空はめっきり暗くなり
空気は冷たい
秋風は凪いだ
わたしは
ついに悲しみにいきついた
世界のさまざまな争いもそうだが
身近な人びともまた
兵器を使いこちらに攻めてくる
争いを望まないのに
なぜ戦争を仕掛けてくるのか
あの人たちに戦う強さなどないのだ
無抵抗な奴隷が欲しいのだ
すでに鎖に繋がれたものを
ぶつくらいができること
あの人たちのその傲慢さに気づいて
だからこそ
新しい春は
すっきりと立てるだろう
わたしは16歳だった。
いつもご本を買うお店の入ったビルがその日、解体されて新しく建て直されることになった。何年もかかる。
とつぜん、わたしには、居場所がなくなった。友だちもなく、高校生活を何で埋めたらいいのか。
わたしは、呆然と鉄の幕のかけられた、昨日までの楽園があった場所に突っ立っていた。
「よっ」
後ろから声がした。振り返ると、赤い帽子を被った転校生がいた。ジャンバーを羽織っていて、私たちの学校にいるような子じゃない。だから、とても浮いている子だ。
「あたし、ここいら、知らないんだよね。あそこのファミレスで奢るから、街を紹介してくれない?」
たじろいだのは確かだ。この子と話すと、学校でもっと変な目で見られるかも。でも、どうせ、いつでも1人だったじゃないか。わたしは、相手の目を見た。彼女は爽やかに笑う。わたしは少し泣きそうにそれでも笑顔を返した。
といっても、わたしもこの街は、先のビルばかりに行っていたので、何も知らない。
「どういうところに行きたいの?」
「んー、とりあえず本屋。ここにあるって聞いたのに……。ほかに、でかいのあるの?」
一応わかる。そして、案内して、本屋にたどり着いた。昔行っただけだけど道は覚えていた。
「ご本、読むんだ?」
「そうね。読まないの?」
わたしは、自分のバックに入っている文庫本を思い出した。誰もわたしに興味がないから、わたしが選ぶものもつまらないだろうと思っていた。でも、もしかしたら……。
「…………」
わたしは、文庫本の題名を言った。あれ、あの題名が思い出せない。
「好きなの?」
「え? う、うん」
相手は、何も言わずに、すっと本棚に向かった。ああ、そうだろうね、とあたしは思う。なにか、脱力感だけがあった。
「これ」
しばらくして、この子はハードカバーの本を持ってきた。
「これな? その文庫の作家がすげー影響受けた翻訳小説。これを読むと、その作家のこと少しわかるぞ」
わたしは、自分の表情がぱああと明るくなっていくことがわかった。
それから、わたしたちは、ご本の話題を、ずっとした。
相手は本当にファミレスで奢ってくれた。わたしは、ドリンクバーを頼んだ。相手はハンバーグだった。
「また、会える?」
わたしは、恐る恐る、聞いてみる。
「学校でも会えるじゃん。なんなら、放課後にも」
メロンソーダをずずずっと飲んで、わたしは胸をキュッと閉める奇妙で苦しい、でも幸福感のある衝動を、持て余すように、しかし、歓迎して感じていた。
わたしは16歳だった。
彼女はいま、大学で博士号を取るために頑張っている。
わたしは、ある企業で働いていて、いずれ独立するつもりだ。
あの日があったから、わたしは歩んで来れた。
歩道橋から、あえて下の道路を見る。
もっと体を乗り出せば落ちてしまう。地面にぶつかって、車に轢かれて。
そんなことを思い、妙にドキドキした中学生のころ。
スリルだったが、恐ろしいのも確か。
仲の良い友だちに話すと、「気が弱い」と笑われた。
釈然としなかった。
自分がおかしいのかなと悩み始めたきっかけだ。
でも、大人になってわかった。人は自分を基準にして話しているにすぎない。友だちの意見は、けっして、客観的で普遍的なものではないのだ。
だから、わたしは、何を言われても大丈夫。
飛べなくなったのは
ううん
もともと
羽撃けなかったの
空にいたかっただけ
地上がつらくて
飛ぼう
こんなわたしでも
飛ぼう
月の空。
唸るような風に
ススキがザワザワと。
人に迎合することが
生きる道だった。
流れの中で
丁寧に
さざめなくては
自分見失うことを
いまは思う。