星乃 砂

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6/8/2024, 10:17:19 AM

【世界の終わりに君と】

【あの頃の私へ】

 [5/3 優しくしないで
 [5/5 耳をすませば
 [5/25 あの頃の私へ
 [6/2 梅雨
            続編

登場人物
 琴美
 葵
 昴
 響

 〈お泊り合宿  その2〉

「ゴメーン遅くなった」店の扉を開け響が入って来た。
「わー、響すっかり都会人だね」
「流石、医者の卵だな」
「よしてくれよ、俺は何も変わらないさ。それより、何の話をしてたんだい」
「幼稚園のお泊り合宿の話」
「あー、あの伝説の話。俺が転校する前の事だな。俺にも聞かせて」
「う〜ん、次はどんな話しがいいかな?」
「虫取り」
「あー、そうだね。あれも面白かったよね。」
「面白くないよ、最悪だったよ」
「へー、どんな話しなの?」
「あれはねー...」

  ーー再び16年前ーー

今日は葵の家にお泊りです。
天気がいいので、3人で虫取りに行くことになった。
葵の家から10分程歩いた所に、小さな山があり、そこにはカブトムシやクワガタにセミがいるので、子供たちの人気スポットになっていた。
「ボク、虫はあんまり好きじゃないかも」
「アタシ セミは気持ち悪いから嫌い、コトちゃんは?」
「大好き」
と言ってニヤッと笑う琴美を見て、ふたりは、背筋がゾ〜ッとした。
「あそこにいる」
虫を探し出してすぐに、琴美が木の上にいるカブトムシを見つけ
た。
「あっ、本当だ。でもこのアミで届くかなぁ」
葵は手を伸ばしたが、届きそうもない。
「ボクが木に登ってみるよ」
昴が木に登り出した時、琴美が木を思いっきり蹴った。
ドガーン、木は大きく揺れて昴が木から落ちた。オマケに毛虫が昴の上に落ちてきた。
「ギェ〜‼️ 何するんだよ琴美ちゃん?」
「こうすれば、虫が落ちてくるから」
「ボクも落ちたじゃないか。それに毛虫まで」
「カブトムシは落ちなかったな」
琴美は悪びれもせず、今度は自分で木に登り出した。
「葵、アミ貸して」
葵からアミをもらい、カブトムシではなく別な物を取ろうとしているようだ。
「昴、これあげる」
そう言って昴にアミを渡した。
「何これ?」
「ハチの巣」
「「え〜ハチの巣〜」」
ブーンブーン。どこからかハチが向かってきた。
「逃げろー」
3人は全力で駆け出した。
「昴、池に行って」琴美が叫んだ。
「わかった」
「ねぇコトちゃん、どうして池なの?アタシたちは行かなくていいの?」
「昴から離れれば、ハチは追ってこない」
「え〜〜、昴くんハチの巣を捨ててー」
昴はハチの巣を草むらに放り投げた。その時運悪く足を滑らせて池に落ちてしまった。
「昴くん大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ、酷いよ琴美ちゃん。ボクもうお家帰る」
その時、葵のお母さんが迎えにきた。
「みんな、そろそろ帰ってご飯よ。今日はハンバーグよ...??
昴くんどうしたの。びしょ濡れじゃないの、お風呂先にしましょうね」

   ーーー現 在ーーー
「はははっ、そんな事があったんだ。さすが、琴美だな」
「昔の事よ」
「そのコトちゃんが今は、薬剤師になろうとしてるんだものね。不思議よね」
「俺はあの時思ったんだ
“世界の終わりに琴美とだけは絶対に居たくない”ってな」

6/7/2024, 9:49:14 AM

【最悪】

 [5/19 恋物語
 [5/26 降り止まない雨
 [5/27 月に願いを
 [5/28 天国と地獄
 [5/30 ごめんね
 [6/5 狭い部屋
           続編

登場人物
 鬼龍院 加寿磨
   (きりゅういん かずま)
     ユカリ (母)
 犬飼 藤吉 
    (いぬかい とうきち)

「母さん、着きましたよ」
「これからここに住むのですか?」
それは2K(6畳と3畳にキッチン)のアパートだった。

こうして、母さんとふたりの生活が始まった。
「加寿磨さん、母さんが働くからあなたは心配しなくて大丈夫ですからね」
「いいえ、僕も働います」
「そう言ってくれるのは嬉しいですけど、あなたはまだ子供なのですから、心配しなくていいのですよ」
「僕と同じ年で頑張っている子がいるのです。僕も頑張らなければ彼女に会う資格がなくなってしまいます」
「小夜子さんの事ですね。私も気に病んでいます」
「でも今は、ボクたちだけの事を考えましょう。これからの事だけを」

