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1/24/2023, 10:12:06 AM

小さい頃は、誰かを救うヒーローになることが夢だった。小学校に上がると、パン屋さんに憧れた。でも結局、ヒーローに憧れたままだった。中学校に上がると、周りは段々と公務員や先生など現実的な夢を見るようになった。私だけ、まだ1人ヒーローを夢みていた。こんな夢を語れば、周りからはきっと、馬鹿なこと言ってないで、現実を見なさい、と言われることだろう。だから私は、本当の夢を語らない。将来の夢の作文も、小学校の道徳の時間の発表も、嘘にまみれた夢を語った。夢を語るのははずかしいことじゃない、と言うけれど、そんなことは無い。一般的な夢を持った人だけがそう言えるのだ。
「俺はヒーローになりたいんだ。仮面ライダーだとか、そういうの。かっこいいだろ!」
「お前、そろそろ現実見ろよ。頭いいのにもったいねぇ。医者とかになればいいんじゃねぇの。」
男子の会話が耳に入ってくる。
「なぁ、お前はどう思うよ。」
「私ですか?」
「そう、お前!」
いきなり会話を振られた。ここは一般人の振りをすべきが同調すべきか…。でも、周りに人はいない。顔も名前も知らないこいつらだけだ。ならば…。
「私も、なりたいんで…。いいんじゃないですか。」
そう言うと、本当に嬉しそうにそいつは喜んでいた。何故か、こっちまで嬉しくなるほどに。
「だよな!!ヒーローになりたいよな!みんなに否定されるからさ。めっちゃ嬉しい!」
「ちぇっ。ヒーロー2号かよ。」
「名前も知らないけどよ、お前、一緒にヒーローになろうぜ!」
わたしは、頷いたあとにすぐに目を逸らした。その笑顔が眩しくて。いわゆる一目惚れだ。私も自分の気持ちに鈍感じゃない。お前は、もうヒーローになっているじゃないか。
「待って、でもお前もうヒーローじゃん!俺の事救ったよ!俺もお前救うわ!期待しといて!」
そして、ヒーローは自転車に乗って去っていった。
さっきまで、ヒーローになる夢を見ていた私は、もう立派なヒーローだ。なんたって、好きな人を救ったのだから!

1/23/2023, 9:59:16 AM

屋上に上がってみたかった。昨年発売中止になったアイスをもう一度食べたかった。夏祭りを好きな人と一緒に行きたかった。そんな下らない願い事を塵のように積もらせ、私は今日も生きている。ああ、もしタイムマシーンがあったなら!私は、完璧な人生を歩むのに。今の環境で十分満足はしている。でも、やっぱり、やり直せるなら、やり直したい。
「タイムマシーンは理論上は可能ということですが、それを実現することはできるのでしょうか。」
日曜日、ソファーの上でだらけている私の耳は、つまらなそうなテレビ番組から流れてきた音声をキャッチした。
「…出来るわけないじゃん。」
思わず声が出てしまった。タイムマシーンなんてものがあったら全人類完璧完全な人生を謳歌しているに決まっている。こんなクソみたいな女子中学生が誕生するわけが無い。
「1年前にもし、戻れたなら…、好きな人に告白しよう。大好きだったアイス、もう1回食べよう。」
独り言をブツブツと呟きながら、スマホのWeb小説を読み漁る。
「あぁっ、変な広告押しちゃった!」
小さいばつをおそうとした時、その広告を思わず凝視した。
『やり直したい。そんなあなたに1時間だけ!過去に戻れちゃうプレゼント!』
馬鹿げた広告だ。でも、妙にタイミングがいい。これは押さなきゃ損だろう。私は、なんの疑いも無く広告をクリックした。
「…なんも起こらないよね。知ってた。小説の続き読もう。」
その瞬間、息を呑む。
「去年の、今日?」
私は、本当に過去に来てしまったようだ。なんと好都合。そして、丁度今日と言えば、去年の、夏祭りの日。
「いかなくちゃ」
まず、家を出て自転車を高速でこいだ。コンビニで大好きなアイスを買った。嬉しくて口角が上がってしまう。でも、ここで十分ちょっと。夏祭り開始までは、1時間。間に合わない。せめて、告白だけでも。でも、どこにも好きな人が居ない。50分経過。あと10分しかない。そこで、私は最悪の事実に気づく。
「好きな人が死んだのは、一昨年だった」
泣いて、泣いて、泣いた。きっと変に見られたに違いない。
気がついた時、ズボンのポケットの中には、去年の百円玉と、溶けきった去年のアイスが入っていた。

