喜村

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2/13/2023, 12:05:28 PM

 空が真っ赤に燃えていた。きっともうすぐ日が沈む。
 スマートフォンを片手に彼女は駅前の像の前で誰かを待っていた。時刻を見ると夕方五時と表示されている。
「ごめーん、ミナ待った?」
 駅口から、急いだ様子で制服姿のショートヘア女子が走ってくる。手には紙袋が二つ、中身は大量のチョコレートとラッピング用品が見てとれる。
「全然。それよりユウカちゃんから一緒にチョコ作ろうって言われたから何事かと思ったよ」
 ミナは駆け寄ってきたユウカから袋の片方を受け取り、歩みを進めた。
「えへへ、実は最近、恋人ができまして」
 照れ臭そうにユウカは口を開く。夕日のせいか、照れてるせいか、彼女の顔は赤かった。
「そうなの!? おめでとう! だからチョコ作りするのかぁ!」
「ミナも好きな人いるんでしょ?」
 歩きながら目をそらすミナ。ぎこちなく、うん、と伝える。
「僕から告白してオッケーもらったんだ、ミナも待ってるだけじゃなくて、自分からアタックしてみたら?、と、思って誘ってみました」
 ユウカは、へへ、と笑って見せたが
「そう言って、お菓子作りとか未経験だから失敗しないように、ベテランのあたしに声かけたんでしょ?」
 今度はユウカの方が、ぎくりとなり、頷く。ユウカは男勝りで、料理やメイクなどの女っ気がないようだ。
全くもう、と言わんばかりにミナはため息をついたが、彼女は輝く夕日をみて、何かを決めたらしい。
(待っててね、先輩)

【待ってて】
※【伝えたい】の前の話、【この場所で】の後日談

2/13/2023, 2:27:27 AM

「ねぇ、あんたにお願いがあるんだけど」
 バレンタインデー前日、俺はクラスの女子兼幼稚園の頃からの幼なじみのミナに声をかけられた。
いつもツンツンしている子だが、今日は明らかにツンにプラスしてもじもじが追加されている。
「なに?」
「あんたの部活の先輩、二年生のウエダ先輩……あの人に、明日、バレンタインデーのチョコ、渡してくれない……?」
 そんなことだろうと思った。
 窓際の席の俺は、小さくため息をついて頬杖をつく。
外はあいにくの雨。雪ではなく、雨粒が窓を伝っていた。
「やっぱりだめ、かな……お、お礼として、あんたの分のチョコもあげるから!」
 そういう話の問題ではない。

 俺は先日、その本人、ウエダ先輩から相談を持ちかけられていたのだ。
「お前のクラスのミナちゃん? だっけ? あの子、最近……」

 伝えたいけど、伝えたらミナは--

「渡すだけ?」
「う、うん! その他諸々はメッセージカードに書いとくから、ただ渡すだけ! 私からってことも言わずに、ただ渡すだけ!!」
「それだと、なんか俺がウエダ先輩に逆友チョコ渡してるみたいなんだが」
 あう、と、ミナは固まった。
「じゃ、じゃあ、クラスの女子から、ウエダ先輩に、って」
「はーい」

 本当のことは、今日のところは伝えないでおこう。
 俺は可愛くラッピングされたチョコを託され、それをぼんやりと見つめた。
 伝えるのは、チョコを先輩に渡して、どうだった!?、とか聞かれた時の方が精神衛生的にもあってるだろうし。
 外は冷たい雨が降りしきっていた。


【伝えたい】

2/11/2023, 12:00:03 PM

 雪が本格的に降る2月。私は学校の屋上にいた。
 冬の学校はとても寒く--それは暖房施設が整っていないからではなく、こんな真冬にトイレに入ってる最中に水を頭からかけられたからでもある。

