星乃威月

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7/20/2025, 9:22:37 AM

真夏の炎天下、砂のグラウンド

空は晴れ渡って、日陰が全くない

砂地の陽炎がユラユラと揺らめく


周りは大勢の観客に囲まれ

ザワザワと音が反響して聞こえた


至るところから、期待の視線が突き刺さる

足にも、熱が伝わる


熱い風が吹き付け、砂煙が立ち込めている

乾いた砂の匂いが、鼻を刺す

肌がヒリヒリして、汗でじっとり濡れる


目指すは、世界一の空

練習の時から愛用している棒

相棒を握り締めて、世界の天辺を目指すんだ


観客のざわめきが聞こえる

大勢の歓声が、次第に湧き上がる

手拍子が重なってゆく──


「行け!マナト!やったれー‼」


大声で叫ぶ、父の声がする

キラリと涙を流した母の思いを感じる


「世界を、取れー‼」


息を飲み、手を握り締めた観客

感極まった声が永遠に響き渡る

観客たちの思いに、胸が燃え、背中を押された


天高くそびえ立つ棒を越えれば、世界一

観客の期待に応えるため、家族の支援に応えるため

自身の栄光を塗り替えるため──!

意識を切り替え、一点集中に徹した


心臓が高鳴り、体全体に力が漲る


『飛べ!飛べ!飛べ!飛べっ‼』


棒を高々と掲げ、世界一の空を見上げた


「スタート……」


合図と共に、天へと向かって駆け出した


『走れ!足を、もっと速く!

 胸を突き出して、天に向かって!』


目の前の天高く聳える棒に向かって

俺は全速力で走り抜けた


『行け、行けっ、行け!行けっ‼』


勢い良く地面に棒を突き刺す

握り締めた棒をしならせ、体を捻らせる


『飛べ、飛べ、飛べ!飛べっ‼』


空高く掲げられた棒に、体が届いた


『越えろ、越えろ、越えろ!越えろっ‼』


どうなったのだろう……?

俺は、いったい、何をしてたんだ……?

確か……遥か高く、遠い空を、目指して

懸命に、懸命に、練習してきた……


──あれ……?

その後、どうしたんだっけ?


頭がボーッとする

思考が回らない

この暑さのせいなのか、疲れのせいなのか……

意識が遥か彼方へ持って行かれたかのよう


気が遠くなる、体が軽くなる

まるで、全身の力が抜けたかのような感覚

羽が生えて、空を飛んでいるかのような感覚に襲われた


遥か彼方で、誰かが呼んでいるのか……?


緩やかに、羽が生えたかのように、宙を舞っている

暫くの間、空高く、体がフワリと浮かんでいるようだった




ー飛べー

7/18/2025, 1:17:37 PM

今日は、大売り出し

全ての商品が半額以下で買える

貴重な一日だ


「なぜ、こんなに安い?」

「これが、この値段で⁉」


歓喜の声が

あちらでも、こちらでも、湧き起こる


「今の内に、買溜めしなきゃ~」


店内中を駆け回るから、大忙し

あれが足りない、これはまだ

頭の中も、大忙し


売り尽くしセール

年に数回あれば良いのに

なかなか無い機会だから

貴重な体験だ


『今度は、何を買おう……』


買えば買うほど、夢が膨らむ

財布の底は、尽きかけてるが

『もっと、もっと』という意欲は、尽きない


衝動買い──

この感覚に陥ったら最後

お金が尽きても、また買いたいだろうな……




ーspecial day ー

7/18/2025, 8:12:53 AM

炎天下

ソヨソヨと日差し遮る木々の下、葉が靡く

涼しい風がそよいで、優しく肌を撫でた

赤く火照った体

徐々に羽のように軽くなる


ここは天国か?


羽が映えたように安らぐ

自然と一体になれた気がした


幸せだ

◇─◇─◇

ジージー、ジージー……

微かに聞こえる、懸命に鳴く蝉の声

コンコン、コンコン……

永遠と湧き出る、清らかな湧水

サラサラ、ソヨソヨ……

草木を撫で流れる、小川のせせらぎ


目を閉じれば、木々が生い茂る森の中

大自然の中に居るかのようだ


小鳥の囀りは、もはや子守唄か?

