【誰にも言えない秘密】
[5/20 突然の別れ
[5/24 逃れられない
続編
登場人物
桜井 華 (さくらいはな)
恵美
優子
高峰 桔梗
(たかみね ききょう)
樹 (いつき)
優子のストーカー騒動からひと月程たった頃。
「桔梗、明日 恵美たちと買い物に行くのだが、よければ一緒に行かないか」
「私も行ってもいいんですか?」
「もちろんだ。恵美も、桔梗に会いたがっていたしな、樹は母がいるから大丈夫だ」
そして翌日、約束の時間、恵美たちは既に来ていた。
「お待たせ、彼女が...」
「高峰桔梗です。よろしくお願いします」
「こんにちは、若いねー。高2だっけ、私にもこんな時代があったんだなー」
「だよねー、何年前だったかな?」
「じゃ、そろそろ行こうか」
桔梗が行ってみたい店があるというので、そこに行くことになった。
「桔梗ちゃん、これ着てみて」
「こっちのもカワイイよー」
こうして、桔梗人生初のファッションショーが始まった。
「こんなに買ってもらって、ありがとうございます。大事にします」
その後、みんなで食事をした。
「恵美さんは赤ちゃんがいるんですか?」
「そうよ、ナナって言うの。今度、家にも遊びに来てね」
「はい、ぜひ」
「優子さんは、仕事なにされてるんですか?」
「私は、小さなクリニックで看護師をしているのよ」
「白衣の天使さんて、結構モテるんじゃないんですか?」
「残念なから男運ないのよねー」
「華さん、前から聞こうと思ってたんですけど、どうして警察官になろうと思ったんですか?」
「華は昔から正義の塊だもんね」
「お巡りさんはピッタリだよね」
「まぁ、そんなところだ」
「そうなんですか」
桔梗はなんとなくだが、納得できなかった。何か誰にも言えない秘密があるのではないかと。
恵美たちと別れ帰宅の途中で、桔梗はもう一度、華に聞いてみた。「華さん、警察官になった理由って本当は別にあるんじゃないですか?」
「桔梗は鋭いな、その通りだ。だが、今は言えない。すまない。話せる時がくるまで待ってくれ」
つづく
【狭い部屋】
[5/19 恋物語
[5/26 降り止まない雨
[5/27 月に願いを
[5/28 天国と地獄
[5/30 ごめんね
続編
登場人物
鬼龍院 加寿磨
(きりゅういん かずま)
金城 小夜子
(きんじょう さよこ)
玲央 (れお)
真央 (まお)
園子 (そのこ)
椎名 友子(しいな ともこ)
「母さん、大丈夫ですか?」
今まで住んでいた家を後にして加寿磨は母の事が心配で仕方なかった。
母は片田舎の地主の末っ子長女として生まれた。
やっと授かった女の子、その為甘やかされわがままな娘に育った。
父との馴れ初めはわからないが、ほとんど勘当状態で結婚したらしい。
母はそれ以来、実家へは帰っていない。
結婚直後は6畳一間の狭い部屋で食べるのがやっとだったそうだ。
父は、母の為に必死になって働き10年かけて自分の会社を設立た。
ボクが生まれたのは、それから2年後だ。
会社は順調に業績を上げ、あの崖っぷちの家を購入した。
古い家ではあったが2階の部屋から見える景色を母が気に入って決断したようだ。
その後、事故で父を亡くし、ボクも記憶を無くし歩けなくなった。
それからのボクはわがままになり、よく母に当たっていた。
そう、あの子に会うまでは。
ボクが奇跡的に立つことができ、歩く為のリハビリをしだしてからは母も明るくなってきたと思う。
だが、今はまた俯くようになった。
これからはボクが母さんを支えていかなければ...。
でも、学校にも行っていない15才のボクに何が出来るのだろう。
そんな事を考えているうちに、会社の人が手配してくれた引っ越し先に着いた。
「母さん、着きましたよ」
「これからここに住むのですか?」
それは2K(6畳と3畳にキッチン)のアパートだった。
つづく
【梅雨】
登場人物
琴美
葵
「コトちゃん、今日梅雨入りしたってさ」
「ふぅーん」
「ちっちゃい頃の事覚えてる?」
「え」
「初めて傘買ってもらった時のこと」
「あ〜」
「コトちゃん大ハシャギだったよね」
「...」
それは、琴美と葵が2才の梅雨のことでした。
「ねー、これ見てー。カワイイでしょー」
琴美は葵を見てカワイイ💖と思ったが、自分よりカワイイのは認めたくなかった。
「別に〜」
と言って行ってしまった。
「母たん母たん」
「あらっ、お帰り琴美」
「母たん、あのねあのね、アーちゃんがね、こんなの持ってこんなの着てこんなの履いてた」
琴美は身振り手振りで傘カッパ雨靴の説明をした。
「あらそー、もうすぐ梅雨になるからね、買ってもらったんだね。可愛いかったかい」
「ううん」琴美はどうしても認めたくなかった。
「ふ〜ん、じゃあ琴美はいらな...」
「いるー!琴美も欲しい!」
「じゃあ、今から買いに行こ...」
「行くー!はやくハヤク早くー!」
琴美に引き摺られる様にふたりは傘屋さんに到着した。
「いらっしゃーい」
