子猫のピドーが、わたしを先導していた。
時々立ち止まり、こちらを伺う。ついてきているのを確認すると、また歩き出す。
なんだろう、あまり良い予感がしない。わたしは、緊張のあまり喉がカラカラだ。
そういえば今日、学校で広田くんが、告白してきた。ことわった。彼が、いじめられっ子の宮木くんを、いつも言葉でディスってるの、自分ではどう思ってるのかな?
ピドーがこちらを向いた。ああ、はいはい、着いてきてるよ。わたしは、少し早足で子猫に近づいた。住宅街のなか、このままいけば小高い山の公園に差し掛かる。ピドーはそちらに向かっているらしい。
宮木くんとは、少し前、一緒に下校した。たまたま、かちあった。なかなか喋らない、シャイな子だけど、どうやら陶芸をしているらしいことを聞き出せた。へー、芸術なんだ! 威張ってる広田くんなんか殴り返せばいいのに。
にゃー。ピドーが、じっとこちらをみていた。公園の入り口だ。ふむふむ。まさか親猫に何かあったのではないよね? わたしは、その空想にありえないことではないと、覚悟して、ふたたび、子猫の跡を追った。
なんだか今度、個展をするとか? え、すごくない? うん、よくわかんないけど、ちょっとわたしの日常にはいないタイプ。喋り方もなんだか、小さな声だけど丁寧なのよね。相手を気遣ってるのがわかる。
今度は自分から現実に戻った。山を切り開いた平地に、ベンチがぽつん、ぽつん、と置いてある。
そこに、宮木くんが座っていた。
「え?」
「え?」
2人が同時に怪訝な顔をする。思いがけない邂逅だ。
宮木くんは、パッと目を逸らす。ちょっとショックだけどわたしは近寄って、こんにちは! と言った。彼は挨拶を返したようだけど何言ってるかわかんない。
急に立ち上がる宮木くん。そして、カバンを開き、何かを渡してきた。
「さ、さよなら!」
裏返った声をだして、走っていった。
渡されたのは、陶芸の個展のチケットだった。わたしは、顔が真っ赤になった。
子猫のピドーが、わたしの足にその白い体をなすりつけていた。
「あなた、不思議な子ね。これが目的なの?」
わたしは、ピドーを抱っこした。そしてあたまをなでて、ほおにほおを当てた。ピドーは、にゃあ、と鳴いた。
11/15/2024, 7:53:00 PM