【好きな本】
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[5/24 逃れられない
[6/6 誰にも言えない秘密
[6/12 街
[6/15 あいまいな空
続編
登場人物
向井加寿磨
(きりゅういんかずま)
ユカリ (母)
向井秀一(むかいしゅういち)
鬼龍院加寿豊(かずとよ 父)
高峰桔梗(たかみねききょう)
樹 (いつき)
桜井華 (さくらいはな)
佳子 (よしこ 母)
球技大会も終わり普段通りの学校生活に戻る...わけがなかった。
「向井頼む卓球部に入ってくれ、お前ならオリンピックも夢じゃない。俺達と一緒にインターハイを目指そう、オー」
「僕はまだリハビリ中ですし、卓球に興味はありません。
「何だとー!あれだけの素質と才能がありながら興味がないだとー
お前はアホか、それとも俺がバカなのか?いいからここに名前を書け」卓球部のキャプテンは入部届を加寿磨の前に叩きつけた。
「あなたもわからない人ですね。興味がないのでお引き取り下さい」
「わかった、今日のところは引き上げるが、俺は諦めないからな」
キャプテンはそう言うと教室を後にした。
これでやっと静かになる...はずがなかった。
「向井君、卓球はいつからやってたの、頭もいいしスポーツも上手いなんてすごいよね、越して来る前はどこにいたの、勉強のコツがあったら教えて、彼女はいるの?今日僕の家に遊びに来ませんか」
「僕は小さい頃事故にあって以来
車椅子生活が長かったのでスポーツはほとんどやったことがありません。別にすごくなんかありません。越して来る前は都心の近くに住んでいました。勉強のコツは勉強することです。彼女はいませんが好きな人はいます。喜んで行かせていただきます」
すごい、いっぺんに話しかけられたのに全てに返事をしている。
「えっ僕の家に来てくれるの?」
「はい、そう答えました」
「ありがとう、姉さんと華さんが喜ぶよ」
そして、樹は加寿磨を連れて帰宅した。
「ただいま、向井君を連れて来たよ」
ドタバタドタバタ、最初に現れたのは佳子さんだった、次に姉が現れた。
「おかえり、いらっしゃい。暑くなかった、喉乾いてない、お腹は空いてないの、本当に賢そうな顔してるわね、これからも樹ちゃんと仲良くしてあげてね」
「おばさん、そんなにいっぺんに聞いても答えられないわよ。いらっしゃい、姉の桔梗です」
「こんにちは、外は、少し暑かったのでお水をいただきます。お腹は空いていません、賢いのと顔は関係ないと思います。高峰君とは友達になりたいと思っています。
改めまして、向井加寿磨です」
「すごい、全部に返事してる」
「華さんはいないの、今日は休みだと思ったけど?」
「部屋に居るわよ、さあ中に入ってゆっくりしていってね」
部屋では華が、麦茶を飲んでいた。
「いらっしゃい、やっぱりユカリさんの息子さんだったか」
加寿磨はビックリした。
「なぜ、婦警さんがここにいるのですか?」
「ここは私の家だ。樹達は理由あって一緒に暮らしている」
僕は今朝の学校での事をみんなに話した。
「本当に卓球やった事なかったの?」
「本当です。卓球に選ばれた時に図書室で本を読んで勉強しました」
「それだけなの?」
「はい、それだけです」
4人はビックリして言葉がでなかった。
「そういえば、小中学校にも行っていなかったと聞いたが勉強はどうしていたんだ」と華さんが聞いた。
「家庭教師の人に来てもらっていました。あとは、本から学びました」
「そういえば、学校でもよく本を読んでるよね」