そして母さんは就職活動を始めたが、僕を産んでから15年間仕事らしき事はしてこなかったブランクと就職難という事もあり、なかなか決まらなかった。
僕の方も散々なものであった。学校にも行かず、松葉杖を突いている子供など、相手にもしてくれない。
事情を説明して同情はしてくれても、そこまでだ。
世の中そんなに甘くない。
母は事務の正社員を希望していたが、事務経験のない中途採用の道はなかった。
なんとか、食堂の仕事が決まったのは、引っ越してからひと月が経ってからだった。
1日3時間 週4日のパートでは親子ふたりはとても食べていけない。
母は他の仕事を探しながらパートを続けていたが、貯金を食いつぶしての生活が長く続くはずもない。
母はやむを得ず夜にスナックの仕事もする様になった。
僕は何も出来ずにいた。
「加寿磨さんは、リハビリに専念していればいいのですよ」
そう言ってくれる母が、日に日に痩せていくのを黙って見ているしかない自分が、情け無くて仕方なかった。
何か無いのか、こんな僕にも出来る事が、なにか。
それでも、時間だけは過ぎていく。
そして、
母さんが倒れた。

   最悪だ。

スナックの仕事で飲めない酒を飲んで、体を壊したのだ。
僕は病室のベッドて眠る母さんの側で泣いた。
何も出来無い自分が情け無くて、悔しくて涙が溢れてくる。
母さん、これからは僕が...その先の言葉が見つからない。

コンコン 誰かがドアをノックしたて入って来た。

「ここは鬼龍院さんの病室ですか?」
「はい、どちら様ですか?」
「君が、加寿磨君ですか?」
「はい、そうですけど、あなたは」
「私は、犬飼藤吉といいます。そこで寝ているユカリの父です」

           つづく

6/6/2024, 8:07:40 AM

【誰にも言えない秘密】

 [5/20 突然の別れ 
 [5/24 逃れられない
           続編

登場人物
 桜井 華 (さくらいはな)
 恵美   
 優子
 高峰 桔梗
    (たかみね ききょう)
    樹 (いつき)

優子のストーカー騒動からひと月程たった頃。
「桔梗、明日 恵美たちと買い物に行くのだが、よければ一緒に行かないか」
「私も行ってもいいんですか?」
「もちろんだ。恵美も、桔梗に会いたがっていたしな、樹は母がいるから大丈夫だ」

そして翌日、約束の時間、恵美たちは既に来ていた。
「お待たせ、彼女が...」
「高峰桔梗です。よろしくお願いします」
「こんにちは、若いねー。高2だっけ、私にもこんな時代があったんだなー」
「だよねー、何年前だったかな?」
「じゃ、そろそろ行こうか」
桔梗が行ってみたい店があるというので、そこに行くことになった。

「桔梗ちゃん、これ着てみて」
「こっちのもカワイイよー」
こうして、桔梗人生初のファッションショーが始まった。
「こんなに買ってもらって、ありがとうございます。大事にします」

その後、みんなで食事をした。
「恵美さんは赤ちゃんがいるんですか?」
「そうよ、ナナって言うの。今度、家にも遊びに来てね」
「はい、ぜひ」
「優子さんは、仕事なにされてるんですか?」
「私は、小さなクリニックで看護師をしているのよ」
「白衣の天使さんて、結構モテるんじゃないんですか?」
「残念なから男運ないのよねー」
「華さん、前から聞こうと思ってたんですけど、どうして警察官になろうと思ったんですか?」
「華は昔から正義の塊だもんね」
「お巡りさんはピッタリだよね」
「まぁ、そんなところだ」
「そうなんですか」
桔梗はなんとなくだが、納得できなかった。何か誰にも言えない秘密があるのではないかと。

恵美たちと別れ帰宅の途中で、桔梗はもう一度、華に聞いてみた。「華さん、警察官になった理由って本当は別にあるんじゃないですか?」
「桔梗は鋭いな、その通りだ。だが、今は言えない。すまない。話せる時がくるまで待ってくれ」

           つづく

6/5/2024, 8:16:37 AM

【狭い部屋】

 [5/19 恋物語
 [5/26 降り止まない雨
 [5/27 月に願いを
 [5/28 天国と地獄
 [5/30 ごめんね
           続編

登場人物
 鬼龍院 加寿磨
 (きりゅういん かずま)
 金城 小夜子
 (きんじょう さよこ)
    玲央 (れお)
    真央 (まお)
 園子 (そのこ)
 椎名 友子(しいな ともこ) 


