妄想の吐き捨て場所

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ある時、ドブネズミは旅に出た。
しばらく歩くとハムスターと出会った。
「やぁこんにちは。」
「こんにちは、君も脱走してきたの?」
挨拶をするとハムスターはそんなことを聞いてくる。
「いいや、俺はノラのドブネズミなんだよ。」
「それは羨ましいなぁ」
「どうしてだい?」
その問いかけにハムスターは深くため息をついた。
「僕の生活はそれはもう窮屈なんだよ。一日中狭いカゴの中に入れられて、自由がないんだ。」
項垂れている様子のハムスターは罠籠にでも入れられていたのかとドブネズミは同情した。
「それじゃあ、俺の旅についてくるかい?」
「いいの?ぜひ行きたいな。」
そうして、ドブネズミとハムスターは2匹で旅に出た。

「ドブネズミくん、君はどこをめざして旅しているの?」
「俺は前住んでいたところを追い出されてな、新しい住処を探しているんだ。」
「ノラなのに好きなところに住めないの?」
「ノラでも人生全部を好きに生きられるわけじゃないからな。」
「ノラはノラで大変なんだね。僕やっていけるかな…。」
「案外何とかなるもんだよ。」
そんな話をしながら歩いていたが段々と日が傾いてきた。ドブネズミは川辺に下水道の穴を見つけそこで休むことにした。
「ドブネズミくん、ここなんか濡れてるし臭いんだけど。他にいい所はなかったの?」
「ネズミが眠れる場所なんてどこもこんなもんだよ。」
「そっか…。それなら仕方ないね、我慢してここで寝るよ。」
ハムスターは少ししょんぼりしながらできるだけ濡れていない場所で丸くなり眠った。

次の日、2匹が起きるとご飯を探し始めた。
「カゴの中なら朝はお皿にご飯が盛られてたんだけどな…。」
「自分で探し出した飯は結構美味いぞ。」
腹ぺこの体を懸命に動かし2匹は路地裏に捨てられている残飯を見つけた。
「ドブネズミくん、これ腐ってない?大丈夫?」
「かなり状態いい方だ、安心して食いな。」
初めて食べる味にハムスターはとても感動したがその後お腹を下した。

そんな生活を繰り返しながら旅は続き、ある日通りかかった用水路でネズミ一家に出会った。ドブネズミはその一家のお嬢さんに惚れ込んで自分もここに住むことを決めた。
「ハムスターくん、俺ここに住むって決めたよ。」
「そっか、新しい住処が見つかって良かったね!」
「ハムスターくんはこれからどうするんだい?一緒に旅をした仲だ、君もここで暮らさないか?」
ドブネズミの問いにハムスターは首を振った。
「色々考えんたんだけど、僕は元のカゴの中に帰ろうと思うよ。」
「なぜだい?せっかく自由になれたのに。」
「僕は人間に飼われている方が向いてたみたいなんだ。憧れてた外の世界は僕にとっての楽園じゃなかった。」
その答えにドブネズミは寂しさを覚えながらも、友人の決定を尊重することにした。
「そうか、それじゃここでお別れだな。」
「うん、旅に誘ってくれてすごく嬉しかったよ。」
「…正直君に会えなくなるのはすごく寂しいよ。元気でな。」
「ドブネズミくんも元気でね。」
別れの言葉を交わしハムスターはカゴをめざして帰っていった。
そうしてドブネズミの旅は終わった。

-自由なドブネズミと自由に憧れたハムスターの話-

4/30/2024, 1:59:57 PM