「うん、話しかけて来る友達がいないからね。高峰君が誘ってくれて嬉しかったんだ。僕は今まで友達もいなかったし、誘われたのも初めてなんだ」
また、4人はビックリして言葉がでなかった。
その後、僕の部屋に移動して、オヤツを食べながらいろいろと話し合った。
「向井君はどんな本が好きなの、作家は誰が好き?」
「小説も読むけど、実用書が好きかな、僕はずっとひとりでいたから自分を高めるにはどうしたらいいのかをよく考えてたんだ。そして潜在能力を高める本にであった。そして、集中力観察力洞察力を高める訓練をしてきたんだ。だから卓球の本を読んで、打ち方やカットボールの返し方を修得できたんだと思う」
樹はますます加寿磨に惹かれていった。
この日をキッカケに加寿磨と樹は無二の親友となっていく。
第1章 完
次回より下記の人物が交錯する
新章がスタートする予定です。
鬼龍院加寿磨
(きりゅういんかずま)
金城小夜子
(きんじょうさよこ)
玲央 (れお)
真央 (まお)
桜井華 (さくらいはな)
高峰桔梗(たかみねききょう)
樹 (いつき)
柳田剛志 (やなぎだたかし)
横山雅 (よこやまみやび)
【あいまいな空】
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続編
登場人物
鬼龍院加寿磨
(きりゅういんかずま)
ユカリ (母)
加寿豊(かずとよ 父)
浜崎杜夫 (はまさきもりお)
向井秀一(むかいしゅういち)
高峰桔梗(たかみねききょう)
樹 (いつき)
桜井華 (さくらいはな)
桜井家では、久しぶりに全員そろっての夕食を楽しんでいた。
「樹、高校では友達できたの?」
「うん、中学からの友達とは別のクラスになったからね」
「気になる子はいないのか」
「あぁ、ひとりいるかな」
「えー、イっちゃんいるの、どんな子、可愛い、美人、背は高いの低いの、どこの子?」
「母さん、いっぺんに聞いても樹だって答えられないよ」
「あっ、そうね、ゴメンゴメン、それでどんな子なの?」
「女の子じゃないから」
「えー、男の子を好きになるのは、姉ちゃんとしては、微妙だな」
「そんなんじゃないから、今年になって引っ越ししてきた子で、足が悪くて杖を突いてるんだ」
「怪我してるんだ?」
「どうも、そうじゃないらしいんだ。小さい頃に事故にあってずっと歩けなかったらしいんだ。それに、小中学校には通ってなかったらしいんだ」
「そんなので、授業についていけてるの?」
「それが、クラスで一番頭がいいんだよ」
「確かに、気になる子だよね、名前は?」
「鬼龍院加寿磨でも、最近お母さんが再婚して、向井になった。
「どこかで聞いた名前だな?」
「華さん知ってるの?」
「思い出した。浜崎工業の浜崎杜夫が結婚しようとしていた相手が鬼龍院ユカリさんだったな、その人の息子だろう」
「でも、向井さんて人と結婚したのね」
「向井さんは、たぶんその時に彼女を助けた弁護士さんだと思う」
「そうなんだ、で、その子 学校ではどうなの、足が悪いんじゃイジメられたりしてないの?」
「それは大丈夫、クラスの不良っぽい奴がからかおうとしたことがあったけど、向井君がひと睨みしただけで、おとなしくなった」
「へー、凄い子だね」
「うん、目力が鋭いんだよね。僕からみても、意思の強さを感じるくらいなんだ」
「一度会ってみたいな」
「そういえば、明日球技大会だよね、樹は何の種目に、出るの?」
「僕はサッカーだよ。でも、天気がイマイチかな」
「確かに、あいまいな空模様だよね」
「大丈夫よ、お姉ちゃんが、てるてる坊主作ってあげるからね」
