彼女と散歩中、突然、靴紐がほどけた
何か不幸の前触れか?
それとも、俺の身代わりになってくれたのか?
初恋の彼女との散歩道
この恋が実ればいいのに──
ー靴紐ー
雨の中を、ひとりきりで泣いていた
他に人は見当たらない
そこにいるのは、自分と、打ち付ける雨だけ──
俺は、たったひとりの肉親を、雨の中で失った
母が駆け落ちしたのだ
俺の事は邪魔だからと
必死に引き留める俺の手を振り切って
母は行ってしまった
打ち付ける雨の中
俺はひとりきりで泣いた、泣いた、泣き続けた
泣いたって、母は戻って来ない……
そんなこと、分かりきっていたのに
涙と、抑えきれない感情に押し寄せられ
雨の中で、ワンワンと大声を上げて泣いた
来年から中学生になる
泣いてる場合じゃないのに……
けど、止められないんだ、溢れ出してくるんだ
唯一の肉親を、母を引き留められなかった
俺自身の無力さに、心が砕けそうで──
雨の中で、自分の意識を必死で留めていた
母への愛情が、憎しみへと変わらないように……
ーひとりきりー
荒んだ心のフィルターから覗く俺は
酷く顔色が悪く、妙に痩せこけて
やる気も気力もなくなった
まるで、ムンクの叫びのような姿
夜中、柳の木下で
ヨロヨロ、ヒョロヒョロ
お化けのようにさ迷い歩く
何の脈絡もなく、何の宛もなく
ただその場に居るだけ
周りは、俺を空気のように扱い
居ても居なくても変わらない風貌で
目の前を通りすぎて行く
俺は、確かに実在してるのに
何のために生まれたんだ──?
ーフィルターー
俺には、夢があった
勉強できて、運動神経抜群で、誰からも愛される
そんな人になりたかった
毎日毎日人だかりで
「キャー!
アキラー!こっち向いてぇー!
キャー!カッコいいー!」
と、あちこちから惚れ惚れした溜め息が漏れてくる
そんなアキラの姿を日々見てると
『俺も仲間に入れて欲しい!』
と、思う時が、何度も訪れた
声をかけたかった
友達でもいい、知人でもいい、顔見知りでもいいから──
けど、できなかった
勉強はできない、運動音痴で、誰からも愛されない
『何を口実に話せばいいんだ?
何もかもが正反対の俺が、アキラの仲間になったって
アキラの面子が丸潰れになるだけじゃないか
俺には、仲間になる資格がないんだ……』と
毎日毎日、たった1人で昼食を摂った
それを見ていた周りからは
「フフッ
アキラとは正反対ね」
と、指を指されて笑われた
ある日、耐えかねた俺は
仲間になれないことを、母に相談した
けど……
「今更、何言ってるの?
もう中学1年でしょ?
そんなことより、進路を早く決めなさい
自分で考えられるでしょ?」
と断られた
母の言葉は胸に突き刺さった
したくてしてきたんじゃない!
正反対のこの屈辱を、この俺自身を
俺は、毎日毎日我慢して耐えてきたんだ!!
自分で考えても分からなくなったから、相談したのに──
俺は
『苛められてないだけ、まだマシか』
と、その後も1人で自分を励ましていた
ー仲間になれなくてー
傘も指さずに、雨に打たれながら佇む君
何をしてるのだろう……
声をかけようとしたら、君は振り返った
泣いていた
泣き声が聞こえないように
誰にも心配かけないように
迷惑かけないようにと
人気のな居場所を敢えて選び、泣いていたらしい
「どうしたの?
何かあった?」
居たたまれず、声をかけた
「いい
話したって、どうにもならないことだから」
君はまた、遥か向こうを振り向いて
声を殺して、再び泣き続けた
何も出来ない
その悔しさに苛まれ
悔やんでも悔やみきれずに、泣いてるのだろう
辺りの雨は、まるで君自身の心を映したかのように
暗く荒んで、荒々しかった
君の心に
希望の灯火となる晴れ間が訪れますように……
俺は、願うしかなかった
ー雨と君ー