項垂れている様子のハムスターは罠籠にでも入れられていたのかとドブネズミは同情した。
「それじゃあ、俺の旅についてくるかい?」
「いいの?ぜひ行きたいな。」
そうして、ドブネズミとハムスターは2匹で旅に出た。

「ドブネズミくん、君はどこをめざして旅しているの?」
「俺は前住んでいたところを追い出されてな、新しい住処を探しているんだ。」
「ノラなのに好きなところに住めないの?」
「ノラでも人生全部を好きに生きられるわけじゃないからな。」
「ノラはノラで大変なんだね。僕やっていけるかな…。」
「案外何とかなるもんだよ。」
そんな話をしながら歩いていたが段々と日が傾いてきた。ドブネズミは川辺に下水道の穴を見つけそこで休むことにした。
「ドブネズミくん、ここなんか濡れてるし臭いんだけど。他にいい所はなかったの?」
「ネズミが眠れる場所なんてどこもこんなもんだよ。」
「そっか…。それなら仕方ないね、我慢してここで寝るよ。」
ハムスターは少ししょんぼりしながらできるだけ濡れていない場所で丸くなり眠った。

次の日、2匹が起きるとご飯を探し始めた。
「カゴの中なら朝はお皿にご飯が盛られてたんだけどな…。」
「自分で探し出した飯は結構美味いぞ。」
腹ぺこの体を懸命に動かし2匹は路地裏に捨てられている残飯を見つけた。
「ドブネズミくん、これ腐ってない?大丈夫?」
「かなり状態いい方だ、安心して食いな。」
初めて食べる味にハムスターはとても感動したがその後お腹を下した。

そんな生活を繰り返しながら旅は続き、ある日通りかかった用水路でネズミ一家に出会った。ドブネズミはその一家のお嬢さんに惚れ込んで自分もここに住むことを決めた。
「ハムスターくん、俺ここに住むって決めたよ。」
「そっか、新しい住処が見つかって良かったね!」
「ハムスターくんはこれからどうするんだい?一緒に旅をした仲だ、君もここで暮らさないか?」
ドブネズミの問いにハムスターは首を振った。
「色々考えんたんだけど、僕は元のカゴの中に帰ろうと思うよ。」
「なぜだい?せっかく自由になれたのに。」
「僕は人間に飼われている方が向いてたみたいなんだ。憧れてた外の世界は僕にとっての楽園じゃなかった。」
その答えにドブネズミは寂しさを覚えながらも、友人の決定を尊重することにした。
「そうか、それじゃここでお別れだな。」
「うん、旅に誘ってくれてすごく嬉しかったよ。」
「…正直君に会えなくなるのはすごく寂しいよ。元気でな。」
「ドブネズミくんも元気でね。」
別れの言葉を交わしハムスターはカゴをめざして帰っていった。
そうしてドブネズミの旅は終わった。

-自由なドブネズミと自由に憧れたハムスターの話-

4/29/2024, 7:16:27 PM

自分の箒を持ったのは10歳の時だった。
魔法使い兼魔法研究家の父からプレゼントされたそれは私には似合わず大きかった。
魔法の箒は自分の魔力を少しずつ馴染ませて育てていくものだと教えてもらった時から空を飛ぶのが夢だった私は、今までにないぐらいはしゃいでいた。
「この箒はお前が大人になっても使える丈夫なものだからね、大事にするんだぞ。」
「早くアイリスが空を飛ぶところが見て見たいわ」
と言いながら父と母は、優しい手で私の頭を撫でてくれたのを覚えている。

