星乃 砂

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7/28/2024, 10:11:45 AM

《巡り逢うその先に》
        第2章 11

主な登場人物
 金城小夜子
     (きんじょうさよこ)
   玲央      (れお)
   真央      (まお)
   綾乃   (母 あやの)
 椎名友子  (しいなともこ)
 若宮園子 (わかみやそのこ)
   大吉    (だいきち)
 東山純 (ひがしやまじゅん)

 向井加寿磨 (むかいかずま)
   ユカリ      (母)
   秀一      (義父)

 桜井華   (さくらいはな)
   大樹  (父 たいじゅ)
 高峰桔梗(たかみねききょう) 
   樹      (いつき)
 葛城晴美 (かつらぎはるみ)

 柳田剛志 (やなぎだたかし)
 桜井大樹(さくらいたいじゅ)
 横山雅  (よこやまみやび)

 京町琴美(きょうまちことみ)
 倉敷響  (くらしきひびき)

 葛城晴美 (かつらぎはるみ)
 犬塚刑事    (いぬづか)
 足立       (あだち)
 黒鉄銀次 (くろがねぎんじ)

「待ちなさい、どうして逃げるんですか?」
「そりゃお巡りさんに追いかけられたら逃げるでしょ」
「ちょっと聞きたいことがあるだけだから、止まりにさい」
桜井華と高峰桔梗は男を追いかけていた。
そこに、白バイに乗った葛城晴美が通りかかった。
「晴美、アイツを止めて」
「OK」
晴美は先回りをして男をぶっ飛ばした。
「晴美、やりすぎよ」
「だってコイツなんかやらかして逃げてたんじゃないんですか?」
「違うはよ、ちょっと話しを聞きたかっただけよ」
「えー、やだー、チンピラ君ゴメンね」
「酷いですよ、いきなり殴るなんて!」
「だからゴメンって謝ってるじゃない。ダメなの?ねぇ、おい。やんのかコラ!」
「いえ、あの、お気になさらずにすみません」
「それならいい」
ひと段落したところで、華が話し出した。
「済んだか?なら、本題に入るが、お前海江田だな?」
「ああ」
「最近多発している自転車業界を狙った詐欺事件に付いて何か知らないか?」
男の顔付きが変わった。
「知らねーな」
「本当に知らないのか?」
「ああ」
「じゃあ、黒鉄銀次は知っているか?」
途端に男の顔から血の気が引いていった。
「し、知らない。俺は何も知らない」
「ウソをつくな、知ってるって顔に書いてあるぞ」
「言わないなら、もう一発いっとくか?」と、晴美が凄む。
「ひー、勘弁してくれ。言ったら半殺しにされちまうよ」
「話してくれれば、もうお前の前には現れない。今日のことは、誰にも見られていない。バレはしない、大丈夫だ」
海江田はしばらく考えてからうなづきた。
「わかった話すよ。正直そろそろ足を洗いたいと思っていたんだ。
あんたの言う通り自転車業界を狙った詐欺事件の黒幕は黒鉄銀次さんだ。5人がカモられたよ」
「それを裏付ける証拠は何かないか?」
「その証拠を俺は持ってない。詐欺で捕まえたって、懲役数年ってところだろ。俺は銀次さんを死刑にできる証拠を持ってるぜ」
「なんだって、それはいったいなんだ?」
「確実に捕まえてくれるかい。万が一取り逃がしたら、俺の身が危なくなる。約束できるかい?」
「約束する。私は黒鉄銀次を捕まえるために刑事になったんだ」
「ほうそうかい。訳ありとようだな、わかったよあんたに託すぜ。
俺が持っているのは14年前の警察官殺しに使った凶器のナイフだ」
「なんだって、なぜお前がそんなものを持っているんだ」
「あの頃、俺は銀次さんのパシリだったんだ。処分するように言われたんだが、憧れの銀次さんがカッコよくてジップロックに入れて毎日眺めてたんだ。だが、最近の銀次さんは人を騙して喜んでる。なんか中学生のガキみたいでダサくってよ。熱が冷めちまったんだよ。明日の夜11時にここに来な、そん時渡す」
「わかった。必ず刑務所にぶち込んでやる」
「華さん、良かったですね。これでやっとお父さんのカタキが取れますね」
「ああ、そして桔梗のご両親殺害の関与も暴かなければな」
だが、次の日約束の時間になっても海江田は現れなかった。
それどころか、翌朝刺殺体として発見された。

