もうすぐ俺の時間がくる。
俺は所謂、吸血鬼というもので、陽がのぼっている時間帯は外を出歩くなんてことはできない。
目が潰れるとかの話ではなく、大火傷とかの話でもなく、本当に存在できなくなるのだ。
目の前で消えていった友人を何体も見送った。
沈み行く夕日を屋敷の真っ暗な空間のカーテンの隙間から溢れでている一筋の紅い光で確認する。
明るいうちの外はどんな姿なのだろう。
始まりを告げる朝焼けは?
静寂を告げる夕日は?
陽とは無縁の俺ではあるが興味がない訳ではない。
でもその興味や好奇心は、消えるほどに値するのだろうか。
俺は細くなって行く夕日の筋を見ながら、ぼんやりそんなことを思った。
沈む夕日、始まる俺の時間、今日もまた夜の帳がおりる。
【沈む夕日】
人の目をみていると、なんだか色々と気になって疲れる。
目が笑ってないな、とか、すごく嫌そうなんだな、とか、なんだか疲れてるんだろうな、とか。
それでお伺いを立てるのは更に億劫で。
でも、君の純粋無垢な目を見つめると、そういうことがどうでもよくなってくる。
今日は上司の機嫌が悪いみたい、今日は部下の疲れがピークみたい、でも家に帰って、透き通った君の目を見つめて癒される。
同じ動物なのに、どうしてこうも違うのかな?
今日も仕事が疲れたな。
早く帰って君の目を見つめよう。
【君の目を見つめると】
春は夜に外出するに限る。
若干寒いが、花粉症の私からすると、夜の時間帯のほうがまだマシだ。
花粉がゼロになる訳ではないので、マスクとティッシュは必需品ではあるが。
夜桜なんて洒落たものもいいが、私はただなんとなく田舎道を歩く。
街灯で照らされた寂れた町並みには目もくれず、少し花粉ではれぼったい目で空を見上げる。
お一人様だからできる、夜空を見ながらのあてのないお散歩。
もし彼氏がいたら、こんな夜にぷらぷら外を出歩くなんてできない、子どもや親がいたら尚更だ。
余計な光がないと星空は眩しいくらいに輝いていて、自分はその空間に飲み込まれそうになって。歩きスマホよりも危ない時もたまにあるくらい夢中になれる。
星空の下でのこのお散歩は、あと何回くらいできるのだろう。親からすれば早く落ち着いてほしいところだろうけれども。
さて、そろそろ帰ろうか。
私は家路をたどった。
【星空の下で】
思い詰めている君を見ると思う。
もう、それでいいじゃないか、と。
俺が急死してしまい、子どもを一人で育てなければいけない重圧と、これからどうしたらいいかわからない不安に押し潰されそうな君。
なんとかしなければ、と、もがいている姿を毎日見ていた。
声はでないし、体にも触れられないけれど、仏壇の前ですすり泣き弱音を吐く君をいつも励ましていた。
もう頑張らなくていいじゃないか、なんて言ったら他人事のようかも知れないが、死んだ身からすれば、毎日不安事を聞かされ続けて、成仏したくても気になって成仏しきれないのだ。
お前はお前のままでいい。
そのままでいい、それでいいんだ。
泣いている彼女の傍らに寄り添って、聞こえてはいないだろうが、俺は慰めた。
すると、遠くにいた愛娘のノドカが、俺を見つめ、次に仏壇の前で正座をしてすすり泣く彼女の頭を背伸びしてなででやる。
「……ノドカ、起きてたの?」
「パパの声が聞こえたから!」
俺と彼女は、二人同時に、え?、と口走る。
「それでいいんだよね?」
ノドカは、きっと、彼女には見えていない俺に問いかける。
俺は泣きそうな顔で一つ頷いた。
【それでいい】
※【ずっと隣で】の続き
あたりは消毒された匂いで充満していた。あたりは白色で埋め尽くされている。
首だけを小さく動かすと、色々な管が張り巡らしてある。どれがなんの管だかわからない。
私はどうしたんだっけ、今日はいつだっけ、今どういう状態なんだろう。
声はでない、口が半開きになって呼吸は管でできているようだ。痛いの感覚もよくわからなくなっていた。
もう、長くもないのかな。
死に急ぎい訳でもないけど、生きててもずっとこのままなのも、それこそ何のために生きているのかわからない。
治療をするためのお金ももうないのではなかろうか。
死に際だから一つだけ、最期に一つだけ、お願いができるとすれば、自由に動きたいな。
ご飯を食べたり、寝返りがうてたり、外を駆け回ったり、歌を歌ったり、自由に、動きたいな。
目を閉じたら、もう開く気力も体力もなくなりそうで、ぼんやりしたまま私はただ白い天井みていた。
【1つだけ】