【好き嫌い】
[5/19 恋物語
[5/26 降り止まない雨
[5/27 月に願いを
[5/28 天国と地獄
[5/30 ごめんね
[6/5 狭い部屋
[6/7 最悪
[6/9 岐路
[6/10 朝日の温もり
[6/11 やりたいこと
続編
登場人物
鬼龍院加寿磨
(きりゅういんかずま)
ユカリ (母)
加寿豊(かずとよ 父)
犬飼藤吉
(いぬかいとうきち)
宗介 (そうすけ)
親兵衛 (しんべい)
倉橋智樹 (くらはしともき)
相沢恵子 (あいざわけいこ)
浜崎杜夫 (はまさきもりお)
桜井華 (さくらいはな)
向井秀一(むかいしゅういち)
高峰桔梗(たかみねききょう)
高見
母は今日の午後 相手の男性と会う。
僕も同席させて欲しいと頼んだが、〈子供の出る幕ではない〉と断られた。
「加寿磨さん、心配しないで。母さんは大丈夫です」
母さんはニッコリと微笑んで出かけて行った。
待ち合わせ場所に着くと、相手はすでに待っていた。
「お久しぶりですユカリさん、僕のこと、覚えていますか?」
その男性は、背はそれほど高くないが恰幅がよくブランド品を纏った、いかにもお金持ちそうな身なりだった。
ユカリは記憶を遡り、この男性の幼少期を思い描いた。
「もしかして、3才年上だった浜崎さんですか?」
「そうです。浜崎杜夫です。覚えててくれたんですね、嬉しいな」
「あの、失礼ですが、どうして私のことを知ったんですか?」
「犬飼さんに頼まれて、何度かユカリさんの様子を見に行ったことがあるんです。ユカリさんが引っ越したのを犬飼さんに知らせたのも僕です」
ふたりは高校まで同じ学校だったが、3才違いなので中高は同時期に在籍していなく、家も離れているので、たまに道ですれちがう程度だった。
父の会社で働き出してからは、見かけることもなかったと思う。
「あの、父とは、どういう関係なんですか?」
「僕は浜崎工業の跡取りです。
5年程前から犬飼さんと、仕事をさせて頂いています」
「失礼ですけど、今までご結婚はなさらなかったのですか?」
「お恥ずかしい話しなんですが、バツ2です。最初の妻とのあいだに娘がいますが、すでに、嫁いでいます」
「なぜ離婚されたんですか?」
「よくある性格の不一致ですね」
「そうですか。あと、もうひとつお聞きしたいのですが、どうして私なんですか、もっと若い人の方がよろしいのではないですか?」
「実は子供の頃からユカリさんのことが好きだったんですよ。大人になってから、何度かお付き合いを申し込みに行こうとしてたんですよ」
「私はこの歳になって結婚なんて考えてもなかったですから」
「歳をとって、ひとりでいるのは寂しいと思いませんか?返事は今すぐでなくていいんです。少しお付き合いをしてから返事を頂ければいいです」
浜崎さんには悪いが私はあまり気がすすまなかった。その後も少し話しをしてから店を後にした。
店から少し離れたところで、親友の恵子が待っていた。
「ユカリ、相手は誰だったの?」
「3才年上の浜崎さんだったわ」
「浜崎さんか、ユカリは最近の彼の事は知らないよね。あんまりいい噂はないのよね」
「そうなんだ」
「ユカリ、まさか結婚OKしてないよね」
「もちろんよ」
「私、浜崎さんのこと、みんなにも聞いてみるね」
「うん、お願い」
その後、何度か浜崎と会ったが、どうしても浜崎に対して良い印象は持てなかった。
恵子は、友達や、親に頼んで浜崎の情報を集めていた。
そして、ひと月が過ぎた。
「ユカリ、浜崎君とは上手くいっているのかい?」
「ごめんなさい、お父さん。やっぱり私は浜崎さんを好きにはなれないわ」
「お前は何もわかっていないのか。お前の好き嫌いなんて、聞いてない、社員全員の生活がかかっているんだぞ!」
「あなた、そんな言い方しないでください。ユカリは道具ではないんですから」
「お母さん、ありがとう」
「ユカリは、自分と加寿磨ちゃんが幸せになれることだけを考えればいいのよ」