           つづく

7/23/2024, 11:10:35 AM

《巡り逢うその先に》
        第2章 ⑩

主な登場人物
 金城小夜子
     (きんじょうさよこ)
   玲央      (れお)
   真央      (まお)
   綾乃   (母 あやの)
 椎名友子  (しいなともこ)
 若宮園子 (わかみやそのこ)
   大吉    (だいきち)
 東山純 (ひがしやまじゅん)

 向井加寿磨 (むかいかずま)
   ユカリ      (母)
   秀一      (義父)

 桜井華   (さくらいはな)
   大樹  (父 たいじゅ)
 高峰桔梗(たかみねききょう) 
   樹      (いつき)

 柳田剛志 (やなぎだたかし)
 桜井大樹(さくらいたいじゅ)
 横山雅  (よこやまみやび)

 京町琴美(きょうまちことみ)
 倉敷響  (くらしきひびき)

 葛城晴美 (かつらぎはるみ)
 犬塚刑事    (いぬづか)
 足立       (あだち)
 黒鉄銀次 (くろがねぎんじ)

そして、もうひとり。
「はじめまして、私、高知県警から来た...」
「犬塚じゃないか」
声を掛けたのは柳田剛志だった。
「どうして高知県警のお前がここにいるんだ」
犬塚は驚いた。こんな小さな子に知り合いはいない。ましてや呼び捨てにされる覚えもない。だが、どこかで会ったことがあるような気もするのだが。
「君は?」
「はぁ、俺がわからないのか?」
横山雅にヒジテツを喰らわされ剛志は我に帰った。
「あっ、す、すいません人違いでした。僕は柳田剛志です。小夜子さんの弟のクラスメートです」
「そうですか。わかりました。改めまして、私は高知県警の犬塚といいます。サイクルショップ田中さんの詐欺事件のことで金城小夜子さんにお話しを伺いたいのですが?」
「なんだって!それは企業詐欺のことか!高知からわざわざ福島までお前が来たってことは、まさか黒鉄銀次が絡んでるのか?」
「剛志ちょっと落ち着いて」
雅に言われて、しまったと思ったがもう遅い。
「どうして君が黒鉄銀次のことを知っているんだ。しかも、私はまだ名前も言っていないのに?」
すかさず雅が間に入った。
「すいません犬塚さん。どうぞ先に小夜子さんと話しをして下さい。私たちは廊下で待ってますから」
雅は剛志の腕を引っ張って廊下に出ていった。
剛志は混乱していた。今まで雅にすらバレずに隠してきたのに、だが、黒鉄銀次のことだけは放ってはおけない。
「剛志、私に隠し事してるわね。全部話して」
「言ったところで、信じてはもらえないと思う」
「見損なわないで、たとえ剛志が宇宙人だとしても私の気持ちは変わらないわよ」
雅の真剣な眼差しには少しの濁りもなかった。
「わかった全部話すよ。僕は桜井大樹の生前の記憶を持ったまま生まれたんだ」
「生まれ変わりっていう事?」
「そういう事なんだ、ゴメン」
「ならよかった」
「よかった?」
「うん、だってもし宇宙人で、いずれM78星に帰るって言ったら、
私そこでやっていけるか不安だったんだもん」
「僕がM78星に帰るって言ったら一緒に行くつもりだったのか?」
「当たり前でしょ」
ドアが開いて犬塚が出てきた。
「今の話しは本当なのか、君が桜井さんの生まれ変わりだっていうのか」
「そうだ」
「そんな事信じられるか」
「犬塚の奥さんの名前は春江さん娘は夏希、今年で中学3年生かな」
犬塚は驚いた。どうして自分のこじん情報を知っているんだ。
「息子が5年生になりました」
「そうか、よかったじゃないか息子を欲しがっていたからな」
「本当に桜井さんなんですか?」
「さっきからそう言っている」
「こんな非現実的なことを警察官の私が認めることは出来ない。だが、桜井さんの言葉は、信じられます。だから、私がここに来た経緯を説明します」
犬塚はサイクルショップ田中が詐欺にあって、その裏に黒鉄銀次がいるという情報を得て福島まで来たと伝えた」
「そうか、で、奴の居所は掴んでいるのか?」
「それは、華さん達が当たっています」
「華が警察官になったのか」
「はい、今は捜査一課の刑事で私のバディです」
「そうか」
「そしてもうひとり、桜井さんが身を挺して守った夫婦の娘さんも警察官になり、華さんの家で一緒にいます」
「そうか、他にもいろいろ聞きたいことがある。今晩一杯飲みながら話そうか」
「何言ってるの、剛志はまだ小学生でしょ」
「あの、桜井さんこちらの方は奥さんですか?」
「そうです」雅はキッパリと答えた。

