喜村

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7/22/2025, 11:13:36 AM

 手を引かれて家路を辿った夕暮れ時。
 漫画とかでよく描かれるような、段ボールに入った子猫が電柱の横においてあった。
「あ! 猫だ!」
 私が母親の手を払いのけて、可愛い可愛いと子猫を見ていたが、だめ、とまた手を繋がれる。
「猫飼おうよ! この子!」
「だめよ、またいつかね」
 またいつか……いつかは飼ってくれるのだろうか?
 私はその言葉を信じて、その場を後にした。

 次の日は雨だった。
 昨日いたはずの電柱の側には、もう何もなかった。段ボールも跡形もなかった。
 またいつか……会えるかな?



【またいつか】

7/21/2025, 10:28:00 AM

 学年一位に、俺はなった。
 中学三年生の学期末テスト。夏休み目前のテストで、俺は念願の一位になった。

「あーぁ、越されちゃったか~」

 隣に座っているメガネをかけた女子が、彼女自身の成績表をひらつかせて声をかけてきた。

「あんたが一位なんでしょ?」
「なんで?」
「私が二位だから。万年二位だったあんたが上がったってことだよね?」

 彼女は文武両道という言葉がぴったりの完璧ウーマン。要領もよく、才色兼備ときた。
 少し薄い茶色の長髪を肩にかけなおし、ぽつりと一言続ける。

「おめでとう」

 俺は、彼女を追いかけていた。彼女は俺のスターだった。
 彼女に追い付きたくて、追い越したくて、その星に触れたくて。
 俺は無言で立ち上がり、彼女に向き直る。

「……て」
「え? 何?」
「俺と付き合って」

 学力は追い付いたかもしれないが、追い付いた先には次の目標が待っていた。
 この俺の発言への返答次第では、俺はまた星を追いかけていかなければいけない。
 星は輝き、俺に流れ星のようにふってきた。


【星を追いかけて】

7/20/2025, 10:53:34 AM

 一家の大黒柱として生きている俺。
 子どもは三人、大学入試を控えてる息子と高校入試を控えてる息子、今年高校生になった娘。
まだまだお金がかかる時期である。
 母親は介護が必要で同居しているが、幸い寝たきりまではいかない程度。
 妻もパートで働いている。
 いわゆる、裕福ではないものの、一般的な家庭である。

 しかし、不幸というのは突然おきるもので。

 まず、母親の認知症が酷くなった。出歩けるため徘徊も始まり、警察のお世話に何度もなった。
 子ども達がグレ始めて、娘は高校を中退し、息子達も勉強そっちのけでバイクやらで夜も帰らなくなってきた。
 挙げ句、妻の不倫が発覚した。パート先の上司のようだ。全く気付かなかった。

 そして……

「大丈夫ですか!? 今、救急車呼びましたからね!」

 俺は今、信号無視した車に激突された。
 大きく身体が宙を舞い、今俺の身体は原型を止めているのか分からない勢いで地面に叩きつけられた。
 こんな家族の状態、俺の状態でも、生きなくちゃいけないのかね?
 もう、逝ってもいいではないか。
 薄れ行く意識の中、俺は思う。
 今を生きるって、残酷だよな、と。


【今を生きる】

7/19/2025, 8:12:49 PM

 俺には気になっている子がいる。
 俺の家の軒下で育った、可愛い可愛いツバメ達。
 丸々に太って、一匹また一匹と、その巣から飛び立っていった。
 ただ、あと一匹、まだ巣立ててない子がいる。
俺が気になっているのは、その子だ。
 巣の中で翼をバタつかせて、飛ぶ練習をしているのがわかる。
 だが、あと一歩。勇気が足りないらしい。
 
 飛べ……飛ぶんだ……!

 俺は少し離れた所から、その子にそう念を送っていた。
 兄弟達が飛び立って一晩を明かしている。
 もう親たちもこの子に餌付けをしなくなるかもしれない。

 頑張れ……飛べ……!

 兄弟達が飛び立って、また一日が去った。
 電線には、7匹のツバメ達がとまっていた。
ここにいるよと言わんばかりに、翼をバタつかせていた。
 


【飛べ】

7/18/2025, 11:12:05 AM

 煌々と光る建物に、まるで害虫のように近寄る私。
 いつもは手に取らない買い物かごを手に取り、まずはATMへ。
手数料なんてなんのその、有り金全てを引き出した。
 まずは、夕飯のお弁当。明日の朝ご飯の菓子パンも買おう。
 あとはチルドのおしゃれなドリンクに、今日は新作スイーツ発売日だから、デザートも買っちゃおう。
 いつもなら買わないけど、ちょっとタイトルに惹かれた雑誌も買っちゃったり。
 ホットスナックを帰り道に食べながら帰ろう、そうしよう、買おう。

 なんてったって、今日は給料日。
 いつもはコンビニなんてくそ高い場所にはよらないけれど、ATMでお金をおろさなくちゃいけないからね、月に一度の豪遊日なんです。
 そう、金ならいくらでもある日、それが給料日。
 いわば、special dayなんです!

【special day】

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