そして、次の日
どんよりとした天気だが、雨は大丈夫そうだ。
樹のクラスは検討したが、2回戦敗退となった。
「おい高峰、体育館がヤバイらしいぞ。行ってみようぜ」
体育館といえば、バレーと、卓球の試合をしているはずだ。確か向井君が卓球だったはずだが、足が悪いから無理だよな。
体育館に入ると、ひとつの卓球台を大勢で囲んでいる。
どうやら決勝戦が行われているらしい。
人の隙間から覗いて見ると、向井君が試合をしていた。
対戦相手は卓球部員だった。
向井君は卓球台のそばに立ち、その場から動かないが、相手のカットボールやスマッシュをことごとく打ち返している。
すごい、こんな闘い方見たことがない。
あっという間にマッチポイントになった。あと1点とれば勝てる。
そして、運命の1球 気負った相手が打ち損じて勝負有り。
見事、向井君が勝った。
その夜、家で姉さん達に向井君の話しをした。
「凄いんだね、ますます興味が湧いてきたわ。一度家に連れて来てよ」
「うん、わかった誘ってみるよ」
「そういう子と友達になれるといいわよね」
つづく
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続編
登場人物
鬼龍院加寿磨
(きりゅういんかずま)
ユカリ (母)
加寿豊(かずとよ 父)
犬飼藤吉
(いぬかいとうきち)
相沢恵子 (あいざわけいこ)
浜崎杜夫 (はまさきもりお)
向井秀一(むかいしゅういち)
桜井華 (さくらいはな)
高峰桔梗(たかみねききょう)
金城小夜子
(きんじょうさよこ)
玲央 (れお)
真央 (まお)
若宮園子 (わかみやそのこ)
大吉 (だいきち)
田中(サイクルショップ店長)
柳田剛志 (やなぎだたかし)
横山雅 (よこやまみやび)
ユカリと秀一は高校時代の同級生である。
秀一は頭がズバ抜けてよく、トップの座を独占していた。
そんな秀一にユカリも恋心を抱いたが、内気な性格ゆえ告白することはなかった。
秀一は大学を卒業し、弁護士になり、今では敏腕弁護士として活躍している。
友達を大切にする性格なので、同窓会には必ず出席している。
ユカリは一度も出席したことがなかったが、恵子が秀一に連絡をとり、ユカリが置かれている状況を説明し、助けを求めたのだ。
その後、秀一と警察の手により浜崎杜夫の悪事が明るみになり、逮捕された。
警察の調べによると、ユカリを手に入れるために犬飼鉄工所への発註を妨害し、倒産の危機に落とし入れたのであった。
浜崎が逮捕されたおかげで、今まで通り仕事の依頼が入り、銀行も犬塚鉄工所に同情し融資を申し出てくれたので倒産の危機を免れることができた。
「秀一君、ありがとう。あんな人と結婚しなくて済んで、本当によかったわ」
「ユカリ、この際だから向井君と結婚しちゃったら」
「何言ってんのよ恵子、秀一君の奥さんに怒られるわよ」
「大丈夫、向井君は独身だから」
「えっ、そうなんですか?」
「ずっと仕事に追われてて余裕がなかったんだ、相手もいなかったしね」
「高校の時、ユカリと向井君が結婚すると思ってたんだけどな」
「ちょっと、やめてよ恵子」
その後、恵子の後押しが功を奏し、紫陽花の咲く6月に結婚することになった。
一方、小夜子の方は。
新学期が始まり、小夜子は若宮サイクルとサイクルショップ田中の仕事をしながら夜学に通うようになった。
サイクルショップ田中2号店は9月オープンに決まった。
玲央と真央は揃って小学1年生になった。
母はパートをひとつ減らし家事をして、祖母の負担を減らしている。
