屋上に上がってみたかった。昨年発売中止になったアイスをもう一度食べたかった。夏祭りを好きな人と一緒に行きたかった。そんな下らない願い事を塵のように積もらせ、私は今日も生きている。ああ、もしタイムマシーンがあったなら!私は、完璧な人生を歩むのに。今の環境で十分満足はしている。でも、やっぱり、やり直せるなら、やり直したい。
「タイムマシーンは理論上は可能ということですが、それを実現することはできるのでしょうか。」
日曜日、ソファーの上でだらけている私の耳は、つまらなそうなテレビ番組から流れてきた音声をキャッチした。
「…出来るわけないじゃん。」
思わず声が出てしまった。タイムマシーンなんてものがあったら全人類完璧完全な人生を謳歌しているに決まっている。こんなクソみたいな女子中学生が誕生するわけが無い。
「1年前にもし、戻れたなら…、好きな人に告白しよう。大好きだったアイス、もう1回食べよう。」
独り言をブツブツと呟きながら、スマホのWeb小説を読み漁る。
「あぁっ、変な広告押しちゃった!」
小さいばつをおそうとした時、その広告を思わず凝視した。
『やり直したい。そんなあなたに1時間だけ!過去に戻れちゃうプレゼント!』
馬鹿げた広告だ。でも、妙にタイミングがいい。これは押さなきゃ損だろう。私は、なんの疑いも無く広告をクリックした。
「…なんも起こらないよね。知ってた。小説の続き読もう。」
その瞬間、息を呑む。
「去年の、今日?」
私は、本当に過去に来てしまったようだ。なんと好都合。そして、丁度今日と言えば、去年の、夏祭りの日。
「いかなくちゃ」
まず、家を出て自転車を高速でこいだ。コンビニで大好きなアイスを買った。嬉しくて口角が上がってしまう。でも、ここで十分ちょっと。夏祭り開始までは、1時間。間に合わない。せめて、告白だけでも。でも、どこにも好きな人が居ない。50分経過。あと10分しかない。そこで、私は最悪の事実に気づく。
「好きな人が死んだのは、一昨年だった」
泣いて、泣いて、泣いた。きっと変に見られたに違いない。
気がついた時、ズボンのポケットの中には、去年の百円玉と、溶けきった去年のアイスが入っていた。
1/23/2023, 9:59:16 AM