私の住んでいる地域は国境の近くに位置しており、よく戦争の被害を受けていた。
貧困のためこの土地から離れられなかった私は幼い頃から遠くの金持ちの家に奉公に出て時々家に帰るような生活を送っていた。奉公先の家の方々も周りに比べたらとても優しく、この生活にあまり不満はなかった。
そんな生活が崩れたのは国から隣国と戦争をするという発表が出てからだった。
父の元に召集命令が来たのだ。
それからうちの近くではよく銃の音、戦車が走る音、戦闘機のエンジン音が響くようになり眠れなくなった。
それでもお金が無くては暮らしていけない、私は奉公先に休みもらわず働き詰めた。
家に帰ったのは情勢が悪化し奉公先から解雇を言い渡されてからのことだった。
すずめの涙ばかりの退職金を大事に持ちながら帰路を歩いていると前から強烈な爆発音が次々と響いてきた。空を見上げると爆撃機らしきものから無数の火の雨が降り注いできている。
その瞬間私は駆け出していた、爆撃されているのは家の近くだった。母は大丈夫だろうか、その思いばかり先行し足がもつれ上手く前へ進めない。やっとの思いで家が見えるところまで走った。
だが家は既に半分以上形を保つことな崩れていた。
母は瓦礫に押し潰されていた。声をかけても揺すっても少しも反応がない。玄関があったであろう場所で倒れており逃げ遅れたことが容易に想像出来た。
私は腰が抜け、ただその場に座り込むしか無かった。
お金が無いながらも自分を愛情を込めて育ててくれた母、奉公が始まってから頻繁に体調を気遣ってくれた母、最近父からの手紙が来ないと心配していた母、昨日まで手紙のやり取りをしていた母は、いまさっき死んでしまった。
実感が湧かなかった。
私は日が暮れ朝日が登るまで母の手を握りその場から動かなかった。
どうやら爆撃は私が家に着く前に止んでいたようだった、いっそ自分も爆発に巻き込まれて死んでしまいたかったが世界はそんなに私に優しくないらしい。
このまま何も食べずにここにいれば死んでまた母に会えるだろうか。
もしかしたら手紙が途切れた父ももう死んでしまったのかもしれない。
それならいっそ早く死んでしまいたいと思った。
そんな時だった。
「おい、嬢ちゃん。そんな目立つところにいたらあいつらが銃撃しにくるぞ。」
と後ろから男の声がした。
4/28/2024, 4:56:20 PM