喜村

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 思い詰めている君を見ると思う。
もう、それでいいじゃないか、と。

 俺が急死してしまい、子どもを一人で育てなければいけない重圧と、これからどうしたらいいかわからない不安に押し潰されそうな君。
 なんとかしなければ、と、もがいている姿を毎日見ていた。
声はでないし、体にも触れられないけれど、仏壇の前ですすり泣き弱音を吐く君をいつも励ましていた。
 もう頑張らなくていいじゃないか、なんて言ったら他人事のようかも知れないが、死んだ身からすれば、毎日不安事を聞かされ続けて、成仏したくても気になって成仏しきれないのだ。

 お前はお前のままでいい。
そのままでいい、それでいいんだ。

 泣いている彼女の傍らに寄り添って、聞こえてはいないだろうが、俺は慰めた。
 すると、遠くにいた愛娘のノドカが、俺を見つめ、次に仏壇の前で正座をしてすすり泣く彼女の頭を背伸びしてなででやる。
「……ノドカ、起きてたの?」
「パパの声が聞こえたから!」
 俺と彼女は、二人同時に、え?、と口走る。
「それでいいんだよね?」
 ノドカは、きっと、彼女には見えていない俺に問いかける。
 俺は泣きそうな顔で一つ頷いた。


【それでいい】
※【ずっと隣で】の続き

4/4/2023, 12:56:14 PM