ユキ

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11/20/2024, 4:34:55 PM

クリスマスの日に、わたしたち3人は集まっていた。宝物を見せ合おうって誰が言い出したのか。

美春は、リングを持ってきていた。ファッションのブランドメーカーのものだ。

沙恵は、私たちに写真を見せた。そこには何十冊ものノートが写っていた。「これさ、受験の時に勉強したやつ。捨てれんのよ」。

あんたは? とさいごにわたしの番だった。

わたしは立ち上がった。にこり、と2人に笑いかけてみる。

「はあ?」

美春は、テーブルの上に置いていたリングをバックに片付けながら、不審な声をあげる。

「わからないかな」

わたしは吹き出しそうになった。

「まさか、あんた」

沙恵の顔が真っ赤だ。

「そう! わたしの宝物はわたしよ!!」

その日以来、わたしのあだ名はナルシスになった。

ええ? 自分を好きになって自分を大切にするの重要なことじゃない? ただ、2人は、この日、「あんたの勝ちだわ」と、兜を脱いだのは確か。それは、呆れたという感じではなかったと思うけど。そして、ケーキの配分を大きくしてくれた。そ、それは、嬉しいような、いらないような。

11/19/2024, 10:32:22 AM

その日は、学校で友だちの咲と喧嘩した。わたしは悪くなかったと思う。咲がテストの点数のことで八つ当たりしてきた。まあ、いつもわたしの方が負けてたのに、合計点数、勝っちゃったんだよね。

大切な友だちもこうして失うのかなあ、と思うと、とても辛いものが込み上げてきた。でも、じゃあ、先と仲が良いためにはずっと先に負けていないといけないのかな? ばかばかしいよ。

わたしは、いつもは素通りする雑貨店に入った。こんなことをするのはたぶん頭が混乱しているのだ。行動もチグハグになってる。

食器や化粧品や帽子、エプロン、文房具まで置いてる。ざっと見ていると、アロマキャンドルのコーナーを見つけた。あ、これで、今日の夜、自分を癒そう〜、とちょっと気持ちが上向いた。

家に帰り、夜、お風呂に入って部屋に籠ると、早速、アロマキャンドル。火をつけるのがなくて、部屋を出て、お母さんに聞くと、台所の奥の奥からマッチとかいうのをくれた。付け方がわかんないので、それを擦ってもらい、持ってきていたキャンドルに火を移してもらった。

匂いはあまりしなかった。高いものではないからかな。でも、細い楕円の炎をみているのは、なんだか心が落ち着く。癒しだ。

と、スマホが鳴った。あー、雰囲気が。無造作に出ると、咲だった。

「今日は、ごめん……」

わたしは、こんど一緒にアロマキャンドルで癒されよう、と答えた。

11/18/2024, 3:54:39 PM

あれ? なんだったっけ。

別れを告げられたとき、何もかもがわからなくなった。

たのしい、たくさんの思い出、なんのためにあるのかな。

わたしは、彼のことは忘れて、生きるべきだ。

だけど、あの、やさしさが、たくましさが、笑顔が忘れられない。

どうしたらいいの?

わたしは、日々、働く。そのときは、なんともない。

家に帰って1人になるとき、わたしは、泣く。

死にたい……。

失恋は初めてじゃない。いつもこんな気持ちになる。がんばって!! わたしは、自分を勇気づける。

わたしは、ふと、自分の何が悪かったのか、を考えた。そして、自己嫌悪した。

でも、これを活かして乗り越えなきゃ。

わかってる。わかってるよ、わたし。ただ、今はきつい。しばらく無気力でいさせて。

明日は、会社の帰りにプリンを3個買おう。決めた!!

11/17/2024, 9:49:02 PM

愛菜ちゃんは、もう塾に来なくなった。

わたしは、学校に友達のいないわたしには、愛菜ちゃんだけが親しい人だった。

お家が大変だって。借金をお父さんが作ったって。

そんな世界、わたしには、わからなくて。彼女に会いたいけど、どんな顔をしたらいいの。

そうして、三ヶ月がたったころ。わたしは、アニメショップにいた。漫画の新刊を買うためだ。

レジに並んでいた。客は多く、10分ほど待った。

「いらっしゃ……、あ、玲衣?」

「あ……、愛菜ちゃん……」

レジの店員をしていた。

そしてわたしは、午後の遅い時間に、この店の前に来て彼女を待った。そういう約束をしたのだ。おつかれさまでしたーとかいう声が聞こえて、愛菜ちゃんがでてきた。

「おひさっ」

敬礼のように手を額にかざす愛菜ちゃん。わたしの目尻にジワリと涙が浮く。

「うん。ひさびさ」

聞きたいことはある。大丈夫なの? でも彼女の笑顔があんまりに眩しくて、何も言わなくていいような気にもなる。

ここから海が近い。わたしたちは、そこまで歩いた。海といっても堤防で柵をされて、水面は見えないのだけど。その堤防に上がって、2人は座る。そうすると初めて海が見える。

