『ただ、1つだけ伝えさせてください。私はいつまでも、君の友達で君の味方です。君が私を忘れても、私が君のことを忘れても、ずっと君の味方です。この事実が、君の人生での小さな支えとなれば幸いです。』
これまでに貰ったたくさんの手紙をふと思い立って整理しているとき、差出人が書いていない、四つ葉のクローバーのイラストが書いている手紙にこう書いてあった。誰に貰ったかも覚えていないけど、心が一気に軽くなった。たった今、私の人生での支えとなっているよ、ありがとうと今伝えたい。顔も名前も分からないから、伝えるに伝えられないけれど。はて、私の友達に転校した子がいただろうか。それとも、今も友達の誰かだろうか。ずっと前に疎遠になった人か。できる限り思い出してみるが、思い当たる人は出てこない。手紙をもう一度読んでみると、字がかなり綺麗なことに気がついた。少なくとも小学生が書く字では無い。それと、友達にこんな字の綺麗なやつは一人もいないから、多分今も友達のやつから貰ったものじゃない。転校した子は、全員そんなに仲良くない子だったはずだ。1回だけ、すごく仲の良かった子が転校したけど、その子から貰った手紙は別にあった。そっちも随分と心が軽くなった。手紙って暖かい。なんて素晴らしいものなんだろう。手紙を書こうなんて言っている広告をバカにしていた自分が惨めだ。となると、疎遠になった人だろうか。元々友達が多い方では無いので、疎遠になった子もなんとなくは覚えている。眼鏡をかけてた明るい子、剣道をやってた子、俳優さんや女優さんが好きな子、最後に揉めちゃって仲直りできてない子などかなり覚えている。でも、どの子からもちゃんと名前がある手紙を沢山貰っていた。先輩や後輩からの手紙もちゃんと別であった、小学校の先生からの手紙もあった。
「ラブレターとか…ないか。」
思わず声に出てしまった願望。一瞬で否定してしまう自分が悲しい。
そのあと、お風呂に入ってる最中も、寝る前までも考えたがどうもやっぱり思い出せない。結果、1つだけわかったことは、私には絶対に1人は味方がいるってことだ。私も、何も覚えていない「友達」の一生の味方であれればいいなとつくづく思う。これから先、思い出せた暁には、友達を辿りにたどってその友達にお礼をいいたい。
好きな人ができた。恋愛など全く関わってこなかった人間に、高校生になって初めて好きな人が出来た。今まで好きな人がいる子から聞いていた、「好きな人が1番かっこよく見える。」とか「好きな人がすることは、よっぽどじゃなけりゃ可愛くてかっこよくてしかたない。」とか言うことの意味がやっとわかった。本当にその通りだ。ああ、あの時みんなを心の中でバカにしていた私を、今すぐにでも殴らせてくれ!
そんなことを思っていると、いきなり親友が私の机に来てちょっかいをかけてきた。
「ヨシのこと好きなんやろ〜?告白せんのか?」
「お前みたいに軽ない。」
ピシャリ、とその親友の言葉を遮った。親友は行動力が凄くて、好きになったら即行動する様なやつだ。羨ましい。だいたいそれで結ばれる親友のことが妬ましい。今すぐにでも、頭にチョップを入れてやりたいほどだ。
「うちやって軽ないわ。アホ。どうせ羨ましいとか思っとんやろ。そう思うぐらいなら、行動しいや。」
「できんからこうやって、グチグチ言ってんの。ちょっとは分かればいいやん。」
「すまんな、お前みたいに理解力がなくて!」
毎日のように喧嘩をして、毎日仲直りをして、毎日2人で部活をちょっとサボる。仲良くないと言われれば、そうかもしれない。
「あ、ヨシ。」
親友の言葉に反応して、教室の前のドアをみる。ヨシは、いつも必ず前から教室に入るのだ。悪い目を凝らして教室の端から見ると、やっぱり、ヨシがいた。かっこいい。好きだ。本当に好きだ。今すぐにでも告白してしまいたい。そんな勇気は無いけれど。
「好きだわ。」
「それ本人の前で言えや〜。」
無理、と笑いながら呟いた。いつかはきっと告白するのだ。振られてもいいからするのだ。しないと後悔するのだから。
嫉妬や、嫌な気持ちや、好きって言う気持ちにまみれて私は高校生活を謳歌する。多分、きっと、この溢れそうな、溢れる気持ちが恋なのだろう。
君は覚えているか。雨の日のコンクリートの匂いを。8月の蝉の声を。シャープペンシルのカチカチという音を。本をめくる時の紙の音を。小さい時に信じたサンタクロースを。疎遠になった友の声を。
