星乃威月

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真夏の炎天下、砂のグラウンド

空は晴れ渡って、日陰が全くない

砂地の陽炎がユラユラと揺らめく


周りは大勢の観客に囲まれ

ザワザワと音が反響して聞こえた


至るところから、期待の視線が突き刺さる

足にも、熱が伝わる


熱い風が吹き付け、砂煙が立ち込めている

乾いた砂の匂いが、鼻を刺す

肌がヒリヒリして、汗でじっとり濡れる


目指すは、世界一の空

練習の時から愛用している棒

相棒を握り締めて、世界の天辺を目指すんだ


観客のざわめきが聞こえる

大勢の歓声が、次第に湧き上がる

手拍子が重なってゆく──


「行け!マナト!やったれー‼」


大声で叫ぶ、父の声がする

キラリと涙を流した母の思いを感じる


「世界を、取れー‼」


息を飲み、手を握り締めた観客

感極まった声が永遠に響き渡る

観客たちの思いに、胸が燃え、背中を押された


天高くそびえ立つ棒を越えれば、世界一

観客の期待に応えるため、家族の支援に応えるため

自身の栄光を塗り替えるため──!

意識を切り替え、一点集中に徹した


心臓が高鳴り、体全体に力が漲る


『飛べ!飛べ!飛べ!飛べっ‼』


棒を高々と掲げ、世界一の空を見上げた


「スタート……」


合図と共に、天へと向かって駆け出した


『走れ!足を、もっと速く!

 胸を突き出して、天に向かって!』


目の前の天高く聳える棒に向かって

俺は全速力で走り抜けた


『行け、行けっ、行け!行けっ‼』


勢い良く地面に棒を突き刺す

握り締めた棒をしならせ、体を捻らせる


『飛べ、飛べ、飛べ!飛べっ‼』


空高く掲げられた棒に、体が届いた


『越えろ、越えろ、越えろ!越えろっ‼』


どうなったのだろう……?

俺は、いったい、何をしてたんだ……?

確か……遥か高く、遠い空を、目指して

懸命に、懸命に、練習してきた……


──あれ……?

その後、どうしたんだっけ?


頭がボーッとする

思考が回らない

この暑さのせいなのか、疲れのせいなのか……

意識が遥か彼方へ持って行かれたかのよう


気が遠くなる、体が軽くなる

まるで、全身の力が抜けたかのような感覚

羽が生えて、空を飛んでいるかのような感覚に襲われた


遥か彼方で、誰かが呼んでいるのか……?


緩やかに、羽が生えたかのように、宙を舞っている

暫くの間、空高く、体がフワリと浮かんでいるようだった




ー飛べー

7/20/2025, 9:22:37 AM