           つづく

7/21/2024, 9:49:47 PM

《巡り逢うその先に》
        第2章 ⑨

主な登場人物
 金城小夜子
     (きんじょうさよこ)
   玲央      (れお)
   真央      (まお)
   綾乃   (母 あやの)
 椎名友子  (しいなともこ)
 若宮園子 (わかみやそのこ)
   大吉    (だいきち)
 東山純 (ひがしやまじゅん)

 向井加寿磨 (むかいかずま)
   ユカリ      (母)
   秀一      (義父)

 桜井華   (さくらいはな)
 高峰桔梗(たかみねききょう) 
   樹      (いつき)

 柳田剛志 (やなぎだたかし)
 横山雅  (よこやまみやび)

 京町琴美(きょうまちことみ)
 倉敷響  (くらしきひびき)

 葛城晴美 (かつらぎはるみ)
 犬塚刑事    (いぬづか)
 足立       (あだち)
 黒鉄銀次 (くろがねぎんじ)

やっとカズ君に会える。
小夜子は飛び跳ねたい気持ちを抑えながら閉店の準備をしていた。
そこに、園子と大吉が血相を変えて現れた。
「小夜子、大変だよ」
「田中の野郎がよ...」
「詐欺にあって、倒産したって、この2号店も差押えられるって」
小夜子は目の前が真っ暗になり、その場に崩れ落ちた。
救急車で病院に運ばれ、医師の診断によると、過労だろうということであった。が、次の日の昼になっても目を覚さない。
そのため、頭のCT検査をすることになった。しかし異常はなかった。原因がわからないまま、3日が過ぎた。
「ねぇ響、眠り姫のこと聞いた?あの子って、以前にも病院で会ってるよね?」
この時、響と琴美は響の叔父のいる病院に研修に来ていた。
「うん琴美も覚えてたか。おばあさんが運び込まれた時だったな」
「あの子、なんで目が覚めないんだろうね?」
「たぶん精神的なものじゃないかな?」
「やっぱりそう思う?私ちょっとお母さんに話し聞いてくるね」
「琴美は医者じゃないんだからあんまり首突っ込むなよ」
「ちょっと聞くだけよ」
琴美はまず母親から話しを聞き、倒れた時にそばにいた園子さんに聞き、バイトのジュンにも話しを聞いて大体のことはわかった。
それを響に話した。
「そうか、そうなると、特効薬はその加寿磨君ってことだな。でも彼がどこにいるかはわからないということか」
「東京のK大に通ってるようだから、会えるかもよ」
「俺たちと一緒じゃないか、何学部だ」
「法学部だってさ」
「戻ったら、探してみるか」
そして次の日、病室のドアが勢いよく開かれて椎名友子が入ってきた。
「おばさん、小夜子は無事なの」
「友子ちゃん、わざわざ来てくれたの、あなた沖縄にいたんじゃなかったかしら?」
「バイト先の社長さんに連れて来てもらったの」
「お久しぶりです綾乃さん」
「まぁ、お義父さん、どうして」
「友子君が血相を変えて、福島に行きたいからお金を貸して欲しいって言ってきたので、どうしたのか聞いてみたら、友達が倒れたからお見舞いに行きたいって、その友達の名前を聞いて孫だとわかったよ。金城小夜子なんてそういないからね」
「すいませんお義父さん、私が至らないばかりに心配をおかけしました」
「綾乃さん、小夜子や玲央真央は私の孫だ。心配ぐらいさせてくれないか。それに、綾乃さんは私の義娘なんだから遠慮なく頼ってほしい」
「ありがとうございますお義父さん」
「小夜子そばにいてあげられなくてゴメンね。小夜子が目を覚ますまで、そばにいるからね」
そこに、琴美が近づいてきた。
「私、病院の関係者なんですけど眠り姫の原因究明のために、お話し伺ってもいいですか?」
そして、お互いの知っていることを話しあった。
「カズ君がK大に。名前が向井に変わった」
確かあの崖っぷちの家に越してきたのが向井だったような、そうだ間違いない。カズ君は崖っぷちの家に帰ってきたんだ。
「小夜子、あんた呑気に寝てる場合じゃないよ。カズ君のいる場所がわかったよ。早く起きて、起きるのよ。起きない!起きろって言ってるだろ‼️」
バシーン!
友子は小夜子のホッペタをビンタした。
さすがの琴美も驚いた。
「あなた、患者さんになんて事するんですか」
「痛ーい。???ここどこ?。あれっ、なんで友子がいるの?あんた沖縄じゃなかったの?」
「おはよう小夜子」
「凄い、眠り姫が起きた。先生呼んでくるね」と琴美が病室を出て行った。
「小夜子さん、あなたは4日間眠り続けていたんですよ。気分はどうですか?どこか痛い所はありませんか?」と先生に聞かれ
「はい、気分はいいのですが、左のホッペタが痛いんです」
「小夜子それは、目覚ましだからきにしないで」と友子が言う。
「まぁともかく、あと2〜3日様子を診ましょう」
友子は加寿磨が崖っぷちの家に戻っていることを話した。
「退院したら会いに行こうね。私も一緒に行くからね」
「でも、友子は沖縄でバイトがあるんでしょ?」
「それが、偶然にもバイト先の社長が小夜子のおじいちゃんだったのよ。だから大丈夫」
「久しぶりだね小夜子、覚えているかね。最後に会ったのは小夜子が小学3年生だったかな」
「はい、覚えています。会えて嬉しいです」
次の日、玲央・真央と剛志・雅がお見舞いに来てくれた。
そして、もうひとり。
「はじめまして、私、高知県警から来た...」
「犬塚じゃないか」
声を掛けたのは剛志だった。
「どうして高知県警のお前がここにいるんだ」