そして又ひと月が経つ頃、恵子から連絡があった。
〈明日、合わせたい人がいるから来て〉
次の日に行ってみると、そこには知らない女の人がいた。
「ユカリ、紹介するは、この人は3ヵ月前に浜崎さんと別れた奥さんよ」
「3ヵ月前って本当ですか?」
「本当よ。アイツ付き合っている時は、すごく優しくていい人だったの。でも、結婚してからは別人だったわ。自分の思い通りにならないとすぐにキレるし、少しでも文句を言うと暴力を振るうの。子供も欲しがってたわ。だけど私は避妊し続けたの。それでも一度だけ妊娠した。アイツの子供なんて絶対産みたくなかったから、内緒で中絶したわ。別れ話しも何度もしけど相手にもされなかった。
それなのにどうして離婚できたと思う?あなたが現れたからよ。そして、あなたの会社を利用したのよ。会社を合併して、従業員も解雇しないという条件で、あなたのお父さんを丸め込んだのよ。でも、そんなのは嘘、合併したらすぐに、状況が変わったとか言ってあなたの会社を潰すつもりよ」
「そんなのって、結局は会社が倒産するってことじゃないですか」
「ユカリ、わかったでしょ、あんな奴と結婚しちゃダメよ」
「ありがとう恵子、お父さんに話すわ」
家に帰り父にすべてを話した。
「何を言っているんだ。お前は騙されているんだ。浜崎君は約束してくれたんだ」
「だって、私は前の奥さんから聞いたのよ」
「そんなのデタラメだ、もう日にちがないんだ。今度の日曜日に、式を挙げるからな」
「そんなのひどいわ」
「あなた、ユカリの意見もちゃんと聞いてあげて下さい」
「やかましい、お前たちに何がわかると言うんだ」
父は強引に結婚を決めてしまった。
そして運命の日がやってきた。
「ユカリさん、今日は一段と綺麗ですね。一生大事にしますからね」
そんな見え透いた嘘に返事などできなかった。
私はこんな最低なヤツと結婚させられるのか。お願い誰か助けて!
『ちょっと待った‼️』
入り口に現れたのは恵子と元嫁のちひろさんと、もうひとり男性がいた。
「その結婚に意義申す」
「なんだお前らは、ちひろお前何しに来やがった邪魔するとタダじゃおかねえぞ!」
「あんた、今度はその子を騙すつもりなの。あんたみたいなクズは結婚する資格なんかないわよ」
「なんだとテメェ、許さねェ!」
浜崎はちひろの所へ行き、思い切り殴り飛ばした。
ちひろはモンドリうって倒れ込んだ。
「浜崎君なんて事をするんだ」
「犬飼さん、こんなヤツの言うことなんて信じる事ありませんよ」
「どうやら、ユカリの言ってたことは本当だったようだな」
店の店員が警察に連絡したらしく、警察官が駆けつけてきた。
「何があったのですか?」
「あの人が女性を殴ったんです」
「知らない、俺が悪いんじゃないぞ、悪いのはアイツらだ」
「暴力を振るったのはあなたですよね?」
「ちょっと触ったくらいで大袈裟なんだよ」
「ちょっと触ったくらいじゃ、ああはなりませんよ」
「高見さん、この人先日繁華街で若い男と揉めてた人じゃないですか?」
「ああ、華の妹分の桔梗君が仲裁してた男か」
「警察署まで来て話しを聞かせてもらおうか」
やっと浜崎も観念したようで大人しく同行して行った。
「恵子ありがとう。ちひろさん本当にありがとうございます。一緒に病院へ行きましょう」
「病院には、ワシが連れて行こう、ユカリお前の話しを信じてやれなくてすまなかった」
「でもお父さん、会社が...」
「その話しは、また考えるさ」
父たちは病院へ向かい、ユカリ達3人が残った。
「ユカリこの人誰だかわかる?」
ユカリはジッと男性の顔を覗き込んだ。
「もしかして秀一君?」
「遅くなってゴメン、今朝成田に着いたんだ、話しは恵子から聞いた。もっと早く来たかったんだがギリギリになってしまった」
「ユカリ、秀一が帰ってきたからもう心配する事はないよ」
「えっ、どう言うこと?」
「後のことは僕に任せてくれ」
つづく
6/13/2024, 9:54:03 AM