「手を繋いで」
瀬戸くんは、わたしの横にいた。二人でデパートの中を歩いていた。エスカレーターに乗って、彼のお気に入りのアパレルショップを覗く。
喋らないでここまできた。なんだか怒ってるのか、不安だった。わたしは、片方の腕でもう片方を強く握る。その痛みで、心の不安がなくなればいいと思いながら。
わたしたち二人とも親が離婚していた。彼はお母さんが、わたしの方はお父さんがアルコールで身を持ち崩した。家庭内は喧嘩ばかりだった。だからなのか、お互いに愛していることをなかなか示せなかった。両親が自分たちの問題に大変で放っておかれた。そんなトラウマ。
ハッと目を挙げた。彼の目になにか、光が走ったような気がした。それは、鈍い迷いのある、懊悩のような。わたしは、父が黙って家を出て行ったことを思い出した。
「瀬戸くん……」
そして、おそれを言葉にできない恐怖。真実を知りたくない。真実なんて知らないのに。わたしはただ自分の腕を力一杯握り、俯いた。
瀬戸くんが不意にわたしの腕に触れたわたしは顔を上げる。
「ごめん、こうしたかった」
手を繋いでいた。そんなことも怖くてできなかった二人。
そして、彼は繋がったまま、恐る恐るぎゅってしてくれた。
いま、少しだけ二人の孤独が遠いものとなった。
12/9/2024, 7:31:49 PM