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君は覚えているか。雨の日のコンクリートの匂いを。8月の蝉の声を。シャープペンシルのカチカチという音を。本をめくる時の紙の音を。小さい時に信じたサンタクロースを。疎遠になった友の声を。
だが君が引っ越してから何年経ったか、私のことさえ、もう覚えていないかもしれないね。最近は雨も降っていないし、蝉の声も都会に住んでいるから聞いていないか。シャープペンシルなどもう時代遅れらしいね。まだ私は使っているが。もう本もこれからは全て電子書籍らしいじゃないか。何という時代になってしまったものだ…。私の家のは1000年経っても色褪せぬ名作が数え切れぬほど置いていると言うのに。そのコレクションをもう増やせないとは気が動転しそうだよ。サンタクロースは最近職業化してきたそうだな。夢を与える仕事だのなんだの言うが…、まぁそうは思えないな。君もサンタクロースをしているのだったか。阿呆くさいぞ。そんな仕事やめたまえ。小説家になると夢見ていた君はどこに行ったのか。私はまだ売れないが書き続けているぞ。もうそれも電子書籍化とやらで終わりそうだがな。
…疎遠になった友とは私のことだ。薄々気づいていただろうが。私の声を覚えているか?勝手にどこかの声優の声を当てているのではないか。それは私の声ではない。そのキャラクターの声だろう。全く、記憶力のないやつだ。まぁ、ここまでこの世界への愚痴をぐだぐだと書いてきたが、本題だ。来年。ちょうど今日から1年後。1000年のコールドスリープとやらを実験でするらしい。私はそれに応募していたのだが、見事当選したのだ。だが、素晴らしい名作の数々を残しては行けなくてな。唯一の友の君を頼ったというわけだよ。NOという答えは受け付けない。この手紙を読んだのならすぐに来てくれ。話もしたいしな。
君が帰ったあとの、1000年後、また会おうではないか。もちろん、本命は君ではなく名作たちだが。

2/4/2023, 10:30:16 AM