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小さい頃は、誰かを救うヒーローになることが夢だった。小学校に上がると、パン屋さんに憧れた。でも結局、ヒーローに憧れたままだった。中学校に上がると、周りは段々と公務員や先生など現実的な夢を見るようになった。私だけ、まだ1人ヒーローを夢みていた。こんな夢を語れば、周りからはきっと、馬鹿なこと言ってないで、現実を見なさい、と言われることだろう。だから私は、本当の夢を語らない。将来の夢の作文も、小学校の道徳の時間の発表も、嘘にまみれた夢を語った。夢を語るのははずかしいことじゃない、と言うけれど、そんなことは無い。一般的な夢を持った人だけがそう言えるのだ。
「俺はヒーローになりたいんだ。仮面ライダーだとか、そういうの。かっこいいだろ!」
「お前、そろそろ現実見ろよ。頭いいのにもったいねぇ。医者とかになればいいんじゃねぇの。」
男子の会話が耳に入ってくる。
「なぁ、お前はどう思うよ。」
「私ですか?」
「そう、お前!」
いきなり会話を振られた。ここは一般人の振りをすべきが同調すべきか…。でも、周りに人はいない。顔も名前も知らないこいつらだけだ。ならば…。
「私も、なりたいんで…。いいんじゃないですか。」
そう言うと、本当に嬉しそうにそいつは喜んでいた。何故か、こっちまで嬉しくなるほどに。
「だよな!!ヒーローになりたいよな!みんなに否定されるからさ。めっちゃ嬉しい!」
「ちぇっ。ヒーロー2号かよ。」
「名前も知らないけどよ、お前、一緒にヒーローになろうぜ!」
わたしは、頷いたあとにすぐに目を逸らした。その笑顔が眩しくて。いわゆる一目惚れだ。私も自分の気持ちに鈍感じゃない。お前は、もうヒーローになっているじゃないか。
「待って、でもお前もうヒーローじゃん!俺の事救ったよ!俺もお前救うわ!期待しといて!」
そして、ヒーローは自転車に乗って去っていった。
さっきまで、ヒーローになる夢を見ていた私は、もう立派なヒーローだ。なんたって、好きな人を救ったのだから!

1/24/2023, 10:12:06 AM