初めて空を飛んだ日は今でもよく覚えている。
そして、思うように飛べなくなった日もよく覚えている。

朝起きると1階からベーコンの焼けた美味しそうな匂いが漂ってきた。身支度を済ませてキッチンへと急ぐ。
「パパ、おはよう!」
「おはようお寝坊さん、早く食べないと学校に遅刻してしまうよ。」
「もう分かってる!起こしてくれても良かったのに!」
「声はかけたさ、お前があと起きるからもう少し寝かせてって言ってきたんだよ?それに、パパが声をかけなくても起きるぐらいじゃなくちゃダメだ。早寝早起きを心がけて〜」
と、長くなりそうな話を途中で遮り
「私そんなこと言ってないもん!…お弁当ありがとう、行ってきます!!」
私自身減らず口だと思うが反射的にそう返しつつ弁当をカバンに突っ込み、パンにベーコンを挟むと玄関に駆け出した。
「箒で乗っけていこうか?」
「だからいいって、箒は。遅刻してでも走ってく。」
父の問いかけにぶっきらぼうに返し家を出た。
後ろから「そうか…。」と悲しそうな声がしたが聞こえないふりをした。

私は自分が魔法を使えることを周りに知られたくない。
魔法は昔、差別の対象だった。人々の生活基盤に広く役立つようになってからは差別意識は薄れ受け入れられていったが、未だに罵ったり石を投げてくるものは多い。そいつらにまた見つかることが怖かった。

自分の席に座ると同時に授業開始の鐘がなった。
「また遅刻ギリギリ〜。」
そう声をかけてきたのは隣の席の友人リリーだ。
「間に合ってるからいいんです〜。」
「ダメダメ、早寝早起きは大切だよ?」
父と同じようなことを言ってる、と思いつつハイ…と返事をする。彼女のこういう面倒見のいい所が私は好きだ。この土地に引っ越してきた時面倒を見てくれたのも彼女とその家族だった。
これからも彼女もは友達でいたい、だからこそ余計に彼女にもほかの周りの人達にも私が魔法が使えることは知られてはいけないと思った。

「そういえばさ、今日1限目の先生遅くない?いつもなら教科書開いてるくらいの時間だよね。」
というリリーの問いかけに、そういえば変だなと違和感を持つ。今日の1限目の先生は時間厳守ほどではないが、時間は守ってくれる先生だ。
「何かあったのかな?」
2人で顔を見合わせていると前の席のレベッカが声をかけてきた。
「アタシね、今日見ちゃったの。」
「見たって何を?」
「教員室に入ってく見知らぬ男子を。」
「それって、転校生ってこと?」
レベッカは噂好きで顔が広い、彼女が見覚えのない人物なら本当に転校生なのかな?なんて考えながらリリーと目を合わせる。
「じゃあ今日クラスメイトが増えるかもしれないね」
とリリーが言う。私も頷きながら楽しみだねなんて呑気に返した。
そのままお喋りが盛り上がってきた時、ガラッとドアが開き先生と少年が入ってきた。レベッカが前に向き直りつつほらね?なんて目配せをしてくる。
「皆さん、おまたせしてすみません。授業を始める前に転校生を紹介します。さぁ、挨拶してください。」
「初めまして、ジャック・マーティンです。よろしくお願いします。」
その瞬間、私は彼の独特な雰囲気に呑まれて釘付けになった。顔が整っているからそのせいかと思ったが、なんだか漂う空気感が一般人のそれとは少し違っているように思う。どこかその空気に見覚えがあった気がしたがその思考はレベッカによって邪魔された。
「ねえ彼すごくカッコよくない?」
「え?あ、うん。」
思考を遮られ、呆気に取られつつ相槌を打つ。その後もレベッカは何か言っていたが生返事を返しながらもう一度彼を見る。彼と目が合った、彼もこちらをじっと見ていたのだ。何となくその視線に居心地の悪さを感じ目を逸らした。その後は声をかけられるといったハプニングは起きずに学校が終わる。彼は一日中クラスメイトの質問攻めにあっていたからか多少疲れた様子だった。彼はあまり人とつるむことが好きじゃないのか終始周りに対して冷たく接していた。そして、一日過ごしてみて彼は不思議な人だと思った。何か気になるのだが、関わっては行けないようなそんな感じだ。

