妄想の吐き捨て場所

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美というものはとても抽象的なものだ。
彼はそんな『美』を形に残そうといつも1人創作活動に向き合っていた。

芸術の神童と崇められていた彼は唯一自分の作品に納得のいっていない人間だった。粘土で作ったオブジェも彩に溢れた油絵も「本物の『美』だ」と称賛され高値で取引されたが、彼曰く「あれは美の模倣であり、『美』そのものでは無い」らしい。

彼はいつまでもどこまでも『美』そのものの追求を怠らなかった。アトリエで作業する以外は外に目を向け色々なものを吸収した。しかし彼が美しいと感じたものを作り上げても作品になった瞬間、それは『美の模倣』というものになってしまうと彼は語った。

しかしそんな彼の作品は世界中の美術家に絶大な人気を誇っており、新しく完成した作品も作者本人が目に焼きつける前に売り飛ばされる程だった。それほど充分に認められても彼は自分の作品に満足がいかない。

ならば彼にとっての『美』とはいかなるものなのか?
「本物の『美』とは、世界中の人々の心に安らぎを与えるもの。分け隔てなく全ての人の傷ついた心を癒せるもの。」と彼は言った。

そんなもの人間に作ることができるのか、出来るとすればそれはもう人間と呼べるのか。疑問に思う部分はあるがこの答えが彼の心から出た純粋な気持ちだった。




今日も彼は本物の『美』を追い求める。

1/16/2024, 6:46:01 PM