ユキ

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12/30/2024, 7:59:15 PM

『一年を振り返る』

このアプリで書くことも最初だけがんばった。続けることができなかったのは、お題というのが渡されて、自由に書けないことが大きかったのだと思う。物語を書いていたが、新しいお話を作り続けるのは大変だ。

しかし、お題が出るのがこのアプリだ。おかげで思いもよらなかったものが書けたりもした。

来年に向けて、アプリを整理していたが、これを消そうとして指が止まってしまった。なにか、気になるらしい。

……もう少し付き合ってみよう。

12/17/2024, 9:25:44 PM

『とりとめもない話』

看板に「住宅地のためここから先徐行」とあった。こんな看板前からあったけ?

自転車のわたしにはあんまり訴えていないのだろうけど。こうやって景観が貧しくなっていくのが嫌だな、ペダルを踏む。

この場所の公園で、佐竹とよくジュースを飲んだっけ。高校卒業したら会わなくなったな。

柵のある家を横目に、その公園にたどり着く。わたしは、自転車から降りた。

時間は止まっていた。何も変わっていなかった。砂場と鉄棒。古い時代に作られた小さな公園。遊具には錆が目立つ。

一つだけのベンチに座った。佐竹はよく、アニメの話をしたな。主人公のライバルが特にお好みだったけ。

大学に入っていろいろ忙しい。いや、楽しいから彼女のこと、忘れていた。たぶん、あの子もそうなんだろう。お互い、うまく行ってるのだと思う。

わたしは、ラインを開いた。卒業式のさよなら、またねで終わっている。

挨拶を書いて、消した。

まだ、まだ、その時じゃない。彼女は秘密兵器。とっても辛いときに連絡しよう。それをお守りにしたら、たくさん頑張れそう。彼女が守ってくれている。

思い出にそっと、よりそって、わたしは、自転車に乗った。ゆっくり行く。空気は冷たかったが、胸には温かいものがあった。

12/9/2024, 7:31:49 PM

「手を繋いで」

瀬戸くんは、わたしの横にいた。二人でデパートの中を歩いていた。エスカレーターに乗って、彼のお気に入りのアパレルショップを覗く。

喋らないでここまできた。なんだか怒ってるのか、不安だった。わたしは、片方の腕でもう片方を強く握る。その痛みで、心の不安がなくなればいいと思いながら。

わたしたち二人とも親が離婚していた。彼はお母さんが、わたしの方はお父さんがアルコールで身を持ち崩した。家庭内は喧嘩ばかりだった。だからなのか、お互いに愛していることをなかなか示せなかった。両親が自分たちの問題に大変で放っておかれた。そんなトラウマ。

ハッと目を挙げた。彼の目になにか、光が走ったような気がした。それは、鈍い迷いのある、懊悩のような。わたしは、父が黙って家を出て行ったことを思い出した。

「瀬戸くん……」

そして、おそれを言葉にできない恐怖。真実を知りたくない。真実なんて知らないのに。わたしはただ自分の腕を力一杯握り、俯いた。

瀬戸くんが不意にわたしの腕に触れたわたしは顔を上げる。

「ごめん、こうしたかった」

手を繋いでいた。そんなことも怖くてできなかった二人。

そして、彼は繋がったまま、恐る恐るぎゅってしてくれた。

いま、少しだけ二人の孤独が遠いものとなった。

12/8/2024, 12:37:11 PM

『ありがとう、ごめんね』

斉木は、昨日、故郷に帰った。親が病気をして、家業を継ぐのだ。わたしたちはがんばって、この町で生きてきたけれど。

「何個か売れた。いい記念だよ」
「斉木、どうにかならないの、わたしたち、これからなのに」
斉木のメガネの奥の目が、微妙に揺れた。そのレンズに、部屋の様子が曲がって写っている。壁に絵の貼ってある、画廊だ。
「親不幸、ばかりしてたからなあ」
「だって、やっと売れ始めたんだよ。続ければ、きっと」
あっはっはっ。彼は笑った。そして、背筋を伸ばす。背丈が190あるので迫力がある。
「そりゃあ、里菜、お前は結構、お客ついてるからな。リピーターもいる。おれは、ここいらが限界だよ」
「斉木……」
「もう売れない絵を画廊に飾ってもらうバイト生活も終わりだ。言っとくが、ちゃんと売れっ子にならないと、俺の方が金持ちだからな」
「もう。そんなこと……」
斉木が、とても真面目な顔つきになった。韓国のアイドルみたいな甘い顔立ちに、ちょっと、どきりってする。
「おまえ、その、な。…‥俺の故郷に一緒に来ないか」
「え」
そうすると大きな体をなんだか小さくして、そして片手を左右に振り始めた。
「いやいや、ごめんな!! お前はお前。がんばれ!!」
ありがとう、ごめんね。
「じゃあ、なんか食べていこう。明日に出発するんでしょ」
「じゃあ、焼肉なー」
「うん。行こう」


わたしは、かなしい。こうして、人の運命はそれぞれに変わっていく。彼の未来もわたしの未来も、だからといってここで決まったわけではないと思う。人はいつでも思いがけないものだから。部屋の中のイーゼルに立てかけている絵を、わたしはただ、じっと見ていた。

12/8/2024, 7:15:47 AM

『部屋の片隅で』

今日は天気が良かった。お財布を待って散歩へ出た。道端に咲く水仙やスミレが目を楽しませる。歩道橋を上がると、横のエレベーターから車椅子のお爺さんが出てきた。付き添いの女の人も。

おじいさんは顔を綻ばしていた。手にスノードロップの鉢植えを持っていた。その人は、わたしと目が合うと、にこりと笑ってその花をこちらに見せるようにした。

「きれいですね」

おじいさんはニコニコして、女の人は会釈した。そして、わたしも、頭を下げた。ふたりは、前へ進んだ。わたしは、なんとなく、彼らがある程度いくまで待っていた。

お花、いいね!! こんなに気持ちのいい日。花屋さんあったっけ? 何か買って、お部屋の片隅に飾ろう!!

なんとも素敵な気づきだ。わたしは、しあわせいっぱいだった。

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