夜逃げ同然で祖母の家へ越してきた時はどんな地獄が待っているのか想像すくのも怖かったが、園子さんに会ったことで私の人生は上昇気流に乗ったのだ。
お母さんの笑顔も増えてきた。
お金を返し終えるまでは気が抜けないがこの調子ならば問題ない。
「「ただいま」」玲央と真央が小学校から帰ってきた。
「おかえりなさい、学校は楽しいかい?」
「「うん、すっごく楽しいよ」」
「玲央と真央が笑ってると、おばあちゃんも嬉しいよ」
「それでね」
「お友達」
「「連れてきたの」」
さすが双子だけあって息の合った掛け合いである。
「初めまして、柳田剛志です」
「こんにちは、横山雅です」
「こんにちは、ちゃんとご挨拶ができて偉いわね。これからも仲良くしてあげてね」
「「じゃあ、何して遊ぶ?」」
「まずは、宿題をやりましょう」
「そして、復習と予習もしましょうね」
「「えー、勉強するのー」」
「みんなですれば、楽しいわよ」
玲央と真央は、渋々宿題をしだした。
4人のなかで剛志が1番頭がよく、雅は飲み込みが早く教え上手でもあった。
こうして4人は硬い絆で結ばれていくのであった。
梅雨を告げる紫陽花が見頃の出来事であった。
つづく
【好き嫌い】
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[5/26 降り止まない雨
[5/27 月に願いを
[5/28 天国と地獄
[5/30 ごめんね
[6/5 狭い部屋
[6/7 最悪
[6/9 岐路
[6/10 朝日の温もり
[6/11 やりたいこと
続編
登場人物
鬼龍院加寿磨
(きりゅういんかずま)
ユカリ (母)
加寿豊(かずとよ 父)
犬飼藤吉
(いぬかいとうきち)
宗介 (そうすけ)
親兵衛 (しんべい)
倉橋智樹 (くらはしともき)
相沢恵子 (あいざわけいこ)
浜崎杜夫 (はまさきもりお)
桜井華 (さくらいはな)
向井秀一(むかいしゅういち)
高峰桔梗(たかみねききょう)
高見
母は今日の午後 相手の男性と会う。
僕も同席させて欲しいと頼んだが、〈子供の出る幕ではない〉と断られた。
「加寿磨さん、心配しないで。母さんは大丈夫です」
母さんはニッコリと微笑んで出かけて行った。
待ち合わせ場所に着くと、相手はすでに待っていた。
「お久しぶりですユカリさん、僕のこと、覚えていますか?」
その男性は、背はそれほど高くないが恰幅がよくブランド品を纏った、いかにもお金持ちそうな身なりだった。
ユカリは記憶を遡り、この男性の幼少期を思い描いた。
「もしかして、3才年上だった浜崎さんですか?」
「そうです。浜崎杜夫です。覚えててくれたんですね、嬉しいな」
「あの、失礼ですが、どうして私のことを知ったんですか?」
「犬飼さんに頼まれて、何度かユカリさんの様子を見に行ったことがあるんです。ユカリさんが引っ越したのを犬飼さんに知らせたのも僕です」
ふたりは高校まで同じ学校だったが、3才違いなので中高は同時期に在籍していなく、家も離れているので、たまに道ですれちがう程度だった。
父の会社で働き出してからは、見かけることもなかったと思う。
「あの、父とは、どういう関係なんですか?」
「僕は浜崎工業の跡取りです。
5年程前から犬飼さんと、仕事をさせて頂いています」
「失礼ですけど、今までご結婚はなさらなかったのですか?」
「お恥ずかしい話しなんですが、バツ2です。最初の妻とのあいだに娘がいますが、すでに、嫁いでいます」
「なぜ離婚されたんですか?」
「よくある性格の不一致ですね」
