妄想の吐き捨て場所

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あなたはみんなの英雄で、私が出会った中で誰よりも不器用な人だった。
ひねくれてる私のような人間にも救いの手を伸ばして見返りを求めることもない。
私はそんなあなたが最初は消えて欲しいと妄想をするほど嫌いだった。誰よりも恵まれてる人間だと思っていたから。
きっとあなたには心から信頼出来る仲間や、周りとは比べられないほどの魔力を保有し魔法の才能に溢れ卓越した魔法技術を持った人間だと思っていた。
だから私は気にかけてくれるあなたをいつも突き放してきた。
「"英雄様"が、私一人に構う時間が持った無いわよ。」なんて、こんな嫌味ったらしく。
彼は自分が英雄だと持ち上げられるのを嫌がっているようだった。(ならなんで、いちいちトラブルに首を突っ込むのかって話だけど。)
彼は「自分が人を助けることは当然の使命だ」というように振舞っていた。だから救いに見返りも求めないし、トラブルが起きれば真っ先に駆けつける。
そんなふうにしているから、周りも彼を当たり前のように頼るし、彼もそれに応えていつも傷を作っていた。
私はそんな彼も周りも奴らも気に入らなかった。

私は元から負け組側の人間だった。
片親で命の危険に晒されながら生きてきて、魔力量も平凡、周りに頼れる人間は一人もいなかった。
ただ一つ救いがあるとすれば、母親は女神のように暖かい人間で私はその恩恵を受けて育つことが出来たことだ。
母は周りから好かれる人間だった。近所で催しが開かれる時には必ず誘いを受けるし、何かごく小さな事でも困ったことがあれば周りの人間が自ら力を貸してくれていた。
私はそんな母には一片たりとも似なかった。例え私がどれだけ周りの人間に愛想良く振舞ったとしても、催しの誘いは一向に来ないし、急病で道端に倒れていたとしても皆が素通りしていく。そういう人間だ。
これは私の行いがどうのという話では無い、そういう星の元に生まれてしまったということなのだ。

曾祖母は占いや予言ができる人間だった。
私が曾祖母に初めて会ったのは4歳の時だ、曾祖母は父方の人間で母が父が死んでから見つけた親族だった。最初、曾祖母とほかの親族たちは父の忘れ形見の私を大層歓迎してくれた。今まで虐げられていた自分も環境が変われば周りと打ち解けて優しくされるんだと希望を抱いた。
ただその希望は叶うことの無い願望だとすぐに突きつけられた。
曾祖母と顔を合わせた瞬間、顔を強ばらせたかと思うと目の前で膝をついて泣き崩れたのだ。そうしてこういった。
「その子は将来人類が太刀打ち出来ない大厄災を呼ぶ、最悪の魔女だ。」
と。この言葉は私が16歳になった今でも心に深く刻み込まれ、私を苦しめてくる。
そして親族達はそんな曾祖母の予言をすぐに信じ、そうなる前に殺さなければと私を捕まえようとしてきた。今私が生きているのは、その時母が私を抱えてすぐ逃げてくれたからだ。殺されそうになる経験はこれだけだったが、他にも問答無用で嫌われたり、早く母を置いて家を出ていけなんてことを近所の人間から言われたりした。酷いことばかり経験した私は次第に周りに対して心を閉ざしていった。
そんな私からは陰気な空気が溢れ出ているのか私と目が合った人間は強ばり、避けるようになった。そしてそんな噂はすぐに広がり私はどこに行っても結局最後は孤立した。

そして、そんな気味が悪い孤立した人間に手を差し伸べて来たのが"英雄様"だった。
彼は助けた相手に失礼な態度をとられるのが初めてだったのか、その後から何かと理由をつけて私と行動を共にするようになった。
「やぁ、調子はどうだい?」
「やぁ、奇遇だね。図書館に行くのかい?実は僕もそっちに用があって…。」
なんて、こんなふうに何日も付きまとってくる。
いい加減うんざりしていた。
「ねぇあんた、この間から何なの?助けてもらったお礼でも待ってるわけ?言っておくけど、あんたの助けなんかなくても私ひとりであれぐらい何とかなったから!」
と、本日3回目の「やぁ」を聞いた時我慢の限界に達し半ば叫ぶように言い散らした。
「そんな、お礼が欲しいだなんて思ってないよ。」
"英雄様"は綺麗に整った眉毛を八の字にして否定をする。
「じゃあ何、さっきから私の後付け回して。」
「付け回してるつもりはないよ。ただ行く方にキミがいるから声をかけてるだけで…。」
「それならあんたと仲良くなりたがって着いてきてる周りのヤツら一人一人にも声をかけていけば?」
そう言うと彼は少し押し黙って体も固まった。私はそんな彼をいい気味なんて思いながら背にして図書館に急いだ。あの"英雄様"は今頃取り巻きに囲まれて身動きが取れなくなっているだろう。

---また後で続き書く---

5/5/2024, 4:59:38 PM