学校でリリーと別れ帰っている途中、後ろから「なぁアンタ、 ちょっと待ってくれ」と声をかけられた。振り返ると例の転校生がいた。
「え、私?」
「そう、アンタ。」
突然声をかけられたことに動揺し返事につまる。そのまま無言の間が続くと相手が口を開いた。
「あー、俺ジャック。」
「うん、知ってる。今日転校してきた人だよね?」
「そう、アンタは?」
「あ、私アイリス。」
そこでまた会話が途切れる。なんだか気まづくなってきた私は早々にここを去ろうと決めた。
「えっと、それじゃあ。用がないなら行くね?」
「用ならある。アンタ魔法使えるだろ。」
その言われた瞬間、体から体温が奪われていくのを感じた。
「え、なに、突然。」
言葉が出てこない。どうして気づかれたのだろうか。
「突然って、魔法使うならわかるだろうけど魔力残滓体のあちこちにくっつけてるじゃん。」
そこで思い出した、彼の雰囲気の違和感。私は彼の魔力残滓に本能で気づいていたらしい。今まで父以外の魔法使いに出会ったことがなかったせいかそれが魔力残滓である事が分からなかっただけだ。
「誰にも言わないで!!!!!」
完全にパニックになった私はそういい彼にすがりついていた。彼が差別を気にしない魔法使いならきっとみんなにバラすだろう。そんなことされたら私は人生は終わってしまう、せっかく前の町から逃げてきたのに水の泡になってしまう、そんな思いがぐるぐると脳内を駆け巡る。彼は突然飛びついてきた私に驚きつつ
「ただ、俺はアンタに珍しい魔力残滓がついてたから気になったんだよ。」
と言ってきた。
「珍しい??」
珍しい魔力残滓という言葉が耳につく。
「珍しい魔力残滓って何?」
「少しだけど、古代魔法の跡がある。あんたが使ったんじゃないのか?」
「古代?…何それ。」
「心当たりないのか。」
「うん。」
その返事を聞くと彼は一瞬残念そうな顔をした後、
「思い違いか。悪かった、それじゃ。」
そう言うと彼はさっさと引き返しすぐ見えなくなった。