「そうですか。あと、もうひとつお聞きしたいのですが、どうして私なんですか、もっと若い人の方がよろしいのではないですか?」
「実は子供の頃からユカリさんのことが好きだったんですよ。大人になってから、何度かお付き合いを申し込みに行こうとしてたんですよ」
「私はこの歳になって結婚なんて考えてもなかったですから」
「歳をとって、ひとりでいるのは寂しいと思いませんか?返事は今すぐでなくていいんです。少しお付き合いをしてから返事を頂ければいいです」
浜崎さんには悪いが私はあまり気がすすまなかった。その後も少し話しをしてから店を後にした。
店から少し離れたところで、親友の恵子が待っていた。
「ユカリ、相手は誰だったの?」
「3才年上の浜崎さんだったわ」
「浜崎さんか、ユカリは最近の彼の事は知らないよね。あんまりいい噂はないのよね」
「そうなんだ」
「ユカリ、まさか結婚OKしてないよね」
「もちろんよ」
「私、浜崎さんのこと、みんなにも聞いてみるね」
「うん、お願い」
その後、何度か浜崎と会ったが、どうしても浜崎に対して良い印象は持てなかった。
恵子は、友達や、親に頼んで浜崎の情報を集めていた。
そして、ひと月が過ぎた。
「ユカリ、浜崎君とは上手くいっているのかい?」
「ごめんなさい、お父さん。やっぱり私は浜崎さんを好きにはなれないわ」
「お前は何もわかっていないのか。お前の好き嫌いなんて、聞いてない、社員全員の生活がかかっているんだぞ!」
「あなた、そんな言い方しないでください。ユカリは道具ではないんですから」
「お母さん、ありがとう」
「ユカリは、自分と加寿磨ちゃんが幸せになれることだけを考えればいいのよ」
そして又ひと月が経つ頃、恵子から連絡があった。
〈明日、合わせたい人がいるから来て〉
次の日に行ってみると、そこには知らない女の人がいた。
「ユカリ、紹介するは、この人は3ヵ月前に浜崎さんと別れた奥さんよ」
「3ヵ月前って本当ですか?」
「本当よ。アイツ付き合っている時は、すごく優しくていい人だったの。でも、結婚してからは別人だったわ。自分の思い通りにならないとすぐにキレるし、少しでも文句を言うと暴力を振るうの。子供も欲しがってたわ。だけど私は避妊し続けたの。それでも一度だけ妊娠した。アイツの子供なんて絶対産みたくなかったから、内緒で中絶したわ。別れ話しも何度もしけど相手にもされなかった。
それなのにどうして離婚できたと思う?あなたが現れたからよ。そして、あなたの会社を利用したのよ。会社を合併して、従業員も解雇しないという条件で、あなたのお父さんを丸め込んだのよ。でも、そんなのは嘘、合併したらすぐに、状況が変わったとか言ってあなたの会社を潰すつもりよ」
「そんなのって、結局は会社が倒産するってことじゃないですか」
「ユカリ、わかったでしょ、あんな奴と結婚しちゃダメよ」
「ありがとう恵子、お父さんに話すわ」
家に帰り父にすべてを話した。
「何を言っているんだ。お前は騙されているんだ。浜崎君は約束してくれたんだ」
「だって、私は前の奥さんから聞いたのよ」
「そんなのデタラメだ、もう日にちがないんだ。今度の日曜日に、式を挙げるからな」
「そんなのひどいわ」
「あなた、ユカリの意見もちゃんと聞いてあげて下さい」
「やかましい、お前たちに何がわかると言うんだ」
父は強引に結婚を決めてしまった。
そして運命の日がやってきた。
「ユカリさん、今日は一段と綺麗ですね。一生大事にしますからね」
そんな見え透いた嘘に返事などできなかった。
私はこんな最低なヤツと結婚させられるのか。お願い誰か助けて!
