星乃 砂

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《巡り逢うその先に》
        第2章 ⑦

主な登場人物
 金城小夜子
     (きんじょうさよこ)
   玲央      (れお)
   真央      (まお)
 椎名友子  (しいなともこ)
 若宮園子 (わかみやそのこ)
 東山純 (ひがしやまじゅん)

 向井加寿磨 (むかいかずま)
   ユカリ      (母)
   秀一      (義父)

 桜井華   (さくらいはな)
 高峰桔梗(たかみねききょう) 
   樹      (いつき)

 柳田剛志 (やなぎだたかし)
 横山雅  (よこやまみやび)

 京町琴美(きょうまちことみ)
 倉敷響  (くらしきひびき)

 葛城晴美 (かつらぎはるみ)
 犬塚刑事    (いぬづか)
 足立       (あだち)
 黒鉄銀次 (くろがねぎんじ)

急な坂道を300m程登ると屋敷が見えてきた。
外壁を塗り直し、玄関周りはサイディングを施し花を植え明るく迎えてくれる。
大きめの玄関ドアを開けるとタイル貼りの床に左側はシューズインクローゼット、右隅には観葉植物がある。
1階には20畳のLDKに8畳の和室6畳の書斎にトイレ洗面所バスルームがあり、2階には3ツの洋室があり、その一室が僕 向井加寿磨の部屋だ。
崖っぷちに建っている僕の部屋からは街の全てが見渡せる。
4年ぶりに見る景色は以前のままだった。
加寿磨は都内の大学の法学部へ入学が決まり、この崖っぷちの家に戻ってきたのだ。母は2年前に向井秀一と再婚し、秀一の仕事の都合で都内に引っ越すこととなったので、ユカリはこの崖っぷちの家に戻りたいと頼んだのだ。
加寿磨は初めてできた友達と別れたくなかったので、高校を卒業するまでは祖父の家で暮らすことにした。
そして今日、崖っぷちの家に戻ってきた。

その頃、高峰樹は引っ越しの荷造りをしていた。
樹は、小学生の時に両親を殺害され、その時に知り合った桜井華(警察官)の家に、姉の桔梗と共に暮らしていた。
「樹、お姉ちゃん達と離れて寂しくないの?」
「姉ちゃん、俺18だよ。それに加寿磨と一緒なんだから大丈夫だよ」
「明日お姉ちゃんも一緒に付いて行ってあげようか?」
「姉ちゃん明日仕事でしょ。警察官がそんなことで休んじゃダメでしょ」
「だって、加寿磨君の家でお世話になるんだからご両親にちゃんとごあいさつしなきゃいけないでしょう」
「いいよ、もう子供じゃないんだから」
そして華が帰ってきた。
「桔梗、明日の有給休暇OKだ」
「ありがとう華さん」
「姉ちゃん、マジで付いてくるのか」
「樹、私も一緒だ」
「華さんも一緒!警察ってそんなに暇なの?」
「そうじゃないさ、私達は樹の親代わりだからな、当然の有給休暇が認められただけさ」
翌日3人はほとんど遠足気分で加寿磨の家に向かった。
「いらっしゃい。まぁ皆さんご一緒で、どうぞお上がりください」
「お久しぶりですユカリさん。これから樹のこと、よろしくお願いします。言うこと聞かなかったら遠慮なく叱って下さい」
「樹君は加寿磨にとって大切なお友達ですから、一緒に居てもらえるなんて感謝しているんですよ」
「そう言っていただけると嬉しいです。ちょっと樹のお部屋を見させていただきますね」
「はい、遠慮なくどうぞ」
2階に上がると樹は加寿磨の部屋にいた。
「加寿磨は、ここから紙飛行機を飛ばしたのか、中学校は?」
「あそこだよ」加寿磨は左前方を指差した。
「凄いな、300mくらいあるんじゃないか?、あそこまで飛ぶなんて、それだけでも奇跡だよ」
桔梗と華はふたりの話しを聞いて窓に近づいた。
「どれどれ、本当だあんなに遠くまで、しかも、それを彼女が見つけるなんて宝くじレベルだよね」
桔梗と華は窓から街並みをながめていた。
「これからどうやって彼女を探すんだ加寿磨?」樹が加寿磨に問いかけた。
「あの時、彼女に連絡をとってくれた椎名友子さんを探す」
「その子の住所はわかるのか?」
「いや、わからない。でも椎名さんもあの中学校出身だから、近くに住んでるはずだ」
「わかった、俺も手伝うよ。写真はあるのかい?」
「いや、ない。僕も4年前に2回会っただけなんだ」
「そんなんで、本当に探せるのか?」
「大丈夫、奇跡は必ず起きる」
加寿磨の意志は揺らがない。
そう、それが加寿磨なのだ。
桔梗と華は次の日が仕事なので、早々に帰って行った。