           つづく

7/19/2024, 10:41:29 AM

《巡り逢うその先に》
        第2章 ⑧

主な登場人物
 金城小夜子
     (きんじょうさよこ)
   玲央      (れお)
   真央      (まお)
 椎名友子  (しいなともこ)
 若宮園子 (わかみやそのこ)
 東山純 (ひがしやまじゅん)

 向井加寿磨 (むかいかずま)
   ユカリ      (母)
   秀一      (義父)

 桜井華   (さくらいはな)
 高峰桔梗(たかみねききょう) 
   樹      (いつき)

 柳田剛志 (やなぎだたかし)
 横山雅  (よこやまみやび)

 京町琴美(きょうまちことみ)
 倉敷響  (くらしきひびき)

 葛城晴美 (かつらぎはるみ)
 犬塚刑事    (いぬづか)
 足立       (あだち)
 黒鉄銀次 (くろがねぎんじ)

3日後ジュンの地元の友達から連絡がきた。
「ジュン、向井の通う大学がわかったぞ。東京K大の法学部だ」
「ありがとう、早速小夜子さんに教えてあげるよ」
「ジュン、本当にそれでいいのか?」
「何がだ?」
「お前、本当は小夜子さんのこと好きなんじゃないのか?」
「何言ってんだよ、そんな訳..」
「ないって言い切れるのか?今晩じっくり考えてみたらどうだ」
「わかった、考えてみるよ」
ジュンはベッドの中で小夜子のことをいろいろと考えてみた。
小夜子さんと一緒にいると気兼ねする事なく落ち着けるし、相性的にもいいと思うけど、これが恋なのか?わからない。
それにしても、小夜子さんと向井はどうゆう関係なんだろう。と考えているうちに眠ってしまい目覚まし時計の音で目が覚めた。
「小夜子さん、おはようございます」
「ジュンさん、おはようございます。今日もよろしくお願いします」
「あの小夜子さん、ひとつ聞いてもいいですか?」
「はい、なんでしょう」
「小夜子さんと向井は、どういう関係なんですか?」
小夜子は一瞬考えた。この人にカズ君とのことを話しても大丈夫だろうか?いや、ジュンさんならば協力してくれるかもしれない。
「カズ君とは幼稚園が一緒だったの。でも、ある日わたしの習い事に行く途中で父がカズ君とカズ君のお父さんを車で轢いてしまい、カズ君のお父さんは亡くなり、カズ君は歩けなくなりそして記憶を失くしました。その後、何度も謝りに行ったのですが、会ってはもらえませんでした。私のことも忘れていたんです。それ以来会ってませんでした。そして、あの紙飛行機が届いたのですが、翌日私達はここに引っ越して来ました。カズ君も家の事情で引っ越してしまったので、どうやって探そうか悩んでいたのです。ジュンさんに会えたのも奇跡だと思ってます。だから私達は必ず会えると信じています」
話しを聞いて、このふたりの間には入り込めないと、ジュンは確信した。
「わかりました。話してくれてありがとうございます。僕も協力します。昨日地元の友達から連絡がありました。東京K大の法学部です」
「ありがとうジュンさん。私会いに行って来ます」

