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「きっと、夜のせいだろう」昔、大好きだった小説の、女の子がそんなことを言っていた気がする。その言葉の美しさに心を奪われ、夜が好きになった中学校時代を思い出す。今は夜が嫌いだ。あの頃の自分に「夜はいいものじゃないよ」と言ってやりたい。夜って言うのは、急に、昼にはなかった考えや思い出がよみがえって、私を襲う。何となく、息がしにくくなって、生きにくくなる。そして、誰にも会えない。そんな時、人の姿があるかと確認しようと、窓から見る夜の街は、どこか寂しい。独りだ、という感覚に捕われる。そして、心の中が空っぽになる。泣き出してしまいそうになる。これこそ、夜のせいなのだろう。だが、その小説の彼女が言っていた「夜のせい」が、果たして私が言っている意味なのかは今の私には分からない。もう少し、違う意味だったような気がする。あんなに大好きだった小説の内容まで忘れてしまうだなんて、私はどこまで変わってしまったのだろう。
「きっと、色々な夜を超えてきたからなのよね…」
そう呟いて自己暗示をかける。こんな夜は、早く過ぎてしまえばいい。あの頃の夜が好きだった自分は、もう居ないのだから。ああ、今日は、いつもより特別寂しい夜だった。早く、朝になりますように。そして私は、ベッドの上で目を閉じた。


大好きだった小説→吉本ばなな 『TUGUMI』

1/21/2023, 1:49:36 PM