家に帰ったあとも彼とのやり取りが頭から離れなかった。バレてしまったのだ、魔法使いであることが。思い返してみれば言いふらさないという願いの返事を聞けていない。もしかしたら明日学校に行ったら自分が魔法使いだとバレているかもしれない。そう思うだけで胃がギュッと傷んだ。
それと同時に彼が言ったことも気にかかる。古代魔法とはなんの事だったのか今も理解出来ていないからだ。自分はめっきり魔法のことは勉強していないから存在を知らないが、そう言う部類の魔法もあるのか…などと考える。結局知らないことをいくら考えても無駄だという結論に至り、父に聞いてみることにした。
「ねぇパパ、古代魔法って知ってる?」
そう言うと少しの沈黙の後、父の目がみるみる開いていく。
「………アイリス、魔法に興味が出てきたのかい?…そっか、パパ嬉しいよ!それにしても古代魔法なんてどこで知ったんだい?」
嬉々として話す父に、聞くのは間違いだったかと一瞬思う。
「違うのパパ、今でも魔法を勉強する気は無いの。ただ古代魔法ってなにか気になっただけなの。」
その答えに父は少し気落ちしたのか、声のトーンがワントーン下がる。
「そうか、やっぱりまだ気乗りしないか。…えっと、古代魔法だったね。それはね文字通り昔に使われていた魔法なんだけどとても謎が多いんだ。」
「謎が多い?なんで?」
「解読できていないんだよ。今僕たちが使っている言葉とは違う言葉で構築されているんだ。解読するにも手こずっていてね、あまり手がかりがないんだよ。」
「なんで?魔法って受け継がれていくものじゃないの?」
「そうだね、僕たちが今使っている魔法は昔から受け継がれたものを改良したりして使われている。古代魔法はその様子がないんだ。不自然な程に突然使用されなくなっていてね、パパも研究が行き詰まって困っているんだよ〜。」
「ふーん、そうなんだ。待って、今パパ研究って言った?古代魔法の研究してるの?」
「そうだよ、パパの仕事は魔法の研究をしてその結果を国に伝えることだからね。古代魔法のことも調べているんだ。」
「パパの研究分野は生活魔法だって言ってたじゃん。この間だってお湯がもっと早く湧くための魔法での熱の加え方の研究が〜みたいなこと言ってたのに。」
私は捲したてるように話していく。生活魔法以外だと攻撃魔法程度しか知らなかったが、今日初めて聞いた古代魔法が父の研究分野だということに驚いたからだ。
「元々パパは生活魔法の研究をしていたよ。古代魔法の研究は受け継いだものなんだ。」
「受け継いだって誰から?」
「アイリスのママからだよ。まさか娘がパパの研究より先に興味を示したのがママの研究だったとはね。これが血ってやつなのかな…?」
そんなことをしみじみとした面持ちで父は話していた。母は私が11歳の時に差別主義者に捕まって、殺されてしまった。私は死んだ母を見たことは無い、父と逃げた先で伝えられたからだ。
「そっか、ママからなんだ…。」
私はなんて答えたらいいのか分からなくなり父の言った言葉をただ復唱した。
「うん、ママはパパより凄い研究者でね、古代魔法を少し解読したんだよ。研究資料は焼かれてしまったからパパは分からずしまいだけどね。」
そこでふと、彼が言っていた魔力残滓のことが気になった。
「ねぇパパは古代魔法は使えないんだよね?」
「あぁ、パパは呪文を唱えられないから使えないよ。」
「じゃあママは使えた?」
「呪文を唱えることさえできてたら使えたんじゃないかな?」
「じゃあさ、魔力残滓って使った人以外にも付くの?」
そこで父は不思議そうな顔をした。
「魔力残滓?なんで突然?」
「いいから、付くの?」
「基本は付かないよ。魔力残滓は魔法を使った時に出る不純物のようなものだからね、使った本人の体に残るんだ。」
そうなると私についていたものはなんだったのだろうかと言う疑問が湧いてくる。その時父があっと声を上げた。
「そういえば相手に魔法を付与する時は稀に付くことがあるらしいよ。パパは戦闘魔法系は専門外だからよく分からないんだけどね。」
魔法を付与する、そうなると母がなにか私に魔法をかけて、その残滓が残っていたということなのか、しかし母と最後にあったのはもう5年も前だ。そこまで残っているのか、さらに分からないことが増えてしまった。
考え込んでいると父が顔をのぞきこんで話しかけてくる。
「ところでアイリス、突然こんな質問してくるなんてどうしたんだい?」
父が疑問に思うのも当然だ。私は母が死んでから魔法を使うことも知ることも怖くなり、それまで行っていた魔法の勉強の一切を拒否していた。そのせいで魔力残滓のことも忘れていたし、古代魔法について何一つ知らなかった。
「あのね、パパ…。」
私は今日起こったことをありのまま父に話した。ひとしきり聞き終えると父は考える素振りを見せてから
「もしかしたらママはアイリスになにかの古代魔法をかけていたのかもしれないね。それにしても一目見ただけで残滓から古代魔法なんてよくわかったねその彼。」
「え?残滓って見ただけじゃ分からないの…?……パパ?」
父の方を見ると、独り言のように
「それにしても残滓がこんなに長く残っているなんて古代魔法は余程強力な魔法なのか…。」
とブツブツ言いながらペンを取り何かを書き留め始めていた。きっと研究心に火がついたのだろう。私は邪魔しないようにその場を後にした。部屋に戻った私はまだ母が生きていた跡が残っていた事実に嬉しさと悲しさを胸に抱きながら眠りについた。