一方、金城小夜子はサイクルショップ田中2号店の経営も安定してきたので、アルバイトを雇うことになった。
小夜子より2才年上の大学生で東山純だ。ふたつ上だが、今年大学に合格して、高知からここ福島に単身で越してきた。
「よろしくお願いしますね、東山さん」
「こちらこそよろしくお願いします金城店長さん」
「小夜子でいいですよ」
「じゃあ、ボクのことはジュンと呼んでください」
ふたりはとても相性がよく、1週間もすると自分のことをいろいろ話すようになっていた。
「ボクは高校2年生になってすぐに病気になって1年間休学していたんです。友達がお見舞いに来てくれた時に言っていたのですが、球技大会の卓球で足の悪い1年坊主が、卓球部員を負かして優勝したらしいんです。ソイツは1年ほど前まで歩けなかったみたいで、おまけに卓球を初めてやったらしいんですよ。
ボクは見てないので、どこまで本当なんだかわかりませんけど。
そんなことがあったので、学校ではちょっと有名人になったみたいで、噂によると高校入学前に引っ越して来たらしいです。
それにどうやら、小・中学校には行ってなかったらしいです。
それなのに成績は学年トップなんですよ。
世の中には凄い奴がいるもんですよね。
小夜子さんと同じ歳ですよ。
小夜子はその話しを聞いて、もしかしたらカズ君じゃないかと思った。
年齢も引っ越した時期も学校に行ってなかったことも一致する。
「ジュンさん、その人の名前はわかる?」
「向井だよ」
小夜子の祈りは一瞬で打ち砕かれた。
「どうしたんですか、知り合いだと思ったんですか?」
「うん、でもそんな偶然ある訳ないよね。あったら奇跡だよね」
「奇跡と言えば、もうひとつ話しがあるんですよ。でも、さすがにこれはデマだと思いますけど。なんでも引っ越してくる前の場所でラブレターを書いて紙飛行機にして飛ばしたら...?どうしたんですか小夜子さん、急に泣き出したりして、大丈夫ですか?」
「それ、私なの」
「何がですか?」
「その手紙受け取ったの私なの」
「えっ!マジですか?」
「でも、名前が違うのはおかしいわよね」
「それは、向井が1年生の時にお母さんが、再婚したからですよ。旧姓は何て言ったかなぁ珍しい名前だったんだけど?」
「鬼龍院」
「そう、そうです鬼龍院です。って、この話しって本当だったんですか?しかも、相手が小夜子さんなんですか?」
小夜子は溢れる涙を止めることができなかった。
やっとカズ君を見つけた。
「ジュンさんはカズ君の住所は知っているの?」
「残念ながらボクにはわかりません。帰ったら地元の友達に聞いてみます」
「お願いします」
そしてその夜、ジュンから電話がきた。
「小夜子さん、すいません。向井のヤツ地元ではない大学に受かって引っ越してしまったようなんですよ」
「どこの大学だかわからない?」
「そこまでは知らないようなので別の友達に聞いて、連絡くれるって言ってました」
「ありがとう。連絡がきたら教えてね」
やっと手にした細い糸。必ず手繰り寄せてみせる。

           つづく

7/17/2024, 10:23:05 PM