喜村

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6/22/2024, 10:20:41 AM

 いつものようにアラームと共に目が覚めて、カーテンを開けて自室を出る。
 お母さんと他愛のない会話をしながらご飯を食べて、身支度をして学校に行く。
 今何の役に立つかも知れない授業を受けて、部活もバイトもしてないので、夕方には家に帰る。
 家に帰れば夕飯を食べてお風呂に入って、ちょっと動画とかをみて寝る。

 その繰り返し、これが私の日常。
 当たり前で平凡な日々。
 学生時代は、ずっとこのままだと思っていたのに。

「え……一家離散……?」

 平凡な日常は、何の前触れもなく、唐突に消え去る。
 例えば、ペットが死んじゃうとか。
例えば、お父さんが不倫してたとか。
例えば、両親が離婚しちゃうとか。
例えば、大災害が起きるとか。
 私の場合は、いきなりの、一家離散宣言だった。
 幸せな日常だったかどうかは、日常が変わるとわかるものである。


@ma_su0v0
【日常】

6/21/2024, 10:33:45 AM

 20年前、子どもの頃、友達に好きな色を聞かれた。
 私は即答で、茶色、と、答えた。

「えー、茶色とか大便じゃーん!」
「きったなーい! 女の子なんだから普通ピンクとかじゃないのー?」

 子どもだから悪気はないのだ。
 純粋無垢な感想は凶器になる。
 茶色の何が汚くて、茶色の何が普通じゃないのだろう。

「茶色好きとか初めて聞いた!」
「私も茶色はきらーい」

 じゃあ二人は何色が好きなのかを聞く私。

「男はレッド! ヒーローの色が好きに決まってるだろ!」
「私はピンクと見せかけてのローズピンクが好き!」

 子どもの頃にそんな話をしていたが、大人になった20年後の現在。
 レッド好きとローズピンク好きの二人は結婚した。
 何故か腐れ縁だった私は、先輩既婚者だからという理由で、二人の新居の家具選びを手伝う羽目になった。
 家具は何色かに統一するか私は問う。

「そりゃ茶色一択でしょ!」
「飽きない色で揃えるなら、茶色って聞くし、茶色で!」

 私は私が傷ついた言葉を忘れていない。
 私の好きな色をバカにした思い出を。
 二人は覚えていないだろうけれども。

「二人とも、茶色が好きになったんだね」

 私は、新婚夫婦に貼り付けた笑顔でそう言った。

@ma_su0v0

【好きな色】

6/21/2024, 12:48:00 AM

 何を悩んでいるの。
悩むより行動したほうが楽でしょう?

 そんな言葉を思い出して、俺は新たな人生をスタートさせようと決断した。

 早朝5時の始発電車に乗り込む。
 何度かの乗り換えの後、10時くらいに君の前に立つ。
 梅雨時期の息苦しさがある空気だ。

「あれ、ハラダじゃん、どうしたの?」

 あなたは俺の姿に気付いた。
 上京した先輩、スーツ姿で会社の受付嬢をしている、優しくて美人な俺の先輩。

「来年、俺、学校卒業するから、結婚してください!」
間髪入れずに頭を下げる
「結婚の予約! 離れたくない!」
「え、仕事中にそれ言われてもなんだけど」

 俺は頭を下げたままなので、あなたの表情はわからないが、声色だけは呆れたものだった。
 しばらくの沈黙の後、下げた頭をあなたはポンポンと撫でる。

「悩んでたから行動してくれたのかな? 分かったよ」

 それから俺の人生は、彩りのあるものとなったのは、言うまでもない。
 あなたがいたから、今の幸せな俺があるのだ。
 雨が上がった空気は、汚れがなく綺麗だった。



【あなたがいたから】

@ma_su0v0

6/19/2024, 11:56:21 AM

 雨の気配を感じて、ボクは家から出た。
 ゆっくりゆっくりと、緑の大きな傘をさしたまま進む。
 緑の大きな傘の中に、君は飛び込んできた。
 君はケロケロとノドを鳴らす。

「こんにちは、カタツムリさん。少しだけ一緒に、この傘の中に入っていいかな?」

 君はボクにそう問うた。
 ボクは目をきょろきょろして答える。

「こんにちは、かえるさん。もちろんですよ、今日の雨は強いですからね。さぁ、もう少し中まで入ってください」

 ボクは、緑の大きな傘の端へと移る。
 梅雨だというのに強く降りしきる雨。
 ボクと君は、しばらく緑の大きな傘で共にいた。

@ma_su0v0


【相合傘】

6/19/2024, 9:00:49 AM

 息苦しさで目が覚めた。
 何やら身体は、じっとりと湿っている。そんなに私は汗をかいたのだろうか。
 しかし、その異様なまでの暑さと呼吸のしづらさで、それではないと理解した。
 アラームではない、けたたましい音も聞こえる。

--これは、火事ではないか!?

 働かない頭でも、本能でそう理解できるくらいに、状況がいつもと違っていた。
 ここは高層マンション。私の部屋は12階。
 火元がどこかもわからないが、窓からは赤とオレンジと黄色の炎の色と真っ黒な煙が目視できた。
 意を決して窓を開ける。窓ガラスは素手で触れたものではなく、カーテンと共にあけた。

 熱い。ただただ、熱い。
 息を吸うだけで肺が焼かれているのではないかと思う程に。
 このままでは、すぐにこの部屋も燃えてしまうだろう。

--逃げなければ……!!

 そう考えてからは早かった。
 何も考えてはいなかった。
 ここは、12階だが、死ぬ高さではないと錯覚していた。

 涼しい。
 熱さからの解放は、これほどまでも清々しいのか。
 助かった、これで焼け死ぬことはないだろう。
 私は、ただただ下へと落下した。
 下へと辿り着く前に、私はまた意識を失った。

@ma_su0v0





【落下】

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