妄想の吐き捨て場所

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1/16/2024, 6:46:01 PM

美というものはとても抽象的なものだ。
彼はそんな『美』を形に残そうといつも1人創作活動に向き合っていた。

芸術の神童と崇められていた彼は唯一自分の作品に納得のいっていない人間だった。粘土で作ったオブジェも彩に溢れた油絵も「本物の『美』だ」と称賛され高値で取引されたが、彼曰く「あれは美の模倣であり、『美』そのものでは無い」らしい。

彼はいつまでもどこまでも『美』そのものの追求を怠らなかった。アトリエで作業する以外は外に目を向け色々なものを吸収した。しかし彼が美しいと感じたものを作り上げても作品になった瞬間、それは『美の模倣』というものになってしまうと彼は語った。

しかしそんな彼の作品は世界中の美術家に絶大な人気を誇っており、新しく完成した作品も作者本人が目に焼きつける前に売り飛ばされる程だった。それほど充分に認められても彼は自分の作品に満足がいかない。

ならば彼にとっての『美』とはいかなるものなのか?
「本物の『美』とは、世界中の人々の心に安らぎを与えるもの。分け隔てなく全ての人の傷ついた心を癒せるもの。」と彼は言った。

そんなもの人間に作ることができるのか、出来るとすればそれはもう人間と呼べるのか。疑問に思う部分はあるがこの答えが彼の心から出た純粋な気持ちだった。




今日も彼は本物の『美』を追い求める。

11/9/2023, 5:30:49 PM

その夜はいつもより空気が澄んでいる気がした。

スーと息を吸ってフーと吐く。息を吸う度にキリッとした冷たい空気が喉を通り熱を持った肺を冷やしてくれる、月の明かりに透けた紅葉がさらに色づいて見える。
夜の散歩は好きだ、特に秋の夜は心地がいい。心の中に溜まっていたわだかまりがサラサラと溶けてなくなっていくような感じがする。
月明かりと街頭以外に自分を照らすものがないからだろうか。
家にいる時より余程安心感がある。

-このまま月明かりに溶けてなくなりたい-

そんなポエミーなことを考えながらぼーっと歩いているといつの間にか知らない道に出ていた。
少し驚きながら周りを見回すが振り返ってみても全く帰り方が分からなくなっている、完全に迷子だ。
思い耽っているうちに歩きすぎてしまったかな、と考えながらとりあえず来た道を戻ってみることにした。
曲がったりはしていないから真っ直ぐ戻れば帰る方向が分かって来るだろうと歩みを進める、がその考えは直ぐに崩された。
真っ直ぐ行った先には舗装されていない山道ともけもの道ともとれる道に繋がっていたからだ。
道を間違えたかと引き返したが他に真っ直ぐ行けそうな道は無い。最初は曲がり角を覗いては通った記憶が無いか探っていたが一向に手掛かりが掴めず強硬手段に出ることにした。手当り次第に曲がり角を曲がって見ることにした。
のに、どう歩いても最終的に山道の方へと戻ってきてしまう。右に曲がっても左に曲がっても、山道に背を向けて走っても目の前に現れるのだ。
そんなことを繰り返しているうちに段々と気味が悪くなってきた。考えてみれば最初からおかしかった。元々道を覚えるのが得意な自分がいくら考え事をしながら歩いていたとしても来た道を見失うなんてことは普通ないし、家を出てから徒歩で全く知らない土地に着くには全然時間が足りない。そもそもこんなよくある住宅街に山道があるのもおかしい、公園のちょっとしたハイキングコースなんかじゃない正真正銘の山道だ。それが道に迷って引き返したら目の前に現れた、絶対におかしい。
しかしこのまま見覚えのない住宅街を彷徨いていても埒が明かない気がした。気がしたというだけで本当は何とかなったのかもしれない。しかし、動揺していた自分の脳は山道に入ってみるべきだと告げ心はそれに従った。

石がゴロゴロとして不安定な地面となれない少し急な登り坂というダブルコンボに山に入って少ししか経っていないのに息が上がってきた。
軽率に踏み入れたことを後悔してきたが、引き返す気はなかった。戻ってもまた迷路のような住宅街に阻まれるか最悪今度は山から出ることが出来ないような気さえしていたからである。幸い月明かりのおかげで周りが良く見え道は見失わずにすんでいるし、今は前に進むことだけにしようとひたすら足を動かす。道はどんどん狭くなり本当にけもの道のようになってきたが気にしている場合では無い。
どれくらい登ったか、額には汗が滲み息も絶え絶えになってきた時ふと先の方に明かりを見つけた。
自分住んでいる住宅街の明かりかもと嬉しくなり駆け寄るが、期待したものはそこには無かった。
走り着いた先には灯篭が両脇に真っ直ぐ並んだ道があった。今度は舗装された道だったがコンクリートではなく石畳だ。
見るからに異様な光景に進むことを躊躇ったがけもの道は石畳のところに出てからふっと切れてしまっていてそれ以外に進みようがない。山道に入ることを決めた時よりも熟考したが結局石畳の道に進むしかないと思い至った。

スーと息を吸ってフーと吐く、落ち着くためのおまじないだ。緊張と不安でドクドクいう胸を抑えながら不気味としか言いようのない道に一歩踏み入れた。
灯篭の明かりはずっと向こうの方まで続いていた。

11/9/2023, 4:05:40 PM

よく夢を見る。君が颯爽と現れて私をさらっていく夢だ。

身分差の恋、身分差はなくても立場上一緒になれない恋。そんな恋の物語を読んでいる時、私は"叶わぬ恋"そのものに憧れを抱く。

8/12/2023, 6:19:02 PM

いつか君と心の底から笑い合いたい。

そう願う僕は、やはり傲慢だろうか。

8/9/2023, 4:25:06 PM

自分の行動に対して成功を求められるようになったのは、母が精神を病み祖父母に育てられるようになってからだった。
昔アイドルを目指していた親が、子供が生まれたことでその子に芸能界を目指させる。大人が子供に自分が叶えられなかった夢を背負わせる、よくある話だ。
祖父母は自尊心が高く自分たちこそは最高の魔法使いだとよく僕に自慢していた。歳をとるにつれて成熟していく魔法は確かに僕よりは断然洗練されていた。ただ、まだ歳が2桁にもなっていない僕よりは上手いだけ。世間的に見れば平均的かそれよりも下なぐらいの人達だった。高い自尊心に見合わぬ実力に劣等感があったのだろう。だから彼らは最高の魔法使いになるという夢を僕に課せてきた。
両親の目がないことをいいことに朝から晩まで勉強部屋に閉じ込めて机に向かっていない所を見られたらムチで叩かれた。食事とトイレは一日に2回でそれ以外は椅子に座りっぱなしかお下がりの杖で的に魔法を当てる練習をさせられていた。そんな生活を続けていたらガタがくる。分かりきっていることなのに、僕が体調を悪くする度に彼らは罵詈雑言を僕にあびせかけた。
僕はただ耐えるしかなかった。

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