「母さん、大丈夫ですか?」
今まで住んでいた家を後にして加寿磨は母の事が心配で仕方なかった。
母は片田舎の地主の末っ子長女として生まれた。
やっと授かった女の子、その為甘やかされわがままな娘に育った。
父との馴れ初めはわからないが、ほとんど勘当状態で結婚したらしい。
母はそれ以来、実家へは帰っていない。
結婚直後は6畳一間の狭い部屋で食べるのがやっとだったそうだ。
父は、母の為に必死になって働き10年かけて自分の会社を設立た。
ボクが生まれたのは、それから2年後だ。
会社は順調に業績を上げ、あの崖っぷちの家を購入した。
古い家ではあったが2階の部屋から見える景色を母が気に入って決断したようだ。
その後、事故で父を亡くし、ボクも記憶を無くし歩けなくなった。
それからのボクはわがままになり、よく母に当たっていた。
そう、あの子に会うまでは。
ボクが奇跡的に立つことができ、歩く為のリハビリをしだしてからは母も明るくなってきたと思う。
だが、今はまた俯くようになった。
これからはボクが母さんを支えていかなければ...。
でも、学校にも行っていない15才のボクに何が出来るのだろう。
そんな事を考えているうちに、会社の人が手配してくれた引っ越し先に着いた。
「母さん、着きましたよ」
「これからここに住むのですか?」
それは2K(6畳と3畳にキッチン)のアパートだった。

           つづく

6/2/2024, 7:12:32 AM

【梅雨】

登場人物
 琴美
 葵

「コトちゃん、今日梅雨入りしたってさ」
「ふぅーん」
「ちっちゃい頃の事覚えてる?」
「え」
「初めて傘買ってもらった時のこと」
「あ〜」
「コトちゃん大ハシャギだったよね」
「...」

それは、琴美と葵が2才の梅雨のことでした。

「ねー、これ見てー。カワイイでしょー」
琴美は葵を見てカワイイ💖と思ったが、自分よりカワイイのは認めたくなかった。
「別に〜」
と言って行ってしまった。
「母たん母たん」
「あらっ、お帰り琴美」
「母たん、あのねあのね、アーちゃんがね、こんなの持ってこんなの着てこんなの履いてた」
琴美は身振り手振りで傘カッパ雨靴の説明をした。
「あらそー、もうすぐ梅雨になるからね、買ってもらったんだね。可愛いかったかい」
「ううん」琴美はどうしても認めたくなかった。
「ふ〜ん、じゃあ琴美はいらな...」
「いるー!琴美も欲しい!」
「じゃあ、今から買いに行こ...」
「行くー!はやくハヤク早くー!」
琴美に引き摺られる様にふたりは傘屋さんに到着した。
「いらっしゃーい」
琴美は店の中を走り回り、店で1番カワイイ雨具を探した。
「アタシこれにする」
琴美が選んだのはファッションモデルが着るようは物だった。
「琴美、これは高いから他のにしようね」
「いや!」
「でも、琴美には大き過ぎるでしょ。こんな大きな傘じゃ、風で空まで飛んでいっちゃうからこっちのにしなさい」
「うん」
「カッパも大き過ぎてひきずっちっうから、こっちのピンクのがカワイイわよ」
「うん」
「雨靴もブカブカでしょ、これがちょうどいいわよ」
「うん、アタシこれにする」
「毎度ありがとうございます」
「琴美、家に帰るから脱いでね」
「やだ、着て帰る」
琴美はタグを付けたまま走り出した。
「母たん、いつ雨降るの?」
「曇ってきたからもうすぐ降るかもね」
家の近くに来ると、ポツポツ降り出してきた。
「アーちゃんとこ行って来るー」
琴美は大ハシャギで走って行った。
「アーちゃん見て見てーアタシのカワイイでしょ」
「コトちゃんも買ってもらったの」
「あら、琴美ちゃんいらっしゃい、カワイイわね」
「遊びに行こ」
「琴美ちゃん雨なのに遊びに行くの?」
「雨だから遊びに行くの」
琴美と葵は雨の中を飛び出して行った。
「雨なのに全然濡れないね」
琴美は水たまりを見つけ雨靴で思い切り踏みつけた」
バシャ!勢いよく水が跳ね上がった。
「わースゴイ、わたしもやりたい」
ふたりはしばらく水たまりで遊んだ。はしゃぎすぎて暑くなったので、カッパの前を開ける事にした。
「前開けると涼しいね」
雨は少し強くなってきたので水たまりも大きくなった。
そこを車が通ると大きな水しぶきが上がった。
それを見てふたりはニヤッと笑い水しぶきがかかる位置に立った。
すぐに車が来た。
葵は傘を前に倒し水しぶきを傘で受け止めた。
琴美は...
「ただいま」
「おかえり、琴美どうしたのビショ濡れじゃないの?」
琴美は水しぶきを見てやろうと思い傘を上げたままだったので、水しぶきをまともに浴びてしまったのだ。
「テヘッ!」

           おわり

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