喜村

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6/24/2024, 5:40:15 AM

 汚い大人から三万円をもらった。ただの紙切れ。
 身支度を整えながら、私はその三枚の紙切れをもらった。
 そのまま用済みの建物から私は姿を眩ます。
 朝日がビル群に差し込む。また朝が来た。
 ふらりと24時間営業のコンビニへと入る。
 今日は火曜日、新作のデザートがずらりと並んでいる。
 でか盛りと銘打ったクリームたっぷりのショートケーキ。何も考えずに買い物カゴに入れた。
 家に帰って、一人で添加物マシマシのご飯を電子レンジにも冷えきったまま食べた。

 子どもの頃は、100円玉だけでも高価だった。お札なんて大金だし、万札なんて夢のまた夢だった。
 ケーキなんて、お祝い事でなければ食べれなかった。
 家族みんなで食卓を囲み、お母さんの温かい手料理を食べる。

 子どもの頃と今では、随分と変わってしまったな。
 カーテンを閉めきった薄暗い中、ショートケーキをプラスチックのスプーンですくう。

「ハッピーバースデートゥーミー……」

@ma_su0v0

【子供の頃は】

6/22/2024, 10:20:41 AM

 いつものようにアラームと共に目が覚めて、カーテンを開けて自室を出る。
 お母さんと他愛のない会話をしながらご飯を食べて、身支度をして学校に行く。
 今何の役に立つかも知れない授業を受けて、部活もバイトもしてないので、夕方には家に帰る。
 家に帰れば夕飯を食べてお風呂に入って、ちょっと動画とかをみて寝る。

 その繰り返し、これが私の日常。
 当たり前で平凡な日々。
 学生時代は、ずっとこのままだと思っていたのに。

「え……一家離散……?」

 平凡な日常は、何の前触れもなく、唐突に消え去る。
 例えば、ペットが死んじゃうとか。
例えば、お父さんが不倫してたとか。
例えば、両親が離婚しちゃうとか。
例えば、大災害が起きるとか。
 私の場合は、いきなりの、一家離散宣言だった。
 幸せな日常だったかどうかは、日常が変わるとわかるものである。


@ma_su0v0
【日常】

6/21/2024, 10:33:45 AM

 20年前、子どもの頃、友達に好きな色を聞かれた。
 私は即答で、茶色、と、答えた。

「えー、茶色とか大便じゃーん!」
「きったなーい! 女の子なんだから普通ピンクとかじゃないのー?」

 子どもだから悪気はないのだ。
 純粋無垢な感想は凶器になる。
 茶色の何が汚くて、茶色の何が普通じゃないのだろう。

「茶色好きとか初めて聞いた!」
「私も茶色はきらーい」

 じゃあ二人は何色が好きなのかを聞く私。

「男はレッド! ヒーローの色が好きに決まってるだろ!」
「私はピンクと見せかけてのローズピンクが好き!」

 子どもの頃にそんな話をしていたが、大人になった20年後の現在。
 レッド好きとローズピンク好きの二人は結婚した。
 何故か腐れ縁だった私は、先輩既婚者だからという理由で、二人の新居の家具選びを手伝う羽目になった。
 家具は何色かに統一するか私は問う。

「そりゃ茶色一択でしょ!」
「飽きない色で揃えるなら、茶色って聞くし、茶色で!」

 私は私が傷ついた言葉を忘れていない。
 私の好きな色をバカにした思い出を。
 二人は覚えていないだろうけれども。

「二人とも、茶色が好きになったんだね」

 私は、新婚夫婦に貼り付けた笑顔でそう言った。

@ma_su0v0

【好きな色】

6/21/2024, 12:48:00 AM

 何を悩んでいるの。
悩むより行動したほうが楽でしょう?

 そんな言葉を思い出して、俺は新たな人生をスタートさせようと決断した。

 早朝5時の始発電車に乗り込む。
 何度かの乗り換えの後、10時くらいに君の前に立つ。
 梅雨時期の息苦しさがある空気だ。

「あれ、ハラダじゃん、どうしたの?」

 あなたは俺の姿に気付いた。
 上京した先輩、スーツ姿で会社の受付嬢をしている、優しくて美人な俺の先輩。

「来年、俺、学校卒業するから、結婚してください!」
間髪入れずに頭を下げる
「結婚の予約! 離れたくない!」
「え、仕事中にそれ言われてもなんだけど」

 俺は頭を下げたままなので、あなたの表情はわからないが、声色だけは呆れたものだった。
 しばらくの沈黙の後、下げた頭をあなたはポンポンと撫でる。

「悩んでたから行動してくれたのかな? 分かったよ」

 それから俺の人生は、彩りのあるものとなったのは、言うまでもない。
 あなたがいたから、今の幸せな俺があるのだ。
 雨が上がった空気は、汚れがなく綺麗だった。



【あなたがいたから】

@ma_su0v0

6/19/2024, 11:56:21 AM

 雨の気配を感じて、ボクは家から出た。
 ゆっくりゆっくりと、緑の大きな傘をさしたまま進む。
 緑の大きな傘の中に、君は飛び込んできた。
 君はケロケロとノドを鳴らす。

「こんにちは、カタツムリさん。少しだけ一緒に、この傘の中に入っていいかな?」

 君はボクにそう問うた。
 ボクは目をきょろきょろして答える。

「こんにちは、かえるさん。もちろんですよ、今日の雨は強いですからね。さぁ、もう少し中まで入ってください」

 ボクは、緑の大きな傘の端へと移る。
 梅雨だというのに強く降りしきる雨。
 ボクと君は、しばらく緑の大きな傘で共にいた。

@ma_su0v0


【相合傘】

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