           つづく



7/17/2024, 10:23:05 PM

《巡り逢うその先に》
        第2章 ⑦

主な登場人物
 金城小夜子
     (きんじょうさよこ)
   玲央      (れお)
   真央      (まお)
 椎名友子  (しいなともこ)
 若宮園子 (わかみやそのこ)
 東山純 (ひがしやまじゅん)

 向井加寿磨 (むかいかずま)
   ユカリ      (母)
   秀一      (義父)

 桜井華   (さくらいはな)
 高峰桔梗(たかみねききょう) 
   樹      (いつき)

 柳田剛志 (やなぎだたかし)
 横山雅  (よこやまみやび)

 京町琴美(きょうまちことみ)
 倉敷響  (くらしきひびき)

 葛城晴美 (かつらぎはるみ)
 犬塚刑事    (いぬづか)
 足立       (あだち)
 黒鉄銀次 (くろがねぎんじ)

急な坂道を300m程登ると屋敷が見えてきた。
外壁を塗り直し、玄関周りはサイディングを施し花を植え明るく迎えてくれる。
大きめの玄関ドアを開けるとタイル貼りの床に左側はシューズインクローゼット、右隅には観葉植物がある。
1階には20畳のLDKに8畳の和室6畳の書斎にトイレ洗面所バスルームがあり、2階には3ツの洋室があり、その一室が僕 向井加寿磨の部屋だ。
崖っぷちに建っている僕の部屋からは街の全てが見渡せる。
4年ぶりに見る景色は以前のままだった。
加寿磨は都内の大学の法学部へ入学が決まり、この崖っぷちの家に戻ってきたのだ。母は2年前に向井秀一と再婚し、秀一の仕事の都合で都内に引っ越すこととなったので、ユカリはこの崖っぷちの家に戻りたいと頼んだのだ。
加寿磨は初めてできた友達と別れたくなかったので、高校を卒業するまでは祖父の家で暮らすことにした。
そして今日、崖っぷちの家に戻ってきた。

その頃、高峰樹は引っ越しの荷造りをしていた。
樹は、小学生の時に両親を殺害され、その時に知り合った桜井華(警察官)の家に、姉の桔梗と共に暮らしていた。
「樹、お姉ちゃん達と離れて寂しくないの?」
「姉ちゃん、俺18だよ。それに加寿磨と一緒なんだから大丈夫だよ」
「明日お姉ちゃんも一緒に付いて行ってあげようか?」
「姉ちゃん明日仕事でしょ。警察官がそんなことで休んじゃダメでしょ」
「だって、加寿磨君の家でお世話になるんだからご両親にちゃんとごあいさつしなきゃいけないでしょう」
「いいよ、もう子供じゃないんだから」
そして華が帰ってきた。
「桔梗、明日の有給休暇OKだ」
「ありがとう華さん」
「姉ちゃん、マジで付いてくるのか」
「樹、私も一緒だ」
「華さんも一緒!警察ってそんなに暇なの?」
「そうじゃないさ、私達は樹の親代わりだからな、当然の有給休暇が認められただけさ」
翌日3人はほとんど遠足気分で加寿磨の家に向かった。
「いらっしゃい。まぁ皆さんご一緒で、どうぞお上がりください」
「お久しぶりですユカリさん。これから樹のこと、よろしくお願いします。言うこと聞かなかったら遠慮なく叱って下さい」
「樹君は加寿磨にとって大切なお友達ですから、一緒に居てもらえるなんて感謝しているんですよ」
「そう言っていただけると嬉しいです。ちょっと樹のお部屋を見させていただきますね」
「はい、遠慮なくどうぞ」
2階に上がると樹は加寿磨の部屋にいた。
「加寿磨は、ここから紙飛行機を飛ばしたのか、中学校は?」
「あそこだよ」加寿磨は左前方を指差した。
「凄いな、300mくらいあるんじゃないか?、あそこまで飛ぶなんて、それだけでも奇跡だよ」
桔梗と華はふたりの話しを聞いて窓に近づいた。
「どれどれ、本当だあんなに遠くまで、しかも、それを彼女が見つけるなんて宝くじレベルだよね」
桔梗と華は窓から街並みをながめていた。
「これからどうやって彼女を探すんだ加寿磨?」樹が加寿磨に問いかけた。
「あの時、彼女に連絡をとってくれた椎名友子さんを探す」
「その子の住所はわかるのか?」
「いや、わからない。でも椎名さんもあの中学校出身だから、近くに住んでるはずだ」
「わかった、俺も手伝うよ。写真はあるのかい?」
「いや、ない。僕も4年前に2回会っただけなんだ」
「そんなんで、本当に探せるのか?」
「大丈夫、奇跡は必ず起きる」
加寿磨の意志は揺らがない。
そう、それが加寿磨なのだ。
桔梗と華は次の日が仕事なので、早々に帰って行った。