 もう死んでやりたい。

 雪が静かに待っていた。ほろりほろりと地面に向かって降りていく。
私も一緒に……と、屋上の手すりに手をかけ、足もかけようとした時だった。
「ワタナベさん何してるの!?」
 後ろから、最近私を気にかけてくれる、ユウカちゃんが叫んだ。
足は地面に戻す。手は手すりを掴んだまま。やけに手すりが冷たく感じた。
「あの……落ちようかなっ、て」
 正直に答えると、ユウカちゃんは走ってきた。そして、辺りに渇いた音が響く。
「……い、たい……」
 ぶたれた、ユウカちゃんに。
あぁ、そうか、ユウカちゃんも結局、そっち側の人間……
「そんなことしたら、僕はどうなるの!?」
「え?」
 ユウカちゃんはぼろぼろと泣いていた。
「ワタナベさんは、僕の初めての……!」
 ユウカちゃんは最後まで言いきれず、その場に座り込んでわんわん泣き始める。
「えっと……ユウカ、ちゃん……?」
「僕、ぼ、くは、ワタナベさんのっことが、好きなんだ」
 雪が降っているのに薄日がさしていた。
 えぐえぐとユウカちゃんは泣いているが、聞き間違えじゃなければ……
「でも、私たち、女の子同士だよ?」
「だから、だめ……? だから、今までっ隠して、て……」
 私はしゃがみこんで、泣きじゃくった彼女を抱きしめた。濡れた制服に濡れた頬があたる。

 学校なんて嫌いだ、いじめられるから。
でも、この場所で、新しい物語が始まった瞬間。
「ありがとう。私もユウカちゃん、好き」


【この場所で】
※【Kiss】の続き(時系列的には過去話)

2/10/2023, 10:54:39 AM

 生きたい。
誰もがみんな、そう思っていると思う?
 生にしがみつくことを醜く思う人もいるであろう。
 死にたがりの人もいるであろう。

 病に伏している人を見て、誰もがみんな、生きて、と、頑張れ、と応援する。
当の本人は、頑張ってまでこの病と戦うことをよしとするであろうか。
諦めて楽に逝かせてと願っているのに、生きろ頑張れと応援するなんとも身勝手な行為。
 管だらけの自分をみて、そこまでしてでも生きなくてはいけないのだろうか。
そこまでして生にしがみついて、その後、どんな暮らしがあると言うのであろう。
 痛い思いをして手術をして、辛い思いをしてリハビリや治療にあたる。そしてまわりは、生きろ頑張れと囃し立てる。

 誰もがみんな、生きたい訳ではない。

【誰もがみんな】

2/9/2023, 10:21:47 AM

 街はバレンタインデームード一色だ。
私は料理が得意ではない、むしろ壊滅的にできない。
すれ違う女の子はチョコレートを買いに、デパートやコンビニ、スーパーへと吸い込まれていく。
 一応、私にも彼氏ができた。まだ付き合って半年くらいである。
イベントごとなので、作ってあげたい気持ちはあるが、気持ちと実力が毎度伴わない。
 彼氏と並んで歩いているにも関わらず、私はため息をついてしまった。
「どうしたの?」
 気がついた彼氏が問う。
なんでもないふりを取り繕ったが、私の目線はお菓子やさんのショーウィンドウに向いていたようだ。
「あー、言ってなかったけど、俺、甘いもの苦手なんだよね」
「そうなの!?」
 思わず私は叫んだ。
「うん、バレンタインデーでチョコレートとか貰っても全部親にあげてたし」
 私を気遣っての嘘か本当かはわからないけれど、私は、ならば!、とバレンタインデーのチョコにかわるものを思いついた。
 花束なんてどうだろう。
 ドライフラワーとかもおしゃれでよさそうだけど、ちょっと寒そうで寂しげなので、温感色の花束。
バレンタインデーだから、赤やピンクとかの花ばなで。うん、そうしよう!
 一人納得した私をみて、彼氏は不思議そうにしていた。


【花束】

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