『ちょっと待った‼️』
入り口に現れたのは恵子と元嫁のちひろさんと、もうひとり男性がいた。
「その結婚に意義申す」
「なんだお前らは、ちひろお前何しに来やがった邪魔するとタダじゃおかねえぞ!」
「あんた、今度はその子を騙すつもりなの。あんたみたいなクズは結婚する資格なんかないわよ」
「なんだとテメェ、許さねェ!」
浜崎はちひろの所へ行き、思い切り殴り飛ばした。
ちひろはモンドリうって倒れ込んだ。
「浜崎君なんて事をするんだ」
「犬飼さん、こんなヤツの言うことなんて信じる事ありませんよ」
「どうやら、ユカリの言ってたことは本当だったようだな」
店の店員が警察に連絡したらしく、警察官が駆けつけてきた。
「何があったのですか?」
「あの人が女性を殴ったんです」
「知らない、俺が悪いんじゃないぞ、悪いのはアイツらだ」
「暴力を振るったのはあなたですよね?」
「ちょっと触ったくらいで大袈裟なんだよ」
「ちょっと触ったくらいじゃ、ああはなりませんよ」
「高見さん、この人先日繁華街で若い男と揉めてた人じゃないですか?」
「ああ、華の妹分の桔梗君が仲裁してた男か」
「警察署まで来て話しを聞かせてもらおうか」
やっと浜崎も観念したようで大人しく同行して行った。
「恵子ありがとう。ちひろさん本当にありがとうございます。一緒に病院へ行きましょう」
「病院には、ワシが連れて行こう、ユカリお前の話しを信じてやれなくてすまなかった」
「でもお父さん、会社が...」
「その話しは、また考えるさ」
父たちは病院へ向かい、ユカリ達3人が残った。
「ユカリこの人誰だかわかる?」
ユカリはジッと男性の顔を覗き込んだ。
「もしかして秀一君?」
「遅くなってゴメン、今朝成田に着いたんだ、話しは恵子から聞いた。もっと早く来たかったんだがギリギリになってしまった」
「ユカリ、秀一が帰ってきたからもう心配する事はないよ」
「えっ、どう言うこと?」
「後のことは僕に任せてくれ」
つづく
【街】
[5/20 突然の別れ
[5/24 逃れられない
[6/6 誰にも言えない秘密
続編
登場人物
桜井 華 (さくらいはな)
高峰 桔梗
(たかみね ききょう)
時は流れて桔梗も短大の2年生で20歳になっていた。
就職活動がうまくいかず、今だに就職先が決まっていなかった。
桜井華は夜の繁華街をパトロールしていた。
年の瀬という事で、人が溢れ返っている。
華の勤務地は住宅街で街からは少し離れている。
今日は人手が足りていない繁華街パトロールの応援である。
「高見さん、今日は何もないといいですね」
「年末、週末、繁華街、何もなかったら奇跡でしょう」
高見さんは、この繁華街にある交番勤務で私より3年早く警察官になった先輩である。
「おや、あそこに人集りがありますね」
「よし、行ってみよう」
近付いていくと、男ふたりが言い争いをして、それを女が止めようとしている声が聞こえてきた。どうやら三角関係の縺れのようだ。
野次馬を押し退けて行くと、そこには桔梗がいた。
「桔梗、どうしたんだ?」
「華さん?実は友達と年配の男の人が肩がぶつかったと言い争いになってしまって」
「事情は分かった、後はこちらで引き受けよう。」
「華さん、ちょっと待ってください。ふたりは、暴力を振るった訳ではありません。孝一君もうやめて、みんな待ってるから。おじさんも、少し当たっただけで、大人気ないと思いませんか」
ふたりは、渋々納得したようである。
桔梗はふたりに無理矢理握手をさせて、その場を収めた。
「華さん、どうもお騒がせしました」
「参ったな、私達の出る幕がなかったな、大したものだ」
「華、誰なんだ?」
「一緒に暮らしている桔梗です。
桔梗、こちらは、私の先輩の高見さんだ」
「初めまして、高峰桔梗です」
「君が、華の妹分か、なかなか大した仕切りだったね。君、警察官になる気はないかい?」
「私がですか?」
「そうだな、考えてもみなかったが、桔梗には向いているかもな」
「そうでしょうか」
「話しはこれくらいにして、私達も勤務に戻る。桔梗も気をつけて、あまり遅くならないように」
「はい、わかりました。失礼します」
警察官になるなんて、考えもしなかったな。華さんと一緒に交番勤務なんて、楽しいかも。
〈この街の安全は私達が守る〉なんて、カッコいいかも。
「おい、高峰早くこいよ、置いてくぞ」
「あー、待ってよ孝一君」
つづく