次の日、ビクビクしながらいった学校はなんの代わりもなく魔法のマの字もなかった。昨日突然絡んできたジャックはこちらを少しも見ることすらせず拍子抜けするほどにいつも通り平和は一日になった。
ただ、昨日あんなふうに声をかけておいて用が無くなれば挨拶も無しとは薄情な話だ。
(勝手に私の秘密を暴いておいてハイサヨウナラなんてさせてたまるか)
なんて考えがふと過ぎった。そうだ、私は今彼に弱みを握られているんだ。その状況を何とかしないといけない。とりあえずもう一度彼と話して誰にも言わないように約束を取り付けないと私の平穏な生活は帰ってこないような気がした。そして私は放課後、今度はこちらから声をかけてやろうと決めた。

放課後、教室を出ていく彼を追いかける。
「ねぇちょっと待って!ジャック!」
思ったより早い足取りに慌てて声をかけると、ピタッと歩みが止まり
「なんだよ。」
とぶっきらぼうに返事をしてきた。
「話があるの、昨日の、アレ…。」
声をかけてから気づいた、ここは廊下、魔法のことなんて堂々と話せないということに。しどろもどろになる私に彼はため息をつき
「あぁ、いいぜ。帰りながら話そう。」
と答えまた歩き始めた。私は慌てて彼の後を追った。

--まだ途中--

4/28/2024, 4:56:20 PM

私の住んでいる地域は国境の近くに位置しており、よく戦争の被害を受けていた。

貧困のためこの土地から離れられなかった私は幼い頃から遠くの金持ちの家に奉公に出て時々家に帰るような生活を送っていた。奉公先の家の方々も周りに比べたらとても優しく、この生活にあまり不満はなかった。

そんな生活が崩れたのは国から隣国と戦争をするという発表が出てからだった。
父の元に召集命令が来たのだ。
それからうちの近くではよく銃の音、戦車が走る音、戦闘機のエンジン音が響くようになり眠れなくなった。

それでもお金が無くては暮らしていけない、私は奉公先に休みもらわず働き詰めた。

家に帰ったのは情勢が悪化し奉公先から解雇を言い渡されてからのことだった。

すずめの涙ばかりの退職金を大事に持ちながら帰路を歩いていると前から強烈な爆発音が次々と響いてきた。空を見上げると爆撃機らしきものから無数の火の雨が降り注いできている。

その瞬間私は駆け出していた、爆撃されているのは家の近くだった。母は大丈夫だろうか、その思いばかり先行し足がもつれ上手く前へ進めない。やっとの思いで家が見えるところまで走った。

だが家は既に半分以上形を保つことな崩れていた。


母は瓦礫に押し潰されていた。声をかけても揺すっても少しも反応がない。玄関があったであろう場所で倒れており逃げ遅れたことが容易に想像出来た。

私は腰が抜け、ただその場に座り込むしか無かった。

お金が無いながらも自分を愛情を込めて育ててくれた母、奉公が始まってから頻繁に体調を気遣ってくれた母、最近父からの手紙が来ないと心配していた母、昨日まで手紙のやり取りをしていた母は、いまさっき死んでしまった。


実感が湧かなかった。


私は日が暮れ朝日が登るまで母の手を握りその場から動かなかった。

どうやら爆撃は私が家に着く前に止んでいたようだった、いっそ自分も爆発に巻き込まれて死んでしまいたかったが世界はそんなに私に優しくないらしい。
このまま何も食べずにここにいれば死んでまた母に会えるだろうか。
もしかしたら手紙が途切れた父ももう死んでしまったのかもしれない。
それならいっそ早く死んでしまいたいと思った。

そんな時だった。

「おい、嬢ちゃん。そんな目立つところにいたらあいつらが銃撃しにくるぞ。」

と後ろから男の声がした。

4/10/2024, 5:23:26 PM

君とこの桜をもう一度見ることは叶わなかったね。
どうか安らかに。

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