晴天の空、エメラルドブルーの青い海
打ち寄せる白波、肌色の砂浜
足を踏み入れれば、パシャパシャと水しぶきが舞う
麦わら帽子を片手に、耳を澄ませば
ザー、ザバァー、と、寄せては返す波の音
暑い暑い真夏は、まだ先
真っ白なワンピースのスカートが、ヒラリと舞い
涼しげな風が、耳を擦る
このまま、時が止まればいいのに……と
寄せては返すさざ波に、しばらく耳を澄ますのだった
ー波音に耳を澄ませてー
雨の匂いがする
どこかで降っているのだろうか
暖かで湿った匂い
ー夏の匂いー
そよぐ風に、カーテンが揺れる
きっとそれは、エアコンのせい
真夏の時期なんて
虫が入ってくるから
窓を開けようとも思わない
カーテンがそよぐのは
春から夏、秋から冬にかけて
清々しい風が入ればいいのに
ここ最近は猛暑ばかりだよ
真夏の暑さは、カーテンも遮れなくて
ーカーテンー
どこまでも深く、どこまでも青い地へ
どこまでも、どこまでも続く、果てしない深海へ
真夏の夜、月明かりの下
どこまでも、どこまでも、沈んでゆく
これは、現実なのか、夢なのか……
分からない、分からないけれど、心地良い
このまま、どこか遠い世界へ行けそうで……
◇─◇─◇
目覚めると、月明かりの下
びしょ濡れのまま、横たわっていた
「おい!大丈夫か?しっかりしろ!」
ボーッとした意識の中、誰かの声がこだまする
「こ、ここは……」
「海岸だ、海に落ちたんだよ 奇跡的に助かったがな」
「どういう……意味?」
「船が沈んだ 済まない、助けられなかった」
船……?助けられなかった……?
頭の中を、走馬灯のように駆け巡る
「今日から夏休みだろ? たまには、一緒に海に行くか?」
「え? いいの?」
「今夜はいい天気だ 綺麗なのが見れるだろうよ」
確か、父と船で海に出たっけ……
「はっ‼ と、父さん!父さんは⁉」
「それが……」
「行方不明? どういう事?」
「船ごと行方知れずになってな 漁師共々探したんだが……」
「そん……なぁ……」
遠くから声がする
「ヒロシ! ヒロシは、無事かえ⁉」
「か、母さん!」
こちらへ駆け寄って来ては、野次馬をかき分け、抱き上げた
「ヒロシ! 良かった!無事で本当に良かった!」
「この子の母さんかね? 面目ねぇ」
「父が……父さんが、船と共に行方不明なんだ……」
「なんだって⁉」
母さんは、海に向かって叫んだ
「シュンスケ~‼ お願いだから、帰ってきてぇ~!」
月明かりに照らされ、母の涙がキラリと光った
どこからともなくエンジン音、汽笛が鳴る
「その人集り! ヒロシは無事か⁉」
「この声は……」
「シュンスケ‼ どこ行ってたただぁ‼」
「済まなかった! 途中で落雷とエンジントラブルにあって
エンジンは復活したが、他の装置がやられた!
自力でヒロシを見つけようと、飛び込んでみたものの
この暗さだ、見つかりもしなくてな!
誰が見つけてくれたんだ⁉ 礼を言う、有難う」
「大したことねぇ 礼なら、ホタルイカに感謝するんだな」
『ホタルイカ⁉』
「漁の帰り、海を眺めてたら
こいつの周りを、青白く光らせててな」
「それって……」
「良かった! 本当に良かった!」
俺は思った
真っ暗闇の海の中、沈んでると思っていたのは勘違いで
ただただ流されては、ホタルイカの群れに助けられたのだと
父の船は、落雷による機械トラブルで通信が切れ
一時的に行方知らずになっていたと
その間も、懸命に海に潜っては、俺を探し続けてた事を
「みんな……有難う御座います」
青白く光る波は、サヨナラを伝えたかのように
月明かりの下の海へと消えていった
俺の、奇跡のような夏の体験
ー青く深くー
長い長い梅雨が明けた
空は晴天
入道雲が、夏の訪れを告げる
遥か遠くから雷が、蝉の声も追いかける
今年は暑くなりそうだ
夜になり、気晴らしに外を歩く
川沿いの道に、黄緑の光が舞い込んだ
ホタルか……
今年の夏は、良い年になりそうだな……
暫し余韻に酔いしれた
ー夏の気配ー