琴美は店の中を走り回り、店で1番カワイイ雨具を探した。
「アタシこれにする」
琴美が選んだのはファッションモデルが着るようは物だった。
「琴美、これは高いから他のにしようね」
「いや!」
「でも、琴美には大き過ぎるでしょ。こんな大きな傘じゃ、風で空まで飛んでいっちゃうからこっちのにしなさい」
「うん」
「カッパも大き過ぎてひきずっちっうから、こっちのピンクのがカワイイわよ」
「うん」
「雨靴もブカブカでしょ、これがちょうどいいわよ」
「うん、アタシこれにする」
「毎度ありがとうございます」
「琴美、家に帰るから脱いでね」
「やだ、着て帰る」
琴美はタグを付けたまま走り出した。
「母たん、いつ雨降るの?」
「曇ってきたからもうすぐ降るかもね」
家の近くに来ると、ポツポツ降り出してきた。
「アーちゃんとこ行って来るー」
琴美は大ハシャギで走って行った。
「アーちゃん見て見てーアタシのカワイイでしょ」
「コトちゃんも買ってもらったの」
「あら、琴美ちゃんいらっしゃい、カワイイわね」
「遊びに行こ」
「琴美ちゃん雨なのに遊びに行くの?」
「雨だから遊びに行くの」
琴美と葵は雨の中を飛び出して行った。
「雨なのに全然濡れないね」
琴美は水たまりを見つけ雨靴で思い切り踏みつけた」
バシャ!勢いよく水が跳ね上がった。
「わースゴイ、わたしもやりたい」
ふたりはしばらく水たまりで遊んだ。はしゃぎすぎて暑くなったので、カッパの前を開ける事にした。
「前開けると涼しいね」
雨は少し強くなってきたので水たまりも大きくなった。
そこを車が通ると大きな水しぶきが上がった。
それを見てふたりはニヤッと笑い水しぶきがかかる位置に立った。
すぐに車が来た。
葵は傘を前に倒し水しぶきを傘で受け止めた。
琴美は...
「ただいま」
「おかえり、琴美どうしたのビショ濡れじゃないの?」
琴美は水しぶきを見てやろうと思い傘を上げたままだったので、水しぶきをまともに浴びてしまったのだ。
「テヘッ!」
おわり
【無垢】
私の小さい頃の夢は、綺麗なお嫁さんになることでした。
偶然見かけたお嫁さんは真っ白な服を着て、すごく眩しく輝いて見えました。
いつかきっとあんなキレイな服を着て、お嫁さんになるんだ。
そんなありきたりな夢を描いた私は、結婚式場でウェディングプランナーをしている。
人の結婚に興味などない。
すべては、自分が結婚する為の予行練習だ。
ウェディングプランナーになって、1年。
何人もの花嫁さんを見てきたが、小さい時に見た花嫁さんほど綺麗な人はいなかった。
思い出は美化される。そんなところだろうか。
ウェディングドレスに身を纏い人生の主人公としてカレンに歩くその姿はとても綺麗に映る。
でも、私が憧れるお嫁さんはこれとは違う気がする。
今回私が担当する花嫁さんは、30歳を過ぎ、あまりパッとしない小柄な女性だ。
お相手の方もヒョロッとして、モヤシのような人でお似合いというか、似た者同士という感じだ。
「この度はおめでとう御座います私、お二人を担当させて頂きます進藤と申します」
「よろしくお願いします。僕は佐藤幸治で彼女が田中幸子です。あまりお金をかけずに挙式と披露宴をしたいのです」
「かしこまりました。御招待人数は何名様でしょうか」
「20人くらいです」
「かしこまりました。式は和風洋風どちらになさいますか?」
「和風でお願いします」
「お衣裳はレンタル衣裳でよろしいでしょうか?」
「いいえ、母から譲り受けた白無垢を着たいのです」今まで黙っていた彼女が話し出した。
「その白無垢は、祖母が結婚する時に曽祖母が縫い上げた物です。曽祖母は若い頃、呉服屋で働いていて、娘が結婚する時に着せようと、反物を安く譲ってもらったそうです。
その後、戦争が起き、空襲からも戦後の辛い中も、その反物だけは手放さなかったそうです。
そして娘(祖母)が結婚する時に花嫁衣裳を縫い上げ、袖に幸せの象徴のカスミソウの刺繍をしました。
ひと針ひと針、心を込めて丹念に仕上げられています。
私の母もその花嫁衣裳を着て式を挙げました。
だから私もその衣裳を着て式を挙げたいのです」
「幸子の気持ちはよく分かるよ、僕もお義母さんの式の写真を見たけど、単なる白い着物で...悪いけど白装束にしか見えなかったよ」
「私も最初はそう思ったの、でも手にした時、とても暖かい気持ちに包まれたの。お願いよ幸治さん、あの衣裳を着て式を挙げたいのよ」
「分かったよ、幸子がそこまで言うならそうしよう」
その後、何度か打ち合わせを行い式当日を迎えた。
花嫁の着付けをした係りを見つけたので様子を聞いてみた。
「最初に見た時は、少し黄ばみもあったので本当にこれを着るのかって思ったの。でも花嫁さんに着せてるうちに、私まで幸せな気持ちになってたのよ。
あの衣裳には作った人の心が籠っているんだね。
私もこの仕事は長いけど、こんな気持ちになったのは初めてだよ」
式が始まり花嫁が入って来た。
うっ、眩しい!