◇─◇─◇

青々と生い茂る深緑の葉の隙間

燦々と降り注ぐ真夏の太陽

光に照らされ、目が眩む


夏空を背景に、青々と映える入道雲

上は天使のように真っ白なのに

下は灰色かかっている

天まで届きそうな、大きな大きな入道雲

既に下の方では

今にも雨が降り出していそうだ


あれは、大きな巨人兵か鬼か?


天の使いかのように、雄大と流れゆく

◇─◇─◇

頭上は、雲ひとつない晴れた空

暫し時を忘れる

ゆっくり、ゆっくり……と


この一時が

この自然溢れる眺めと景色が

この場所が

永遠に続けばいいのに……と

切に願えてならないのだ


けれど……

月日は巡り、季節も巡る

時代と共に、人工物へと移り変わる


どんなに願っても

幼き頃に見てた景色は

もう、二度と手に入らない……


分かってる

分かっていながら

昔の純粋だった景色や心を切に求め

心の拠り所にしてしまうのだ

◇─◇─◇

もう、変わらないでいてほしい……


抱いた気持ちは

未だに拭いきれはしない


このまま、時が止まればいいのに……


唯一昔に思い馳せられる場所

心の拠り所となる自然は

今もこのまま

永遠に残っていてほしい……


天を仰いで、まだ見えぬ星へと切に願った


大自然溢れるこの地球を

このまま守っていてくれ……と




ー揺れる木陰ー

7/17/2025, 9:42:49 AM

『今週は、多忙だったからな……
 たまには、ご褒美として、奮発もいいかな』


外に出れば、暖かな風が肌を擦る

街を歩めば、ザワザワと聞こえてくる音が、なんだか心地良い

祝日の賑わいの中、昼間の喫茶店は、様々な客層で大にぎわいだ

おもむろに店内へ

◇─◇─◇

コーヒーの温かな香りが鼻を掠め、ウツラウツラと目が霞む

順番が来て、目当ての品を注文した


「お持ち帰りですか?」

「いえ、店内で」

「空いてるお席へ、どーぞ」


店員の優しい心遣いは、注文を終えたばかりで緊張した心を、ホッと和らげてくれる

案内され、誘導されるがままに進む

どこもかしこも、人で混雑していた

本当に席は空いているのだろうか?

◇─◇─◇


「こちらへ、どーぞ」


やっと空いてる席を見つけた

こんなに混雑している中、親切に誘導してくれる店員には、感謝の気持ちでいっぱいになる


「有難う」

「いえいえ、どういたしまして」


その一言に、安心感が広がる

まるで、暖かな毛布に包まれたような心地よさを感じられた

店員は、ニコッと微笑み返す

この瞬間、心がほっこりした


「あなたの心優しさに、胸を打たれました
 本当に有難う」


感謝を述べると、店員は再びニコッと微笑みを返した


「いえいえ
 では、ごゆっくり」


店員はペコリと頭を下げると、忙しそうに去っていった

◇─◇─◇

通された席は、個室になっていた

ゆっくりと席に近づく

腰を据え、おもむろに商品を口にした

今日はホワイトモカ

香ばしくほろ苦い味わいに、この引き立つ甘さが、疲れた体に染み渡る


「はぁ~」


この瞬間が、なんとも堪らない


お気に入りのホワイトモカを片手に、窓から写る山々の景色を堪能する

青々とした山々が、光を受けてキラキラと輝き、その奥には静かな湖が広がってる様子が目に映る

薄雲を背にして静かに佇み、光が当たって色とりどりに輝いていた

この忙しい日常の中で、こうした瞬間がどれだけ重要か……


今日は晴天

午後もひときわ暑くなりそうだ

蝉の声が微かに聞こえ、夏の訪れを懐かしいメロディのように響いている

座席の温もりが、まるで夢の中へと誘われるかのようだ


『あぁ、これが、夢見心地という物か
 徐々に身体が軽くなり、心地よい風が頬を撫で、まるで空に浮いてるかのような感覚に、心が満たされてゆく
 この瞬間が、永遠に続けばいいのに……』