だが君が引っ越してから何年経ったか、私のことさえ、もう覚えていないかもしれないね。最近は雨も降っていないし、蝉の声も都会に住んでいるから聞いていないか。シャープペンシルなどもう時代遅れらしいね。まだ私は使っているが。もう本もこれからは全て電子書籍らしいじゃないか。何という時代になってしまったものだ…。私の家のは1000年経っても色褪せぬ名作が数え切れぬほど置いていると言うのに。そのコレクションをもう増やせないとは気が動転しそうだよ。サンタクロースは最近職業化してきたそうだな。夢を与える仕事だのなんだの言うが…、まぁそうは思えないな。君もサンタクロースをしているのだったか。阿呆くさいぞ。そんな仕事やめたまえ。小説家になると夢見ていた君はどこに行ったのか。私はまだ売れないが書き続けているぞ。もうそれも電子書籍化とやらで終わりそうだがな。
…疎遠になった友とは私のことだ。薄々気づいていただろうが。私の声を覚えているか?勝手にどこかの声優の声を当てているのではないか。それは私の声ではない。そのキャラクターの声だろう。全く、記憶力のないやつだ。まぁ、ここまでこの世界への愚痴をぐだぐだと書いてきたが、本題だ。来年。ちょうど今日から1年後。1000年のコールドスリープとやらを実験でするらしい。私はそれに応募していたのだが、見事当選したのだ。だが、素晴らしい名作の数々を残しては行けなくてな。唯一の友の君を頼ったというわけだよ。NOという答えは受け付けない。この手紙を読んだのならすぐに来てくれ。話もしたいしな。
君が帰ったあとの、1000年後、また会おうではないか。もちろん、本命は君ではなく名作たちだが。
雨がドボドボと灰色の空から降ってくる。今日は天気予報を見ていなかったから、お母さんが外に洗濯物を干していた。洗濯物大丈夫かな。
「こら、そこ。窓の外見ない。」
先生が私に向かって注意をした。はぁい、とだるそうに返事をしたら、先生は「気をつけるように」とだけ言って、また黒板に文字を書き出した。視線をまた、窓の方に向ける。窓際の君が、また他の人を見ていた。溜息をついて、窓際の君を見る。君が、少し私の方を見た…気がした。でも、他の人を見ていることには変わりがない。もし、両思いじゃなかったら、片思いだったとしたら、辛くて苦しくてたまらない。不安で胸がいっぱいになる。吐き気がしそうな程胸が苦しい。雨が降っていると、さらに気分が落ちる気がする。最悪だ。そんなことをぐるぐると考えていると、キーンコーンカーンコーンとチャイムがなった。委員長の起立、礼の後に、ありがとうございましたー、とそれぞれが言って自然と周りが散らばっていく。友人が私の机に来て、私の肩をぽんと叩いた。
「今日あとから晴れるってよ。それに、大丈夫。両思い。きっと。」
「ありがと。安心した。」
少し和らいだ不安と、友人のくれた安心を胸につめて、まだ吐きそうな程の不安をそっと心の奥にしまう。
「大丈夫。きっと、大丈夫。」
窓際の君は、まだ違う人を見ていた。
「逆光って不憫よね」
そういう彼女に、はぁ、と返事をする。彼女はどこか遠くを見つめているようで、俺の事など眼中にもないようだ。
「考えてもみてよ、逆光ってあまり良いと思う人が少ないじゃない。撮り方が上手じゃなきゃ、失敗したも同然よ。それに、逆境や脚光に間違えられるの。ちょっと、検索してみてよ、調べる度に不憫に思えてくるわ。」
コーヒーにシロップを入れながら彼女は話す。逆光に対して俺は感情を抱かない。彼女の横顔を見ながら、俺は適当な相槌をうった。
「でも、私は逆光が好きよ。逆光を浴びている物や人を見ると、言葉にできない神々しさや、懐かしさが湧き上がってくるの。」
「例えば、今の君とか?」
彼女は、クスッと笑った。
「嬉しいこと言ってくれるじゃない。でも、それはあなたもよ。だって私の隣にいるんだから。」
彼女の顔はよく見えなかった。ただ、何となく美しいと思った。彼女をもう少し見ていたくて、俺は彼女を見つめながら言う。
「俺も、逆光好きだよ。」
「それは、なぜ?」
彼女がこちらに顔を向けた。少し眩しそうに笑っている。
「逆光を浴びている物や人を見ると、言葉にできない神々しさや、懐かしさが湧き上がってくるからかな。」
彼女は適当な相槌をうった。俺は、彼女と顔を見合せて笑う。幸せな時間が、ゆっくりと過ぎていった。