花嫁が真っ白に輝いて見える。
その衣裳は、私が子供の頃に見た花嫁衣裳だった。
彼女が言っていた気持ちがよく分かった。
私もこんな花嫁になりたい。
おわり
【終わりなき旅】
登場人物
影丸(かげまる)
楓(かえで)
「影丸、私を連れて逃げておくれ」
「お嬢様、そいつは出来やせん」
「このままだと、あの大店の金持ちで背は高く粋で誰からも慕われまるで非の打ち所がない前途有望で二枚目の若旦那と婚姻させられちまうんだよ。お前はそれでいいのかい」
「お嬢様、こんな良縁他にはありやせん。アッシの事は構わず幸せになっておくんなせい」
「意気地なし、薄情者、馬鹿、デブチビハゲ」
「お嬢様、お言葉を返すようですが、アッシは馬鹿ですがデブでもチビでもハゲでもありやせん」
「そんな細かいこと気にしないで、とっとと私をさらって逃げなさい」
「お嬢様、堪忍してくだせい」
「それなら、品川宿まで美味しい団子を食べに行くならいいでしょ」
「それならお供しやすが、本当にそれだけですよ」
「いいわよそれで」
こうして、影丸とお嬢様が品川宿で団子を食べていた頃。
「旦那様、お嬢様が何処にも見当たりません。それに、部屋に文がありました」
「何だと、その文を貸しなさい」
そこには、こう書かれていた。
「お父っぁんへ
私は影丸に拐われました。
助けに来て下さい」
「何と言う事だ。婚姻は明日だというのに。まだ遠くへは行っていないだろう。手分けして連れ戻して参れ」
「はい、必ず連れ戻して参ります」
「それにしても影丸の奴、恩を仇で返しよって。許さん。簀巻きにして、海に放り込んでやる」
「あー美味しかった。追手が来る前に先を急ぎましょう」
「追手って?帰るんじゃないんですかい」
「帰らないわよ。それより、捕まったら、お前殺されるよ。それでもいいのかい?」
「えっ、どう言う事でやんすか?」
「出て来る時に、お父っぁんに文を置いてきたのさ」
「どんな文ですかい」
〈お父っぁんへ
私は影丸に拐われました。
助けに来て下さい〉
「お嬢様、堪忍してくだせえ。そりゃあんまりじゃありやせんか。
アッシは何もしちゃいませんよ」
「だって、そうしないと私のせいにされるじゃない」
「お嬢様~~~」
「わかったでしょ、もう逃げるしか無いのよ」
影丸は仕方なくお嬢様に付いて行くしかなかった。
日暮れ前に川崎宿に着き、宿屋を探した。
「私綺麗な所じゃないと嫌よ」
「分かりやした。ここは、いかがですか」
「そこより、あっちの方がキレイじゃない?」
「お嬢様あそこはいけやせん。あそこは岡場所です。行ったら売られてしまいやす」
何とか宿屋を決め中へ入る。
「いらっしゃいませ。おふたり様ひと部屋でよろしいですか?」
「それで、結構よ」
「何を言ってるんですかいお嬢様、ふた部屋お願いしやす」
「影丸って随分贅沢なのね」
「お嬢様と同じ部屋に泊まったなんて旦那様に知れたらアッシは魚のエサにされやす」
食事を済ませると、歩き疲れたせいか、楓はすぐに寝てしまった。
一方、影丸は眠れるはずがない。
どうしたものかと考え込んでいると、人の気配を感じた。
すかさず布団から飛び出し陰に潜む。
天板が連れ、そこから影が降りてきた。
「何者だ?」
「さすが影丸だな。気配は完全に消していたのだがな」
「何用だ」
「オヌシ自分が何をしているのかわかっておるのか?」
「うっ...お嬢様を放っておく訳にはいかぬのだ」
「来るべき使命を何と思うておるのか?」
「分かっておる。お嬢様を家へ帰したら、無論、来るべき使命に備える」
「よかろう、2日待つ。それを過ぎても来るべき使命に備えていなければ、抜け忍とみなし追手を差し向ける。よいな」
「よかろう。ところでオヌシはひとりで来たのか?」
「いや、もうひとり見張りに付けている」
「見張り?そんなもの必要無かろうに」
「見張りを置くのは、忍びの基本だからな。では、御免」
フー大変な事になるところであった。明日にでも帰らねば。
その頃外の見張りは、気絶していた。
「おい、誰にやられたのだ?」
「分からぬ、気配すら感じぬまま...不覚であった」
その頃、楓は大の字で大イビキを掻き爆睡していた。
こうして影丸と楓の終わりなき旅が始まった。
つづく?