◇─◇─◇

周りの喧騒が徐々に遠ざかり、静寂が次第に包み込む

現実世界が薄れてきて、まるで夢の中にいるかような感覚が広がった

暫しの間、夢の中に誘われた

夢の世界には、まるで自分だけの時空のように、時が静かに流れてく感覚が漂っている

ゆっくりと時が流れるかのように、心がスッと解放されていった

◇─◇─◇

次の週末を思い描くと、心が踊り、嬉しさが込み上げてきて、体中が幸せに満たされる

その時、胸が高鳴り、顔に自然と笑みがこぼれた


『今度は、家族を連れて来よう
 ここから見える青々とした山々の眺めの良さと、香ばしい香りのするコーヒーの旨さに、きっと、嬉しがるはず!
 きっと、大喜びするぞ!
 その笑顔を思い浮かべるだけで、既にワクワクが止まらない!
 想像するだけで、次の週末が、まるで夢のように待ち遠しいな……』




ー真昼の夢ー

7/15/2025, 12:09:54 PM

「ここ、覚えてますか?
 君と歩いた細道
 この先に、何があるのかも……」


突然現れた少年は、不気味な笑みを浮かべながら、飄々と道を先導する


「ここへ来たのは、初めてな気が……
 考えても、思い付きません……」


腕を組み、首をかしげながら考え込み歩くが、思い当たる景色は思い出せなかった

それでも少年は、浮かべた笑みを崩さない
とても嬉しそうに、俺の行く先を先導するのだ


徐々に真っ黒なトンネルが現れた
時は夕暮れ、そろそろ日が落ちても可笑しくはない時間


「そろそろ帰らないと、家族に心配される
 だから……」


と、帰ろうとする俺の手を少年は引き留め、トンネルの中へと誘った



「まぁまぁ、冗談はさておいて、ここにお座り下さいよ」


トンネルを抜けると、そこには一本の切り株が、ひっそりと佇んでいる
言われるがまま、俺はそこに座った


「見てくださいよ
 この景色、この風景、この光景を!」


目線の先の丘の下
そこには、大量の黄緑の光が、右往左往、縦横無尽に飛び交っていた

俺は、目を見開いて驚いた


「これって‼」


少年は『引っ掛かったか?』とでも思える苦笑で、笑って見せた


「フ、フ、フ、フッ
 やっと、思い出せましたか?
 そうです、ホタルです!
 夏の風物詩の、あのホタルですよ‼」

「だから、場所を思い出せなかったのか……」


やっと思い出した

夏の夜、真っ暗闇の森の中
まだ幼い頃、一人で虫取に夢中になってた俺は、迷子になって暗闇の中をさ迷い歩いていた

そんな時に、泣きじゃくってた俺を、少年は引き留め、慰めてくれた



「大丈夫ですか?
 お怪我は、ありませんか?
 心細いのなら、私と来て下さいませんか?」


今と変わらぬ口調で、少年は俺の手を引いて、ここへ連れて来てくれたのだ



「覚えてる!覚えてるとも‼
 俺が泣きじゃくってた時に、初めてホタルを見せてくれた!
 あの時の君か⁉」


俺は嬉しくなり、満面の笑みを浮かべ、少年に抱きつき、嬉しくて嬉しくて、泣きじゃくった
もう、会えないと思っていた少年と、今、こうして再会できたのだから


「本当に有難う!
 こうして、再びホタルを見せてくれたこと
 君に出会えたこと!
 俺は、一生忘れない‼」



その後、知ったことだが……
森の精霊だと思い込んでいた少年は、ここの敷地に住む社の後継者だと知った
時折見回っては、不備がないか?と、確認し歩いていたらしい……
そこへ、たまたま俺の姿を見かけたからと、声をかけたと言うのだ
なんとも情けない話である

だが、恐ろしい思い出から、良い思い出に変えることが出来たのだから、今となっては良い話



「また、会えるといいな
 今度は、俺が誘いたい!」


と、満面の笑みで言い残して




ー二人だけの。ー

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