星乃 砂

Open App

【終わりなき旅】

登場人物
 影丸(かげまる)
 楓(かえで)


「影丸、私を連れて逃げておくれ」
「お嬢様、そいつは出来やせん」
「このままだと、あの大店の金持ちで背は高く粋で誰からも慕われまるで非の打ち所がない前途有望で二枚目の若旦那と婚姻させられちまうんだよ。お前はそれでいいのかい」
「お嬢様、こんな良縁他にはありやせん。アッシの事は構わず幸せになっておくんなせい」
「意気地なし、薄情者、馬鹿、デブチビハゲ」
「お嬢様、お言葉を返すようですが、アッシは馬鹿ですがデブでもチビでもハゲでもありやせん」
「そんな細かいこと気にしないで、とっとと私をさらって逃げなさい」
「お嬢様、堪忍してくだせい」
「それなら、品川宿まで美味しい団子を食べに行くならいいでしょ」
「それならお供しやすが、本当にそれだけですよ」
「いいわよそれで」

こうして、影丸とお嬢様が品川宿で団子を食べていた頃。

「旦那様、お嬢様が何処にも見当たりません。それに、部屋に文がありました」
「何だと、その文を貸しなさい」
そこには、こう書かれていた。
「お父っぁんへ
私は影丸に拐われました。
助けに来て下さい」
「何と言う事だ。婚姻は明日だというのに。まだ遠くへは行っていないだろう。手分けして連れ戻して参れ」
「はい、必ず連れ戻して参ります」
「それにしても影丸の奴、恩を仇で返しよって。許さん。簀巻きにして、海に放り込んでやる」

「あー美味しかった。追手が来る前に先を急ぎましょう」
「追手って?帰るんじゃないんですかい」
「帰らないわよ。それより、捕まったら、お前殺されるよ。それでもいいのかい?」
「えっ、どう言う事でやんすか?」
「出て来る時に、お父っぁんに文を置いてきたのさ」
「どんな文ですかい」

〈お父っぁんへ
私は影丸に拐われました。
助けに来て下さい〉

「お嬢様、堪忍してくだせえ。そりゃあんまりじゃありやせんか。
アッシは何もしちゃいませんよ」
「だって、そうしないと私のせいにされるじゃない」
「お嬢様~~~」
「わかったでしょ、もう逃げるしか無いのよ」
影丸は仕方なくお嬢様に付いて行くしかなかった。
日暮れ前に川崎宿に着き、宿屋を探した。
「私綺麗な所じゃないと嫌よ」
「分かりやした。ここは、いかがですか」
「そこより、あっちの方がキレイじゃない?」
「お嬢様あそこはいけやせん。あそこは岡場所です。行ったら売られてしまいやす」
何とか宿屋を決め中へ入る。
「いらっしゃいませ。おふたり様ひと部屋でよろしいですか?」
「それで、結構よ」
「何を言ってるんですかいお嬢様、ふた部屋お願いしやす」
「影丸って随分贅沢なのね」
「お嬢様と同じ部屋に泊まったなんて旦那様に知れたらアッシは魚のエサにされやす」

食事を済ませると、歩き疲れたせいか、楓はすぐに寝てしまった。
一方、影丸は眠れるはずがない。
どうしたものかと考え込んでいると、人の気配を感じた。
すかさず布団から飛び出し陰に潜む。
天板が連れ、そこから影が降りてきた。
「何者だ?」
「さすが影丸だな。気配は完全に消していたのだがな」
「何用だ」
「オヌシ自分が何をしているのかわかっておるのか?」
「うっ...お嬢様を放っておく訳にはいかぬのだ」
「来るべき使命を何と思うておるのか?」
「分かっておる。お嬢様を家へ帰したら、無論、来るべき使命に備える」
「よかろう、2日待つ。それを過ぎても来るべき使命に備えていなければ、抜け忍とみなし追手を差し向ける。よいな」
「よかろう。ところでオヌシはひとりで来たのか?」
「いや、もうひとり見張りに付けている」
「見張り?そんなもの必要無かろうに」
「見張りを置くのは、忍びの基本だからな。では、御免」
フー大変な事になるところであった。明日にでも帰らねば。
その頃外の見張りは、気絶していた。
「おい、誰にやられたのだ?」
「分からぬ、気配すら感じぬまま...不覚であった」
その頃、楓は大の字で大イビキを掻き爆睡していた。

こうして影丸と楓の終わりなき旅が始まった。
          
          つづく?

5/31/2024, 11:22:27 AM