星乃威月

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「ここ、覚えてますか?
 君と歩いた細道
 この先に、何があるのかも……」


突然現れた少年は、不気味な笑みを浮かべながら、飄々と道を先導する


「ここへ来たのは、初めてな気が……
 考えても、思い付きません……」


腕を組み、首をかしげながら考え込み歩くが、思い当たる景色は思い出せなかった

それでも少年は、浮かべた笑みを崩さない
とても嬉しそうに、俺の行く先を先導するのだ


徐々に真っ黒なトンネルが現れた
時は夕暮れ、そろそろ日が落ちても可笑しくはない時間


「そろそろ帰らないと、家族に心配される
 だから……」


と、帰ろうとする俺の手を少年は引き留め、トンネルの中へと誘った



「まぁまぁ、冗談はさておいて、ここにお座り下さいよ」


トンネルを抜けると、そこには一本の切り株が、ひっそりと佇んでいる
言われるがまま、俺はそこに座った


「見てくださいよ
 この景色、この風景、この光景を!」


目線の先の丘の下
そこには、大量の黄緑の光が、右往左往、縦横無尽に飛び交っていた

俺は、目を見開いて驚いた


「これって‼」


少年は『引っ掛かったか?』とでも思える苦笑で、笑って見せた


「フ、フ、フ、フッ
 やっと、思い出せましたか?
 そうです、ホタルです!
 夏の風物詩の、あのホタルですよ‼」

「だから、場所を思い出せなかったのか……」


やっと思い出した

夏の夜、真っ暗闇の森の中
まだ幼い頃、一人で虫取に夢中になってた俺は、迷子になって暗闇の中をさ迷い歩いていた

そんな時に、泣きじゃくってた俺を、少年は引き留め、慰めてくれた



「大丈夫ですか?
 お怪我は、ありませんか?
 心細いのなら、私と来て下さいませんか?」


今と変わらぬ口調で、少年は俺の手を引いて、ここへ連れて来てくれたのだ



「覚えてる!覚えてるとも‼
 俺が泣きじゃくってた時に、初めてホタルを見せてくれた!
 あの時の君か⁉」


俺は嬉しくなり、満面の笑みを浮かべ、少年に抱きつき、嬉しくて嬉しくて、泣きじゃくった
もう、会えないと思っていた少年と、今、こうして再会できたのだから


「本当に有難う!
 こうして、再びホタルを見せてくれたこと
 君に出会えたこと!
 俺は、一生忘れない‼」



その後、知ったことだが……
森の精霊だと思い込んでいた少年は、ここの敷地に住む社の後継者だと知った
時折見回っては、不備がないか?と、確認し歩いていたらしい……
そこへ、たまたま俺の姿を見かけたからと、声をかけたと言うのだ
なんとも情けない話である

だが、恐ろしい思い出から、良い思い出に変えることが出来たのだから、今となっては良い話



「また、会えるといいな
 今度は、俺が誘いたい!」


と、満面の笑みで言い残して




ー二人だけの。ー

7/15/2025, 12:09:54 PM