〈刹那〉
刹那的な快楽のみを重ねて享受し、
何も得ず、同時に無いものを失う。
指を弾くより短い間。
刹那を知り、笑え苦しめ笑い飛ばせ藻掻け。
〈明日世界が終わるなら〉
ぼうっと朧気な将来について考えて、尊大な夢の種を撒くのを躊躇っています。
心の奥底で、自分を諦めているのです。
どうせ、と、私の生まれは、と、金銭が、と……
なにかに毒されているのでしょうか。それすらも他責です。
しかし…………しかし、ね、終わりが分かるのなら、それを決められてしまえば、まあ、どうしたことでしょう、先のことの心配が、雲に絡め取られ、東へ去ってゆきます。
明日のことがどうでもよいのではありません。
今日がどうしようもなく惜しくなるのです。
私は、どうやらリアリストだそうで、例えばこのような状況を思い浮かべました。
学生諸君、あなたの学生という身分は、大概は期限がはっきりしているものです。積極的な意味で、その期限を延ばす方法は幾らでもあるのでしょうが、その未来を描き得ないと判断した場合、君、今の身分と時間を存分に有効活用し給え。学生の身分というのは、特別なものなのです。それを大事にしようと思う次第です。
〈不条理〉
子どもの時に、程良い不条理を味わっておくと、大抵のことは笑って見過ごせます。
なんて、若造が言ってるだけですがね。
あの筋の通らぬ大人の前で、自我も主体性も求められず、反抗という発想にも至ることが出来ず、只々上唇を前歯に巻き込んで噛み黙っておくことしか出来なかった。
その数十分の時間を、幾度となく繰り返したものです。
怒号が耳に染み付き、大きな声を出されたくらいじゃあ、怒られた気にもならない生意気な小僧が出来上がりました。
しかしね、怒鳴られても肩を震わすことはありませんが、いかにも厳粛な表情を作り出すことに長けますので、「確りと叱られ」ました。
このようにして、少々冷静さを欠く相手方との接し方を私の身体は覚えました。まだまだ「上には上がいる」でしょうが、ちょっとやそっとのことでは腹は立ちやしませんよ。
こんな人間はね、何を言われても、心中で丁寧に水を注ぎながら、ハイ、ハイといかにも大事のように頷けるのです。
〈冬は一緒に〉
今までの寒空はどんな色だっけな。
雨が降っていても、風が吹いていても、
あんたは私の隣にいたね。
そういえば、今年からは別々ね。
ずっと、学び舎から一緒に出て、マフラーに顔を埋めながら、ユラユラと歩いていたのにね。
近くにいるのは分かっているんだ。
数十分前にあんたが同じホームの地面を踏んでいたと知っているんだ。
でもね、寒空の下、一緒に暖かい飲み物を握りしめた時間を、もう一度過ごしたいよ。
〈もう一つの物語〉
あのとき、母に連れられて服を買うとき、母に渡された服を元の場所に戻して、自分の好きなものを買ってもらうことができたのなら、
あのとき、友の顔を一度浮かべてから、彼女への言葉を綴っていたら、
あのとき、自分に嘘をつくことなく、世間知らずで無いフリをせず、大人の言うことが全てだと思わず、経験者の言うことが全てだと思わず、自分の心に素直になっていたら……
今、どんな世界になっていたのだろう。私の世界は、違ったものであったのだろうか。
その世界は、真に後悔のない世界であるだろうか。