「勉強は順調?」

「うん……。第一志望に行けそう」

愛菜ちゃんは、嬉しそうに顔を綻ばした。

「愛菜ちゃんは?」

「学校はやめた。あたし、宙ぶらりんだわ」

わたしは、言葉が出なかった。ただ、運命、という言葉が出てきて、それを粉々にしたかった。

「でも、生きていく方法っていうのを考えるようになったよ。とりあえずYouTubeかな」

「え、するの?」

「いろいろ試してみる。人生、最初に転んだら終わりだなんて思いたくない」

愛菜ちゃんは、歴史学者になりたいと言っていたのを思い出した。ジャンヌ・ダルクを研究したいって。

「きっと、うまくいくよ」

わたしの声は震えていた。わからなかった。しかし、人生というのはどこまでも、わからないものなのでないか、と、思った。誰もが、より良いと思える道に賭けるしかない。恐ろしいと思った。そして……。

「人生、楽しくなっちゃった。こう、なにかをするのがさ。動くほどに、世界が見えてきて」

愛菜ちゃんには、何が見えてるのだろう? わたしは、自分がとても子供のように思った。彼女は自分で人生を切り開こうとしているが、わたしは何をしているだろう。

何かをしても、何にもならないような気がして、無気力に生きていないだろうか。それを、愛菜ちゃんと塾で話すことで発散していただけ。

「玲衣、人生、生きなきゃ。死ぬときに後悔してもどうしようもないんだよ」

彼女は、わたしをじっとみた。わたしは、勇気づけられたような気がした。

海の流れは、夕方に近い時間、うねりを激しくして、生き物のようだった。

11/15/2024, 7:53:00 PM

子猫のピドーが、わたしを先導していた。

時々立ち止まり、こちらを伺う。ついてきているのを確認すると、また歩き出す。

なんだろう、あまり良い予感がしない。わたしは、緊張のあまり喉がカラカラだ。

そういえば今日、学校で広田くんが、告白してきた。ことわった。彼が、いじめられっ子の宮木くんを、いつも言葉でディスってるの、自分ではどう思ってるのかな?

ピドーがこちらを向いた。ああ、はいはい、着いてきてるよ。わたしは、少し早足で子猫に近づいた。住宅街のなか、このままいけば小高い山の公園に差し掛かる。ピドーはそちらに向かっているらしい。

宮木くんとは、少し前、一緒に下校した。たまたま、かちあった。なかなか喋らない、シャイな子だけど、どうやら陶芸をしているらしいことを聞き出せた。へー、芸術なんだ! 威張ってる広田くんなんか殴り返せばいいのに。

にゃー。ピドーが、じっとこちらをみていた。公園の入り口だ。ふむふむ。まさか親猫に何かあったのではないよね? わたしは、その空想にありえないことではないと、覚悟して、ふたたび、子猫の跡を追った。

なんだか今度、個展をするとか? え、すごくない? うん、よくわかんないけど、ちょっとわたしの日常にはいないタイプ。喋り方もなんだか、小さな声だけど丁寧なのよね。相手を気遣ってるのがわかる。

今度は自分から現実に戻った。山を切り開いた平地に、ベンチがぽつん、ぽつん、と置いてある。
そこに、宮木くんが座っていた。

「え?」
「え?」
2人が同時に怪訝な顔をする。思いがけない邂逅だ。
宮木くんは、パッと目を逸らす。ちょっとショックだけどわたしは近寄って、こんにちは! と言った。彼は挨拶を返したようだけど何言ってるかわかんない。
急に立ち上がる宮木くん。そして、カバンを開き、何かを渡してきた。
「さ、さよなら!」
裏返った声をだして、走っていった。

渡されたのは、陶芸の個展のチケットだった。わたしは、顔が真っ赤になった。

子猫のピドーが、わたしの足にその白い体をなすりつけていた。

「あなた、不思議な子ね。これが目的なの?」

わたしは、ピドーを抱っこした。そしてあたまをなでて、ほおにほおを当てた。ピドーは、にゃあ、と鳴いた。

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