一方、金城小夜子はサイクルショップ田中2号店の経営も安定してきたので、アルバイトを雇うことになった。
小夜子より2才年上の大学生で東山純だ。ふたつ上だが、今年大学に合格して、高知からここ福島に単身で越してきた。
「よろしくお願いしますね、東山さん」
「こちらこそよろしくお願いします金城店長さん」
「小夜子でいいですよ」
「じゃあ、ボクのことはジュンと呼んでください」
ふたりはとても相性がよく、1週間もすると自分のことをいろいろ話すようになっていた。
「ボクは高校2年生になってすぐに病気になって1年間休学していたんです。友達がお見舞いに来てくれた時に言っていたのですが、球技大会の卓球で足の悪い1年坊主が、卓球部員を負かして優勝したらしいんです。ソイツは1年ほど前まで歩けなかったみたいで、おまけに卓球を初めてやったらしいんですよ。
ボクは見てないので、どこまで本当なんだかわかりませんけど。
そんなことがあったので、学校ではちょっと有名人になったみたいで、噂によると高校入学前に引っ越して来たらしいです。
それにどうやら、小・中学校には行ってなかったらしいです。
それなのに成績は学年トップなんですよ。
世の中には凄い奴がいるもんですよね。
小夜子さんと同じ歳ですよ。
小夜子はその話しを聞いて、もしかしたらカズ君じゃないかと思った。
年齢も引っ越した時期も学校に行ってなかったことも一致する。
「ジュンさん、その人の名前はわかる?」
「向井だよ」
小夜子の祈りは一瞬で打ち砕かれた。
「どうしたんですか、知り合いだと思ったんですか?」
「うん、でもそんな偶然ある訳ないよね。あったら奇跡だよね」
「奇跡と言えば、もうひとつ話しがあるんですよ。でも、さすがにこれはデマだと思いますけど。なんでも引っ越してくる前の場所でラブレターを書いて紙飛行機にして飛ばしたら...?どうしたんですか小夜子さん、急に泣き出したりして、大丈夫ですか?」
「それ、私なの」
「何がですか?」
「その手紙受け取ったの私なの」
「えっ!マジですか?」
「でも、名前が違うのはおかしいわよね」
「それは、向井が1年生の時にお母さんが、再婚したからですよ。旧姓は何て言ったかなぁ珍しい名前だったんだけど?」
「鬼龍院」
「そう、そうです鬼龍院です。って、この話しって本当だったんですか?しかも、相手が小夜子さんなんですか?」
小夜子は溢れる涙を止めることができなかった。
やっとカズ君を見つけた。
「ジュンさんはカズ君の住所は知っているの?」
「残念ながらボクにはわかりません。帰ったら地元の友達に聞いてみます」
「お願いします」
そしてその夜、ジュンから電話がきた。
「小夜子さん、すいません。向井のヤツ地元ではない大学に受かって引っ越してしまったようなんですよ」
「どこの大学だかわからない?」
「そこまでは知らないようなので別の友達に聞いて、連絡くれるって言ってました」
「ありがとう。連絡がきたら教えてね」
やっと手にした細い糸。必ず手繰り寄せてみせる。

           つづく

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