喜村

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 雪が本格的に降る2月。私は学校の屋上にいた。
 冬の学校はとても寒く--それは暖房施設が整っていないからではなく、こんな真冬にトイレに入ってる最中に水を頭からかけられたからでもある。

 もう死んでやりたい。

 雪が静かに待っていた。ほろりほろりと地面に向かって降りていく。
私も一緒に……と、屋上の手すりに手をかけ、足もかけようとした時だった。
「ワタナベさん何してるの!?」
 後ろから、最近私を気にかけてくれる、ユウカちゃんが叫んだ。
足は地面に戻す。手は手すりを掴んだまま。やけに手すりが冷たく感じた。
「あの……落ちようかなっ、て」
 正直に答えると、ユウカちゃんは走ってきた。そして、辺りに渇いた音が響く。
「……い、たい……」
 ぶたれた、ユウカちゃんに。
あぁ、そうか、ユウカちゃんも結局、そっち側の人間……
「そんなことしたら、僕はどうなるの!?」
「え?」
 ユウカちゃんはぼろぼろと泣いていた。
「ワタナベさんは、僕の初めての……!」
 ユウカちゃんは最後まで言いきれず、その場に座り込んでわんわん泣き始める。
「えっと……ユウカ、ちゃん……?」
「僕、ぼ、くは、ワタナベさんのっことが、好きなんだ」
 雪が降っているのに薄日がさしていた。
 えぐえぐとユウカちゃんは泣いているが、聞き間違えじゃなければ……
「でも、私たち、女の子同士だよ?」
「だから、だめ……? だから、今までっ隠して、て……」
 私はしゃがみこんで、泣きじゃくった彼女を抱きしめた。濡れた制服に濡れた頬があたる。

 学校なんて嫌いだ、いじめられるから。
でも、この場所で、新しい物語が始まった瞬間。
「ありがとう。私もユウカちゃん、好き」


【この場所で】
※【Kiss】の続き(時系列的には過去話)

2/11/2023, 12:00:03 PM