1/21/2023, 1:49:36 PM

「きっと、夜のせいだろう」昔、大好きだった小説の、女の子がそんなことを言っていた気がする。その言葉の美しさに心を奪われ、夜が好きになった中学校時代を思い出す。今は夜が嫌いだ。あの頃の自分に「夜はいいものじゃないよ」と言ってやりたい。夜って言うのは、急に、昼にはなかった考えや思い出がよみがえって、私を襲う。何となく、息がしにくくなって、生きにくくなる。そして、誰にも会えない。そんな時、人の姿があるかと確認しようと、窓から見る夜の街は、どこか寂しい。独りだ、という感覚に捕われる。そして、心の中が空っぽになる。泣き出してしまいそうになる。これこそ、夜のせいなのだろう。だが、その小説の彼女が言っていた「夜のせい」が、果たして私が言っている意味なのかは今の私には分からない。もう少し、違う意味だったような気がする。あんなに大好きだった小説の内容まで忘れてしまうだなんて、私はどこまで変わってしまったのだろう。
「きっと、色々な夜を超えてきたからなのよね…」
そう呟いて自己暗示をかける。こんな夜は、早く過ぎてしまえばいい。あの頃の夜が好きだった自分は、もう居ないのだから。ああ、今日は、いつもより特別寂しい夜だった。早く、朝になりますように。そして私は、ベッドの上で目を閉じた。


大好きだった小説→吉本ばなな 『TUGUMI』

1/20/2023, 1:17:21 PM

人魚姫の恋が報われなかったのだとしたら、私の恋は報われるはずがなかった。最初から報われるものじゃないと知っていた。でも、こんなにも悲しくてたまらないのは、どこかで報われるだろうと信じていたからなのだろう。片想いして、両想いだと信じて、告白して。振られた。涙が溢れてしまいそうだった。でも、カッコ悪いとこは見せたくない。そう思って、何とか笑った。でも、笑えていた気がしない。どうやって告白したかよく覚えていない。ただ、あの人に「ごめん、俺は君のことなんにも知らないから。付き合えない。」って言われたことは覚えている。相手からしたら、私なんて興味さえなかったのだろう。去年同じクラスだったのに。名前さえ覚えてもらえていないだなんて。あの人は、ただ、告白という名の嘔吐物をかけられただけ。気持ち悪くて、仕方がないだけ…。プツン、と糸が切れて、涙が溢れ出した。ああ、この恋終わったんだ。でも、まだ、あの人のことが好きなんだ。
「私って、なんて馬鹿なんだろう。」
定番の体育館裏で、暗い暗い心の海の底に溺れていく。差し込んでいたあなたという光が届かないところまで、深く、沈んでいった。

1/19/2023, 10:32:15 PM

吹奏楽部のうるさい音が聞こえる放課後。ドレミファソラシド、ドシラソファミレドと音階が聞こえた。まずい、と思って廊下を走り出す。今日は部活に遅刻することを言っていなかった。いつもなら言っているのだが、今日は好きな人が居残りをすると言うので、少しでも顔を見たくて居残りしてしまった。特にできてない課題も宿題もなかったが、先生に自主勉強したいので、と言って残らせてもらった。自分の株は上がるかもしれないし、好きな人は見えるしで一石二鳥だ。もちろん君の周りは友達で溢れていたから、そこまで顔は見れなかったけれど、一緒の空間にいるだけでも幸せだ。私は、君にバレないように、放課後、君に会いに部活をさぼる。

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